安定期

コスト体質の改善を機に、付加価値を利益に変えられる企業へと進化~サバ専門の水産加工会社

合同会社マルカネ(青森県八戸市)
合同会社マルカネ代表社員 秋山兼男/合同会社マルカネ 西尾優子

合同会社マルカネは、青森県八戸市で事業を営むサバ専門の水産加工会社です。高水準の技術を生かして順調に売り上げを拡大していましたが、原料のサバ漁不漁による原料費乱高下などを背景に、利益が出にくいという課題を抱えていました。そこで活用したのが中小機構のハンズオン支援です。創業の経緯や支援を使った経営体質改善のプロセスについて、代表の秋山様と、ハンズオン支援に参加された西尾様に話を伺いました。

(注:記事はお二人の話を統合して記載しています)
中央:合同会社マルカネ代表社員 秋山兼男、左:合同会社マルカネ 西尾優子

――創業の背景と事業内容について教えてください

当社は東日本大震災後の2011年7月に創業した、サバ専門の水産加工会社です。震災前に代表の私自身は、八戸市の別の水産加工会社の営業として東京で勤務していました。しかし震災で会社も被害を受け、営業所は閉鎖。私も次の職を探していたのですが、当時のお客様から「新しいサバ加工品の供給元がないか」という相談を受けたのが立ち上げのきっかけでした。

最初に相談を受けたときには、どこかの会社を紹介しようと思っていくつかつてをたどりました。しかし皆、震災の影響で、事業状況に変化が出ていました。探している中で、場所も原料も人もあるが売り先がないという工場があるという話を聞き、それだったら事業化ができないかと考え始めたのです。前職で同僚だった工場長も合流することになり、この工場に技術指導をして、以前の取引先向けの生産を開始しました。

この取引先は大阪の会社で、サバ寿司に特化して百貨店等で催事販売しているような会社でした。最初に取引先があったので、スタートダッシュは早かったと思います。「とにかくやろう」という震災からの再生マインドでどんどん取り組みました。

商品としては、シメサバや焼きサバの生産からスタートしました。取引先が品質へのこだわりは高く、どのようにおいしくするかには前職の時代のノウハウが生きました。ただし、ある時に品質のことでクレームがあり、そこで製造方法を再考しました。機械での生産をしていたのですが、取引先の飲食店が求めるレベルは手作業でないとできない点があります。そこで、いかに手作業で高い生産性を実現できるかということを考えました。導入したのがトヨタ生産方式です。工場長が以前から実践してみたいと構想を練っていたこともあり、今現在も当社の強みとして根付いています。

お客様の業績向上にともない、生産量も売り上げも伸びてきましたので、独立して自社工場を借り、運営することにしました。創業から約2年経ったころのことです。

――経営体質強化に向けて、ハンズオン支援を活用した経緯を教えてください

事業は軌道に乗ってきていましたが、1つの課題は、原料であるサバの水揚げ量が毎年大きく変わることでした。原料費が乱高下してしまうのです。そこで、原料費をカバーするために直販部門を作って販路を広げ、商品開発を続け、売上拡大に力を入れました。確かに売上は上がったのですが、振り返ると売上至上主義になっていました。固定費の増加や販路拡大ノウハウ不足等で、売上が伸びても利益が伴わないという状況が生まれてしまったのです。

今思うと、コスト構造が理解できておらず、かなり乱暴な経営をしていたと思います。それを相談する人も当時はいませんでした。状況を見かねた取引先金融機関の方が、中小機構の専門家派遣事業を紹介してくれたのが、ハンズオン支援を活用するきっかけでした。

活用すると決めたあとは、専門家の方が当社の経営に密着し、ゼロから相談に乗ってくれました。本当に手取り足取りという形でスタートしたと思います。毎月2回の来訪時にいろいろと教えてもらいつつ、間の期間に自社内で宿題の対応を進めました。

最初に取り組んだのは、会社のコストの見える化です。変動損益計算書の活用は、非常に勉強になりました。伴走してくださった専門家の方には、実は今もお世話になり続けています。うまく話を引き出してくださり、ステップを細かく区切って次に進めるようにサポートしてくれたのが非常に助けになりました。第三者目線で指摘していただくことも、すべて私たちの貴重な気づきとなりました。1期目にコスト構造を整理し、自社内でPDCAを回せる体制を整えました。そして2期目には新たな販売チャネルの強化や中期計画策定を行っています。

――取り組みを通じてどのような変化が起こりましたか

特に気づきを得たのは「商品の付加価値をきちんと作っていくこと」と「根性ではなく戦略で経営すること」です。

飲食店が提供する水準のサバ加工ができるのが当社の強みです。当社独自の加工技術を用いることで、おいしさにはかなり自信がありました。ハンズオン支援が始まってしばらくしてコロナ禍が起きたのですが、この時の方向性は、付加価値を意識し、かつ戦略的に取り組めたと思います。

まず、飲食店への需要が大幅減となった影響を最小限にとどめられるよう、固定費の圧縮には迅速に取り組みました。粗利が低い部門の閉鎖や、工場の集約化をしています。一方で、新しい販売チャネルとして小売業の方へ目を向けました。実際に商品を食べて頂くと、通常のシメサバとは全く違う質感だということで好評を頂き、スーパーマーケット向けの需要を大きく拡大することができました。独自の製法で作る専門店ならではの味も好評で、中食需要の拡大に伴い、新たな売上の柱にすることができました。

こうした経営判断をしていけたのも、変動損益計算書などに基づいて、商品・売り先・ニーズをきちんと分析しながら進められたからだと思っています。付加価値を生かした訴求をしていくきっかけにもなりました。原料の変動やコロナ禍が続き、一気に改善とはいきませんでしたが、手を入れたら数か月後に成果が出るようなサイクルが定着してきました。

また、社長がひとりで経営を考えるのではなく、現場で進捗管理できる体制にできたことも大きな成果だと思っています。現在も「PDCA会議」として定例で行っています。問題を持ち寄り、みんなで考えて解決することで自分事化も進みましたし、一人ひとりの成長も大きいと感じています。

――今後の展望を教えてください

ここまでの一連の支援で、コスト構造をしっかりと理解して、先手の対策が打てるようになってきました。実際に利益を伴った経営も実現できるようになり、自分たちの強みを生かしていけば「なんとかなる」という自信にもつながりましたね。

小売りでの反応の良さを聞くことで、他社では真似できない技術で差別化を図る戦略も少しずつ実践できてきたように思います。マーケティングやブランド価値という点にも意識を向けて、ぜひオンリーワン企業を目指していきたいと思っています。

現在は、地元のお土産品となる商品製造や地元ワイナリーなどとの共同開発商品も進めています。これまでにない新しい販路が広がりそうですし、高付加価値商品として展開できると思っています。こうした地元との連携にも力を入れ、地域に貢献できる企業として発展していけたらと思っています。

マルカネ新湊第一食品工場外観

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