承継期

第三者承継が事業に新たな息吹を吹き込む~新潟発の米粉スイーツを、世界を視野に入れた展開へ

アトリエミーマ/株式会社Glocal(新潟県新潟市)
アトリエミーマ 武石洋子/株式会社Glocal代表取締役 山谷真

新潟で米粉スイーツを販売していたアトリエミーマの事業は、越境ECを軸としながら発展してきた株式会社Glocal(グローカル)へ。仲介支援を経て、第三者承継が成立しました。双方がどのようなきっかけで事業引継ぎへと関心を持ち、実際に成約に至ったかを、当事者であるアトリエミーマの武石様、Glocal社長の山谷様、そして事業承継・引継ぎ支援センターの和田様にお話を伺いました。

左から、アトリエミーマ 武石洋子、株式会社Glocal代表取締役 山谷真、新潟県事業承継・引継ぎ支援センター 和田祐磨

――事業引継ぎの概要を教えてください(新潟県事業承継・引継ぎ支援センター・和田様)

今回は、米粉スイーツを作っていたアトリエミーマ様を、Glocal様へと事業引継ぎされた取り組みです。アトリエミーマで販売していた武石様のスイーツは、新潟県産の素材をつかったもので非常にお客様から好評でした。しかし体調や年齢のことを考えて事業継続に不安が生じたため、もともと事業を始めるときに、にいがた産業創造機構の相談を活用された経緯があり、当センターに相談に来られたのです。

アトリエミーマ様のお菓子は他では味わえないようなおいしさがあり、かつ米粉100%のグルテンフリー食材です。この事業なら必ず譲り受けたいと思う先があるだろうと思い、希望する会社探しを始めました。

譲渡先に名乗りをあげてくれたのが、Glocal様です。金融機関の紹介で出会いました。越境EC事業で拡大を続けている会社で、山谷社長ご自身が困っている会社の譲り受けに意欲的だとお聞きしました。話をもっていったところ、地産地消の商品であり、グルテンフリー食材でもあるということ、EC販売事業との相性もよいということで魅力を感じてくださいました。結果的に、約半年で成約が決まった次第です。

Glocal様はグローバルに事業も展開されています。アトリエミーマ様だけでは届かなかった日本中、あるいは世界中のお客様層に、発信していくことも現実味を帯びてきました。何年かの先には、新潟を代表するようなスイーツの1つとして広まっていくのはないかという期待をもちながら、今回の契約を進めさせて頂きました。

――事業開始の背景と、事業譲渡を考えられた経緯について教えてください(アトリエミーマ・武石様)

米粉スイーツをつくりはじめたきっかけは、娘の小麦アレルギーです。家で使っていた小麦粉はすべて米粉に変え、お菓子類も米粉で作るようになりました。友人・知人たちに配ると好評で、これを仕事にできないだろうかと思ったのが事業を始めた経緯です。たまたま使える場所があったので、注文受注生産の形で販売し始めました。

ご縁がある人に心を込めて作る規模でやっていこうと思っていたのですが、事業開始から間もないうちに、いくつかの機会をいただきました。たとえば試食をしてくださったことが縁で、新潟の伊勢丹デパートにコーナー出店したことがあります。その時、〆張鶴という地元酒造の日本酒を使ったスイーツを開発していた時でしたので、その蔵元さんと一緒にプロモーションしました。また、新潟商工会議所が開催したフードメッセへの出店機会を頂いたこともあります。その時には日本酒以外に、新潟県村上市産のお茶を使ったスイーツも開発しており、地元食材の利用もお声がけにつながったところがあります。

こういう出店をするとかなり多くの方が立ち寄ってくださるのですが、最終的にバイヤーの方々から聞かれるのは「どれくらい生産できるのか」ということです。たくさんいいお話を頂いたところで、どうやってそれを実現していこうかと考え始めました。

しかしその矢先、体調を崩して仕事どころではなくなってしまいました。治るには時間もかかりそうです。できれば望んでくださる方にスイーツは届け続けたいので、どうしようかと考えて産業創造機構に相談に行ったのです。

実は、事業承継というのはある程度の規模がある会社の話だと思っていたので、私のような事業形態でもあてはまるとはイメージしていませんでした。しかし、知人からも、事業承継の相談窓口に行くとよいと言われましたので、そういう選択肢があるのだと思って足を運びました。

――第三者事業承継について、またアトリエミーマ様に関心をもたれた背景について教えてください(Glocal・山谷様)

当社はもともと私の父が興した会社で、電子回路の設計などを最初は行っていました。しかしだんだん経営が厳しくなり、2018年に私が株式取得する形で承継して立て直しをはかりました。私自身は個人事業主として2014年にアメリカ向けの輸出事業を開始していたので、この越境EC事業を拡大する形で経営改善に取り組んだのです。事業統合後4年で繰越欠損金の解消および、財務状況の正常化ができました。

越境EC事業はAmazonやeBayを通じた輸出が中心ですが、そこから発展して物流事業も手掛けています。さらに越境ECのノウハウを伝える教育事業も行っています。さらに元々の電子回路設計事業も並行して回復してきました。

Glocalという名の通り、グローバルとローカルと両方に目を向けて、事業を広げています。たとえばローカルの方では不動産事業を昨年から始めたのですが、これは地域課題に焦点をあてて、空き家をリノベーションして貸し出すものです。

そうした流れの中で、事業引継ぎを考えている地元の事業者がいればご支援したいと関心が向くようになりました。イメージしていたのは、我々のような業態の会社が関わることで、何かしらプラスに転じる可能性がある先です。探している中でアトリエミーマさんの事業に出会いました。

実際に食べさせて頂くと本当においしく、他にはない特徴があるのもすぐわかりました。武石さんが今まで力を注いできたところも、いろいろな事情で対応しきれなかったところも伺い、可能性の大きさを感じました。さらに注目したのは、将来アメリカに輸出できるのではないかという観点です。Amazonのようなプラットフォームに載せれば、日本全国へももちろん届けやすくなります。商圏を拡大し、魅力を広く伝えつつ、事業の成長もはかれるイメージが持てましたので、この話をぜひ進めていこうと思いました。

実は食品をアメリカに輸出する場合、アメリカの厚生労働省にあたるFDAというところの承認を取る必要があります。はじめての人にはかなり面倒な手続きですが、これまで輸出を手掛けてきた当社であれば、きちんと手続きを進め、プロモーションをかけられるようになると思いました。

先日契約が完了しまして、名前をCoco sweetsと新たにしました。武石さんからは好きに展開してよいと後押しを頂いたので、新たなブランドで始めたところです。今後武石さんにはアドバイザーのように関わって頂きつつ、当社のスタッフが同じ味を作っていけるように、今シフトし始めているところです。

――事業引継ぎを確定し、完了するまでの心境はいかがでしたか(アトリエミーマ・武石様)

実は最初にお会いして以降は、さほど頻繁に会ったわけではありません。事業承継・引継ぎ支援センターの和田さんがその間を丁寧につないでくれて、成約まで至ったと思っています。

一方で、1つ共同でイベント出展を目指したことが、結果的に距離をぐっと縮めた気がします。ちょうど事業引継ぎの話が出始めた頃に、新潟市が主催するマルシェへの出展のお話があったのですが、山谷社長に相談したら「やりましょう」との返事で、共同参加することにしました。準備が2ヶ月ほどしかなかったので、急いで出展するための商品をGlocalの方々と作りこんでいきました。ですので、出展準備を勢いよく進めていたら契約まで完了したという感覚かもしれません。イベントまでの期間、Glocalの皆さんが本当に協力的で、皆で気持ちを一つにして目的に向かっていけたのが契約へもつながる後押しになったと思っています。お互いの信頼感が大いに深まりました。

ただ1つこだわりたいのは、きちんとしたレシピです。添加物を使わないことにこだわりつつ大量生産に載せていくためには、まだ研究が必要です。輸出が本格化し、FDAにおける認証の問題が出たとしても、妥協せずに規格に合う新潟発の米粉を工夫し続けていけたらと思っています。これが私の最後の夢になるかもしれません。山谷社長は、「アフリカの子ども達まで届けましょう」と言ってくれました。先々が楽しみだと思っています。

私自身はやはりスイーツを作るのが好きなので、今また新しいレシピに取り組み始めたところです。今後の展開はGlocalさんにお任せしつつ、その大きな構想に、私も乗せていってもらえたらなという思いです。

――第三者承継の魅力と難しさについてはどのように捉えていますか(Glocal・山谷様)

まずマクロ視点で考えると、やはり全国的にご自身の立ち上げた事業を継ぐ人がいないケースは増えてきていると思っています。一方で、たとえば青年会議所などで見聞きする状況からすると、事業承継を第三者にしている例は1%以下ではないかという感覚を持っています。しかし、今回の経験で、第三者による引継ぎが可能性を広げることも多々あるのではないかと思いました。早い段階で会社の形がどうあるのがよいのかを考え、第三者の道も考えていくべきだと思います。

一方ミクロ視点で考えると、どういう事業をやっていてもハードルがないことはあり得ないと思っています。つまり、事業引継ぎで起きるハードルは、特別高いというわけではないわけです。M&Aを結婚になぞらえることがありますが、成婚を目指すなら思いやりも必要でしょうし、相手の気持ちをくむことも求められるでしょう。おそらく当社のメンバーは相手を思いやる気持ちをきちんと持っていますので、武石さんと一緒にイベントに取り組んだときにもうまくいったのかなと思っています。

――今後の展望について教えてください(Glocal・山谷様)

アトリエミーマでやっていた事業については、今改めて動かし始めています。武石さんが入院した期間に、せっかくのいい話が止まっていたものもありました。取引先へのご挨拶などからはじめ、武石さんがもともとやりたかった展開をきちんと形にしていくところをファーストステップとして取り組んでいます。

そして将来的には先ほどのとおり、ECサイトを使った販売へと展開し、いずれは海外へと考えています。

実は、創業期からの事業は、私が引き継ぐ頃には傾きかけていました。ここを立て直したのが私の1社目のM&Aだと思っています。そして今回は身内ではない事業を預かり広げるという、ポジティブな機会に巡り会いました。当社はずっとチャレンジし続ける会社でやってきましたし、まだまだ新しい領域を切り拓いていきます。

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