安定期

組織拡大を支える人事制度を構築~社長1人の評価から組織的な運用へと進化

株式会社okicom(沖縄県宜野湾市)
代表取締役 小渡玠

沖縄でシステム開発、保守・メンテナンス等を担う株式会社okicom(オキコム)は、数名での創業から始まり、50人、100人と従業員規模が拡大してきました。人数が少ないころには、社長が1人で全員面談による評価をしていましたが、だんだんそれでは間に合わなくなります。そこで、めざしたのが自社に合う人事制度の構築です。市販のパッケージを入れるだけではなく、自社に合った制度にするためにはどうしたらよいのかを考えてこられた過程を伺いました。

代表取締役 小渡玠

――事業内容を教えてください

当社は1980年に、沖縄コンピュータ販売という名前で創業しました。日本オリベッティというIT会社があって、そこが沖縄での事業から撤退するときにメンバー数人で立ち上げたというのが経緯です。ですので、同社がやっていた事業を引き継いだ形のスタートでした。2015年に会社名をokicomに変更し、現在に至っています。

大きくは、販売、開発、保守の3本柱で動いています。ただ最初の頃は社名の通り、まさにコンピュータ販売が中心でした。しかし徐々にシステムの保守運用の割合が増えていきます。他社が作ったサービスでもシステムメンテナンスをしますと言ったことで、需要は大きく拡大しました。さらに、自社開発のソフトウェアやシステムも広がってきました。特に地理情報システム(GIS)関連は昔から力を入れています。

従業員6人ほどの規模からはじめ、2000年の頃に40名くらい、そして現在が100名近くへと成長してきました。ただ実は一時期、造反ともいうような形で一斉に辞められてしまった時期があります。その時から、人事評価というのは大事だし、影響も大きいものだと思うようになりました。

一方で、沖縄県中小企業家同友会に長らく参画しているのですが、そこで学んだことを経営にはいろいろと取り入れています。共同求人(同友会での求人活動)で人の採用をしたことはすごく勉強になっていますし、新卒採用をして人を育てるという意識もその頃から芽生えました。しっかりした経営指針を持つこと、それを従業員に浸透していくことの重要さも学びまして、ある時経営理念やビジョン、社是・社訓を整えました。ビジョンを「沖縄発本土行き、海外行き」として、沖縄から全国にも、海外にも展開していくような展望を掲げ、「おもしろいことへのチャレンジ」を社是としています。失敗を恐れない風土を醸成し、挑戦することを奨励してきたことが、成長の一因にもなっているのではないでしょうか。

――今回、人事制度改定に着手した背景を教えてください。

振り返ると、従業員が造反した時期というのはやはり私の考えがきちんと伝わらず、一方通行のコミュニケーションになっていたと思います。お互いの価値観が合わないと、一緒に働き続けることが難しくなることも、その時に思いました。だからその後は、採用の時点で我が社の考え方に合わない人は採らないと決めました。従業員には会社で行っているイベントや勉強会には必ず出てもらうことにしていますが、それも価値観共有の1つだと位置付けています。現在は価値観の合う人だけが残ってくれていますので、辞める率は大幅に減りました。

従業員の評価については、長年私がすべて行っていました。個別面談は本当によくしていたと思います。自己申告書のようなフォームを作り、1人ひとりが自身の目標を書き、そして達成度を振り返る。それを昇格や昇給と連動させるというようなことをしていました。

それが今回、中小機構のハンズオン支援(専門家派遣)を活用して行った人事制度整備につながるのですが、実は前身となる取り組みがあります。それは、私の息子が当社に入社したことと関連しています。東京の外資系企業で働いていたところから戻ってきた形なのですが、前職ではかなりしっかりした人事制度があったそうです。今後の展望を考えると、人事制度の整備が必要ではないか進言されて、外部に依頼して一式整備してもらったのです。

ただこの段階では、設計した制度自体はよかったのかもしれませんが、運用がうまくいきませんでした。人を評価するという経験はその時点で誰もしたことがありませんでした。さあ制度を運用しましょうと言っても、評価に甘辛が出てきます。すると評価される側からの不満も出てきます。確かに私から見てもこの評価ではないだろうという事象が散見されて、使いづらいなという気持ちが高まってきました。そうした折に中小機構のハンズオン支援について知る機会があり、活用することにしたのです。

――ハンズオン支援を通じた改定効果についてはいかがでしょうか

この専門家派遣の仕組みでは、きちんとメンバーの理解も深めながら整備していくことができたのがよかったです。月2回のペースで専門家の方に来ていただいたのですが、評価者側となる管理職には全員参加してもらいました。このワーキングの場が、実際に制度整備するだけではなく、参加者の学びであり目合わせの場になったと思っています。

最初は管理職の役割がどういうことなのか、人事評価システムを導入する目的は何かというところから学ぶ時間を設けました。適正な評価はどういうことなのかといった基本を学びながら、我が社の評価制度はどうあるとよいか、参加者の意見も取り入れながら作っていく形になりました。

たとえばジェネラリストとスペシャリストという2つのラインを設けたのですが、ここもメンバーの率直な意見を聞いて決めました。人によって役職がつくよりも開発に専念していたいという人もいます。また、そもそもどうやって成長ステップを踏んでいくのか。各ステージについても人材像を整備しました。昇格についてもこれまでは私が判断していましたが、どういう人が主任になり、係長になることができるのか。皆が分かる形で整備しました。

今は、各部署で面談と評価を行うようになりました。もちろん最初から完璧なものができたわけではないので、今後も修正しながらやっていくと思います。私としては、全員を見る立場から外れたのでやや寂しいのですが、今後も組織が拡大していくならば、部課長が核となり評価や育成が機能することは大いに重要だと思っています。

――今後の展望を教えてください

県外の企業が沖縄で事業展開する時に声がかかることも増えてきました。その際にはお互いの強みを生かしながら進めることが重要ですが、当社も営業・開発・技術と人材が揃い、こうした話が進めやすくなりました。

今、AIやIoT人材の強化に向けて、高度人材育成事業が全国で行われていると思います。沖縄県でも県内のIT企業のメンバーを集めた育成の場があり、当社も何人か送り込みました。送り込むときに伝えたのは、「友達を作れ」と。やはりその人脈が本人にとっても当社にとっても財産になってきます。

経営として大事にしているのは、「ロマンと算盤」です。ロマンとは知の探索のことで、算盤とは知の進化。「両利きの経営」という言葉がありますが、私の中ではこの2つの両立です。新しいことへのチャレンジはロマンの一種。たとえば沖縄産の「もずく」について、何か事業との接点がないだろうかと今まさに考えているところです。息子の代になっても、金融で培ってきた算盤の部分と、社会課題解決というロマンの視点と、両方の視点をもって経営を続けてくれることでしょう。人事制度を整備し、従業員たちとの意思疎通もしやすくなってきました。ここからもっと飛躍していきたいと思っています。

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