変革期

ゴルフ練習場が地域社会の発展に貢献する~デジタル化を含めた最適経営の推進で、事業成長をつくりだす

株式会社ウィルトラスト(茨城県水戸市)
代表取締役 礒﨑博文

茨城県内で、2つのゴルフ練習場運営をはじめ、ゴルフ練習場の運営やM&Aサポートを手がける株式会社ウィルトラスト。ゴルフ人口が減少する今、ゴルフ業界に必要なのは全く新しいチャレンジだという強い想いで練習場の仕組みを大幅にリニューアルしました。ゴルフ業界全体を見据えたビジョン、そして最適経営への考え方について、代表取締役の礒﨑博文さまにお話を伺いました。

代表取締役 礒﨑博文

――事業内容を教えてください

ゴルフ練習場「ロイヤルグリーン」の運営を中核としながら、ここで培ったノウハウをゴルフ練習場の経営コンサルティングやゴルフ業界に特化したM&Aサポートへと拡げているところです。私たちは従来のゴルフ練習場の概念を大きく変換するところにチャレンジしてきました。ゴルフ練習場はホスピタリティと密接に関わる事業であり、また、アイデアをいくらでも盛り込める領域だと考えています。

実は私自身は、他業界からゴルフ事業に参入しました。約10年前に多重債務を抱えていたゴルフ練習場を買収し、事業再生に取り組む形でスタートしたのです。前職はIT業界にいたこともあり、IT技術の導入をはじめとした工夫を重ねていけば十分再生できると思っていました。結果、7~8年かけて債権処理は完了することができ、そこからようやく、思っていた方向に進み出しています。

そして水戸店2022年4月に、まだゴルフをやったことのない若い人たちにも興味を持ってもらえるようなエンターテインメント施設をつくろうと、コンセプト全体からリブランディングしIT技術も導入、単なるゴルフ練習場から「Golf & Entertainment空間」としてリニューアルオープンしました。

これから目指したいのは、自社にとどまらずゴルフ業界全体の活性化です。今、ゴルフ業界はゴルフ人口の減少という深刻な問題を抱えています。ゴルファーの平均年齢が約60歳と言われている中で、日本人の健康寿命は約70歳。あと10年もすればゴルフ人口は一気に減少し、ゴルフ場利用税の減収によって地方経済に影響を与えることが懸念されます。

それを打開していくには、新しいゴルファーの創出が必要です。我々のようなゴルフ練習場は、ゴルフ人口の裾野拡大ができる役割を担っています。そのためには多くの人がゴルフを気軽に楽しめるような工夫が非常に大事であると考えました。もちろん自社のビジネス拡大にもなりますが、ゴルファーが増え、ゴルフ場利用税が増え、それが地域経済の発展につながるような流れをつくっていきたいと考えたのです。

――デジタル化を進められた背景、また導入したIT活用について教えてください

ゴルフ業界に限らず日本の企業にとって、デジタル化の推進は大きな課題だと思っています。中でもゴルフ業界は、バブル期に最盛気を迎えたビジネスモデルのまま進んできているケースがほとんどで、他産業よりも遅れていると言われています。
技術革新の最先端を走るアメリカと比較すると、大幅に遅れているのではないでしょうか。だからこそ、IT活用による伸びしろは大きいと考えました。ITを通じたマーケティング活動や、効率的な予約の仕組みづくりなど、できることがたくさんあると考えたのです。

新しいゴルファーの創出に向けて、まず取り組んだのがゴルフレッスンスクール事業の変革です。ゴルフ練習場では、月額いくらで月に決まった回数や曜日でレッスンを受けられるというモデルが主流でした。しかし、とにかくたくさん練習したいお客様や、自分の好きなタイミングやスケジュールでレッスンを受けたい方も非常に多いのです。そこで、月2万円(税別)でレッスン受け放題、さらに練習し放題という内容に変更しました。ゴルフはきちんと予定を立てて取り組むものだというイメージから、毎日でも通えるモデルに変えたのです。

このモデルを実現させるためには、従来の紙による管理ではとても対応できません。スクール事業の変革は、予約システムとそれに連携した顧客管理システムの導入とセットで進めました。あわせて、オンライン決済システムも導入することにしました。これだけ世の中でネット予約やキャッシュレス決済が広まっていますので、顧客視点から考えた利便性が不可欠だと思ったのです。

システム開発に際しては、IT導入補助金を活用しました。いずれ開発をしようと思っていましたが、補助金が使えたことで、短期間で3つのシステムを一気に構築できたのが有効だったと思っています。具体的には、AnotherShotGolf株式会社のゴルフ業界特化型ITアプリケーションを使うことにしました。業界の特性を踏まえた予約管理やレッスンカルテの管理業務システムが備わっていて、かつ、私の思う形につくりこめるというところにも理解があったからです。SaaSモデルなので、完成形を最初から目指すというより、ローンチしてからも順次アップデートしていけるのもよかった点です。

オンライン予約の利便性に対しては、利用者の方々から高い満足度を頂きました。スクール生は3倍以上に増加、継続率も大幅にアップしています。また、メッセージ機能を使うと、スクール以外の時間帯例えばゴルフのラウンド中でも、スクール生がリアルタイムにチャットでコーチに質問できます。疑問をそのままにせず、すぐに解決できることで、成長のスピードも速くなります。

――導入後の様子と、その他の取り組みに関してもお聞かせください

リニューアル後は、本当に幅広いお客様にご利用いただいています。これからゴルフを始めたいという方から、もっと長くゴルフを続けていきたいとお考えの高齢の方まで様々です。

既存の利用者は高齢の方も多かったので、ITツールの導入に不安を感じる方もいらっしゃいましたが、徹底的にサポートしました。丁寧にお1人ずつご案内をすれば「意外と簡単にできるのか」とわかって頂けて、その後はどんどん使いこなしてくださっています。スタッフたちも同様です。ITツールを導入すると嫌がられるのではないか、説明が難しいのではないかと心配する者もいましたが、チャレンジしていこうよと丁寧に話をしました。
今は、予約管理のヒューマンエラーもなくなったり、スクールの連絡をアプリで一斉に送信することができたりと、業務の効率化を感じてくれているのではないでしょうか。得意なスタッフが率先してマネジメントしていく仕組みを作り、私も現場に入りながら進めていきました。

ゴルフ人口を増やしていくためには、「ゴルフが上手くなるって面白い、ゴルフ練習場はこんな楽しみ方もできるんだ」というブランディングをしていくことが欠かせません。そこに役立つのも、やはりIT技術の活用だと思っています。
「トップトレーサー・レンジ」という最新の弾道計測システムを導入し、バーチャル空間で世界中の実在するゴルフコースでのプレー体験もできるようになりました。
ITがもたらす可能性はまだまだ広がっていると感じています。

さらに、お客様の行動データが蓄積されていきますので、それをマーケティングに生かすシステムも開発中です。1か月で何回来店しているのか、チャージはいくらしてくれているのか、何曜日のどれくらいの時間帯が多いのかといった行動履歴を分析していくと、次の打ち手が見えてきます。たとえばお客様の少ない曜日や時間帯に来てくださる層を特定して、プッシュ通知するような取り組みができれば、利用率が上がっていきます。いずれは同業他社にも展開し、全国の練習場のビジネスにも貢献できるのではないかと思っているところです。

――今後の展望を教えてください

ゴルフ練習場は装置産業だと言われてきました。つまり、コインランドリーやコンビニのように、たまたま近くにあるから利用される業態で、マーケティングは必要ではないという見られ方です。しかし、そんなことはありません。新たなイベントを企画したり、スタッフの接客を向上させたり、ユーザビリティを改善することで、遠方からでも集客できる形にしていくことは間違いなく可能です。

今、ゴルフの屋外練習場は全国に約2,400場あると言われています。ただし、昭和40年代から平成3年頃、すなわちバブル崩壊直後までに開発された練習場がほとんどで、当時のオーナーは現在70~80歳になろうとしています。世代交代のタイミングというだけでなく、施設の老朽化が進み莫大な投資が必要になることから、廃業を選択する方も多いのが現状です。

ゴルフ業界の未来にとって、ゴルフ練習場が減っていくことはマイナスでしかありません。我々は、そうした経営者の方々に「練習場はITとマーケティングによって可能性が広がるビジネスだ」ということをお伝えし、課題を一緒に解決する経営サポートも行っています。また、状況によっては当社で業務委託を請け負うことや、M&Aという選択肢も対応していきます。

自社での取り組みが軌道に乗ってきて、進めている方向が間違いではないことの手ごたえが得られてきました。今後はもっと視野を広げて、ゴルフ産業が地域の雇用や経済発展に貢献し続けられるよう、さまざまな形で関わっていけたらと考えています。

ロイヤルグリーン水戸正面

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