拡大期

管理会計から人事制度まで、組織基盤を整える~事業拡大期を支えるリーダー育成も同時実現

FSX株式会社(東京都国立市)
代表取締役社長 藤波克之/専務取締役 秋葉勝

東京の多摩エリアでのおしぼりレンタル業からスタートしたFSX株式会社は、“おしぼり文化を新しいおもてなしの創造”につなげたいと、挑戦を続けています。事業拡大の過程は会計や人事の仕組みづくりの課題が生じてきましたが、ハンズオン支援を活用して全社的に取り組みを進めました。経営から見た課題を社長の藤波氏から、実務をどのように進めたのかをプロジェクト統括の秋葉氏から、具体的にお話し頂きました。

(注:記事はお二人の話を統合して記載しています)
左から秋葉勝専務取締役、藤波克之代表取締役社長

――事業内容を教えてください

先代がおしぼりレンタル業を創業し、今年55周年を迎える会社です。おしぼりを回収して洗って、また納品するという取り組みからスタートしました。私自身、この仕事を小さい頃から見ていて面白いなと思っていたんですね。裏方の仕事だし、力仕事ではあるのですが、日本人でおしぼりを知らない人はいません。海外から見て「おしぼり文化」はとても高い価値があると感じましたので、新しい発想で商品開発やマーケティングができないかと思っていました。

日本のおしぼり産業自体は縮小傾向にあります。でも海外も含めて捉えるとオンリーワンの産業かもしれない。それであれば、自社だけの成長ではなくて同業の仲間たちにもノウハウを提供し、業界として発展していけないだろうかというのを十数年前から実は思い描いていました。

そういう背景もあり、2016年に会社のブランドを一新しました。前後して、新しいおしぼり商品、それに伴うデザイン、販売チャネルの拡大、通販サイトなどに力を入れています。まだ思い描いていた姿には遠いですが、少しずつ近づいているのではないかと思っているところです。おしぼりにかける情熱は誰にも負けないと思っていまして、固有の衛生技術を磨いたり特許をとったりと挑戦を続けています。また、管理システムを同業他社に展開するなど、パートナーシップも広げています。

ポケットおしぼり AROMApremium

――ハンズオン支援を活用した経緯や実態を教えてください

最初に中小機構のハンズオン支援を活用したのは2014年頃のことです。もともとおしぼりを作って配達するのが主事業だった会社なので、広報や開拓営業のようなスキルが整備されていませんでした。人事制度も整備されておらず、社内では人事考課に対する混乱も結構起きていたと思います。

そこで人事評価の仕方をどうしたらよいかと考え始めました。最初は人事コンサルティング会社に頼もうかと考えましたが、はたして自社に合うような制度になるだろうか。実直に汗水垂らしてきたような社風をきちんと理解してもらって、課題を一緒に考えてくれる人がいないだろうかということを優先的に考えました。そこで専門家派遣をして頂けるハンズオン支援を知り、当社にすごく目線を合わせていただける印象を受けたので、お願いすることにしたのです。

ただし実際は、管理会計の整備から始めることになりました。どれだけ人材に予算を使えるかを聞かれたのですが、そもそも当社は利益管理をやっていなかったのです。予算計画を作って人件費の割合をコントロールしていくような仕組みが必要だということで、この流れになりました。

当時総務部長だった秋葉が窓口で進めたのですが、管理関係の整備は育成のねらいも兼ねてメンバー10名くらいに参加してもらいました。各部門のリーダー格の人たちです。窓口が明確であることと、このように従業員参画型で行うことは活動の成功要件に合致していると、当時の中小機構のご担当者の方に言われたのを覚えています。

実際に管理会計を学びながら数字を整理していったのですが、どこで利益が発生しているか、どこに余計な費用がかかっているかというのが共通認識となり、各部署のことをリーダーたちが話せるようになったのはとても大きな財産だったと思っています。

数字が整理できてくると予算計画が立てられるようになってきました。そこで実は連続的にハンズオン支援を利用させていただき、5年間の中期計画を策定することにしました。5年先、10年先を見て経営するようにしていきたいと思っていたので、このタイミングで具体化しようと思ったのです。これもメンバー参画型でやりましたので、今、しっかりと理解した形で各現場をリードしてくれています。

――最近の人材関連の取り組みはいかがでしょうか

実は、最初に考えていた人事制度の改定は、まだこの時点ではできていませんでした。2005年ごろに作った制度を使い続けていたので、事業の変化に合わせた改定は早くやりたいと思っていたのです。ただ他の優先課題もあったりして、なかなか着手に至りませんでした。

どうしようかと思っていた矢先に、コロナ禍が起きました。事業の方はプラスマイナス両面がありましたが、社内で学びあうため時間を確保できたというのが一番大きかったかもしれません。この人事制度改定に着手しようと決めて、2020年に3回目のハンズオン支援を活用させて頂きました。そこから1年強、これも各部門のリーダーに出てもらって、月に2回、みっちりと協議時間をとりました。

もともと、何をすれば評価されるのかがわからないまま、皆が仕事をしていたと思います。会議では何でも経営情報をオープンにして、徹底して話してもらいました。そうするとやはり、会社のミッション・ビジョン・バリューというところに立ち戻ります。これからの組織運営に必要なバリューをリーダーたちに決めてもらったりしたのですが、全員がものすごく建設的に議論できるようになったのはとてもよかったですね。自分たちで作った制度だという意識も強いことでしょう。きちんと運用していこうという意識も強く、経営層とリーダー層の一体感も強まったと思っています。

社名変更した2017年頃からコロナ禍までの前は、何か焦りがあったかもしれません。新商品開発や海外展開をどんどん進めていましたが、従業員からするとやることが多すぎて混乱もありましたし、理解が及ばず経営と距離を感じていたかもしれません。この人事制度改定でいろいろな議論ができたので、ある程度ギャップが縮まったのではないでしょうか。

――今後の展望を教えてください

おしぼりの使い方をより広げていけたらよいと思い、いくつか挑戦をしています。1つは衛生向上への貢献です。毎年のインフルエンザの流行を見ながら、このウイルスの防御をおしぼりでできないだろうかと思っていました。それで研究者の方とご縁ができて開発したのが、「VB(ブイビー)」という技術です。VB加工したおしぼりで拭くことで、ウイルスや菌が付着するのを防ぐとともに、コーティングの役割を果たすことでウイルスや菌の働きを抑制します。新型コロナウイルスの感染拡大で、抗ウイルスへの注目が一気に高まりましたので、今後もこの領域は力を入れていきたいですね。

もう1つは、観光産業に注目しています。もともとおしぼりは、江戸時代の旅籠文化から始まっています。観光地でおしぼりのニーズを高めるなど、日本ならではのすばらしいおもてなしの一角を、おしぼりが担えないだろうかと考えました。そのためには観光産業に向けた商品開発やマーケティング、営業体制を作っていく必要も出ると思っているところです。

実は2019年頃は新しいことにチャレンジしつつも、なかなか形にしきれない時期でした。コロナ禍は社会的に大変な出来事でしたが、たまたまこのタイミングで人事制度を整備し、リーダー層が成長したのは、当社にとっては次につながる大きな基盤となりました。

一方で、人事制度は作って終わりではありません。今、各部署で1on1の面談が活発になってきていますが、一般層までミッション・ビジョン・バリューが浸透していく組織づくりには、もう少し時間がかかると思っています。リーダー層が主体的に動いていることには大きな手ごたえを感じていますので、きちんと体制を作りながら運用していきたいと思っています。

FSX株式会社本社外観

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