安定期

和菓子製造の生産性向上が、いつしかSDGs経営の実践へ

株式会社富田屋(大阪府富田林市)
代表取締役社長 細谷雄二

1966年に設立された老舗の和菓子メーカーである株式会社富田屋は、生産性の向上という経営課題に取り組む中で、中小機構のハンズオン支援(専門家派遣)を活用しました。その成果として注目されるのは、生産性アップという当初の目的だけでなく、環境に配慮した経営、そしてSDGs経営の実現が進んだことです。変革のプロセスや社内に起きた変化について、細谷社長ならびに品質管理部の菅原部長、総務部の鳴神部長にお話を伺いました。

(注:記事はお三方の話を統合して記載しています)
代表取締役社長 細谷雄二

――事業内容を教えてください

創業は1928年、大阪にあった公設市場で父がお菓子の販売していたのが始まりです。その後、私の代になり、1966年に大阪の住吉で自宅兼工場として会社を設立しました。卸売市場に並んだ竹輪やかまぼこの横で、魚箱に入れた和菓子を販売していたのが、会社の原点です。そこから地域のスーパーに置いてもらえるようになり、徐々に量販店様との取引が拡大しました。今は売上の約85%が量販店向け、残りは卸売市場への販売です。約40年前に現在の富田林市に工場を移して、和生菓子の製造業者として発展してきました。

富田屋の商品は、手頃な価格で気軽に食べていただける、四季折々の豊富なラインナップが特徴です。中でも「かしわ餅」は、通年で売れている一番の人気商品です。春のお菓子というイメージがあるかもしれませんが、通年で売り出したらニーズがあることが分かりました。他に、創業時からの定番商品「あんドーナツ」や鮎の形をした焼き菓子なども、ご好評をいただいております。新商品開発にも積極的に取り組んでおり、たとえば店頭で揚げたてを提供できるような冷凍商品も開発中です。一部の商品についてはオンライン販売もスタートしました。お客様に幸せな時間を過ごしてほしいという想いを込めて、安心安全な和菓子を作り続けています。

――専門家派遣の活用経緯について、教えてください。

今から約7年前、工場の生産性を上げていきたいと考えていた時に、取引のあった銀行から「中小機構が企業の経営課題解決を支援している」と、紹介してもらったことがきっかけでした。和菓子需要が伸び続ける時代でもないので、生産性は喫緊の課題だと思っていたのです。

何から着手してよいのかわからなかったのもあり、実際に相談に赴きました。そこで紹介されて活用したのが、中小機構のハンズオン支援です。豊富な経験を持つ専門家の方を派遣していただき、アドバイスを受けながら経営改善を図っていくというものでした。本腰を入れて取り組もうと、約1年間、ご指導をいただきながら生産性の向上に取り組みました。まず始めたのは、現状を把握するための情報集約と課題の整理です。そこで浮き彫りになったのが、大量の食品廃棄物でした。

発生していた食品廃棄物の排出量は毎月約22トン。こんなにも出ていたのかと正直驚きました。これを減らすことができれば、それだけで収益に結び付くことは明確です。そこで作業ラインの責任者とともにグループを作り、打ち合わせを重ねながら廃棄物の削減に向けた取り組みを始めました。

まずは、和菓子を製造する過程で発生してしまう廃棄物に削減目標を設定。また、製造上のミスや、原材料の日付管理が徹底されないことでロスが起きないような作業体制を構築しました。そして廃棄量をグラフで「見える化」することで日々状況を把握し、作業工程1つひとつのロス削減に努めました。実はロスになった分は産業廃棄物としての処理になりますので、処理コストもかかってしまいます。こうした取り組みを続ける中で、廃棄量の削減とコスト削減とを同時に進めることができたのです。

こうした変革は環境対応でありSDGs実践につながっていると思うのですが、最初はその意識がありませんでした。実際には廃棄量の削減が余計なエネルギー削減にもつながりますし、原材料の適正化が食料問題にもつながっていきます。専門家の方との議論などを通じ、生産性の向上を目的として始めた経営改善が、SDGsの項目と連動していることにも気づくようになりました。このことがきっかけとなり、環境に配慮した経営に取り組む意識が社内全体に芽生えていったと感じています。

――今回の取り組みによって起きた社内の変化について聞かせていただけますか。

まず、社員みんなで集まって打ち合わせをするような機会がそれまでは多くありませんでした。この取り組みによって社内で意見を出し合う風土が醸成され、以前よりも風通しが良くなったという声もよく聞きます。また、大きく変わったのは各班の班長・副班長を始めとした一人ひとりの作業意識です。廃棄物排出量をグラフで見える化したことによって、「自分たちの班はこれだけ減らすことができた」と日々実感できるようになり、それがモチベーションや働きがいにもつながるようになりました

そうした変化を受けて、働き方改革にも本格的に動きはじめました。「安心して長年勤続できる会社作り」を経営理念にも掲げ、育児休業や有給取得についての制度と目標を策定しています。昨年には、残業時間を短縮しようと呼びかけたところ、すべての班で前年を下回る成果を出してくれました。減った分は賞与として還元したことも大きかったと思います。無論、前年比だけで指標を管理していくと、どこかで限界が来ます。より生産性が高い方法、より働きがいがある取り組みに向けて、今後も知恵を出していきたいと考えています。

こうした取り組みは、SDGsの目標8「働きがいも 経済成長も」に該当するものだと思いますが、最近はSDGsの各項目を意識し、向上させていこうという意識も全体的に高まってきました。生産性の向上というきっかけから、産業廃棄物の処理にかかる費用削減や原材料の徹底管理、職場の活性化、労働時間の短縮といった多方面へと良い波及効果が生まれているのを感じます。

――今後の展望を教えてください

SDGsを意識した取り組みは今後も継続していきたいと思っています。17の目標に対して、どこまで達成しただろう、他に達成していない目標をどう取り組んでいこうかという話が従業員からもあがってきますし、あのカラフルなマークを1つでも多く掲げたいと楽しんで取り組んでくれています。社内で自然とこういう話が出てくること自体が、とても嬉しいですね。

また事業面では今、商品ブランディングの方向性についても検討中です。パッケージも含めて、手に取っていただけるデザインにこだわっていきたいと思っています。経営戦略として、低価格で勝負をするのか、それとも美味しさやブランドを追求していくのか。こうしたこともみんなで話し合って進めていくつもりです。

しかしながら、今直面している深刻な問題が、原材料の高騰です。価格転嫁にも限度があり、一方的な値上げはお客様離れにもつながってしまいます。当然、私たちだけに限った話ではありませんが、難しい判断が必要とされる苦しい状況が続いています。ただ、こういう時こそ工夫が生きるはずです。これまで培ったノウハウを活かし、会社全体で一丸となってどう乗り越えていけるか。数々の目標を達成してきた私たちなら、きっとできると思っています。

株式会社富田屋外観

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