創業期

新しい技術を事業化していくために~事業計画を磨いて資金調達を目指しつつ、コンテストや外部プログラムを最大限に活用

株式会社アポロジャパン(福岡県北九州市)
代表取締役社長CEO 岸上郁子

表示が見えないのに、専用ペンやアプリをかざすと、そこに埋め込まれた情報が読み取れるという仕組み。アポロジャパンは「スクリーンコード」という技術で、「見えない」コードを実現化しました。開発し、市場に広げるには常に資金的な課題も伴います。次なる飛躍に向けて、どういうことに取り組んでいるところなのか。代表取締役の岸上さんに伺いました。

代表取締役社長CEO 岸上郁子

――事業内容を教えてください

もともと中国の天津アポロという会社の日本窓口として設立したのが、当社のはじまりです。当時は日本企業のソフトウェア受託開発を主に行っていました。今は日本独自の法人として、天津アポロとグループ関係を保ちながら経営しています。独自技術である「スクリーンコード」を開発してから、この事業拡大を主として力を入れています。

「スクリーンコード」は見えない形で情報を埋め込むことができる技術で、特許をとっています。読み取りは専用のペン型機器を使うのですが、そのハード機器も独自開発をしています。たとえばこの「スクリーンコード」を本に埋め込み、読み取りのペンをかざすと音読が流れます。子ども向けの教材として使ってもらったり、英語の音声学習のためのツールとして使ってもらったりしてきました。

この技術活用に関しては茨城大学の藤芳先生と出会い、「NPO法人テストと学習環境のユニバーサルデザイン研究機構」を通じて教科書にも搭載し始めています*1。視覚障がいがある子ども、あるいは読むのが苦手な子どもにとって、音声によるサポートを得られつつ、見た目は全く同じ教科書を使うことができるのも喜ばれています。

現在は専用機器による読み取りだけではなく、スマートフォンのアプリでの読み取りもできるようにしました。人、モノ、情報をつなぐ、IoT(Internet of Things)クラウドサービスとしての活用を進めています。たとえばある会社では、受発注システムの情報管理に使われています。また、セキュリティ強化のための技術としても活用が可能です。コピー機の透かしとして導入してもらっている企業もありますし、海外ではパスポートの偽造防止技術としての活用にも広がりました。

特徴的なのは、言語が変わっても1つのコードのままで対応できることです。たとえば「QRコード」も類似する情報処理技術ですが、言語ごとにコードを発行する必要があります。一方、この「スクリーンコード」は、1つのコードのまま、複数言語に対応できます。また、コードの裏にマッピングシステムを入れていますので、登録情報が変わっても同じコードのまま使うことができます。

設立時は神戸に本社を置いていましたが、「スクリーンコード」の開発が完了したタイミングで本社を東京に近いという理由から横浜に移転しました。その後、福岡に移しました。私の出身地でもあり、ベンチャー支援に力を入れているまちでもあったからです。さらに新たな技術として画像認識AIの自動運転にも取り組んでいることから、昨年、北九州学術研究都市に本社を移転しました。

――資金調達面での課題はどのようなものがありましたか

「スクリーンコード」の開発が佳境になった頃に、リーマンショックが起きました。開発にはまだ資金が必要でしたが、政府系金融機関もベンチャーキャピタルも相当敷居が高くなり、資金調達が難しくなりました。この時にはものづくり補助金を使って開発を進め、補助金取得で信用を得たことで銀行からの融資を受け、さらに自己資金も使って何とかつないできたという状況でした。

実はこの時が一番資金を必要としていましたが、何とか乗り越えて開発自体は完了しました。ただし、次は市場に出していくための資金が必要になってきています。これまでにない新規商品の場合、必要性の訴求から始める必要がありますので、それなりにコストがかかってくるのです。

そう考えている頃に、福岡証券取引所の方が当社を訪問してきてくれました。資金調達の流れから上場の可能性について話は及び、福岡の「Q-Board*2」を目指す選択肢もあるのではないかと思い始めました。もし具体的に進めるなら、ビジネスプランの立て方から経営管理まで整備すべきことはたくさんあります。そこで一度相談窓口を活用してはどうかということで、福岡証券取引所の方から、中小機構の九州本部を紹介してもらいました。

当社の課題を聞いて紹介頂いたのが、公認会計士の資格を持つ専門家の先生です。今も定期的に活用させてもらっているのですが、この先生が非常に熱心に対応してくださることと、何回でも相談をできることが、本当にありがたいと感じています。毎回の相談時に課題を頂き、次の予約をしてそこまでに取り組むというのを繰り返してきました。

これまでも事業計画などは作っていましたが、専門家からのアドバイスをもらうようになり、たくさんの気づきがありました。たとえば計画は現状からの積み上げ型で作っていたのですが、先生からは5年後にどうなっていたいかをまず描き、そこから落とし込んでいくことを教わりました。そのためには事業のビジョンもいりますし、組織設計の検討も必要になります。ごく基本的なことでも私自身は初めてのことばかりで、ここできちんと取り組めてよかったと改めて感じています。

――現在、どのような変化が進んでいますか

計画の精度を高める一方で1つチャレンジしたことは、「ながと若者起業家ビジネスコンテスト」への応募です。長門市には詩人・金子みすゞの記念館があり、2023年生誕120周年を迎えます。私も好きな詩人でしたので金子みすゞの絵本に「スクリーンコード」を埋め込み、各国語で朗読が楽しめるユニバーサル絵本としての事業で応募しました。

このコンテストでは優秀賞を頂くことができ、事業としての可能性を評価頂けたことに手応えを感じました。一方で、出版社に訴求してもすぐのってくれるわけではありません。興味は持ってくれるものの、事業的に導入してもらうには壁があることもわかってきました。

一方、コンテストを進めているのと同じ頃に、北九州のジェトロ(独立行政法人日本貿易振興機構)から、アクセラレーションプログラムの案内を頂きました。言語の壁を越えて使えるのが「スクリーンコード」の強みですので、海外展開には興味があります。そこで応募して参加できることになりました。ブートキャンプで日本語でのピッチ、英語でのピッチとセミナーを計8回受け、事業計画をブラッシュアップしました。その一貫で、希望する海外の展示会派遣もあり、イタリア・ボローニャの国際絵本ブックフェアに視察に行く予定です。

また、別プロジェクトとして、東京ジェトロが1月にラスベガスで行われるハイテク技術見本市「CES(Consumer Technology Association Tech Event)」の展示会へ出展するベンチャー企業を募集していたものにも、申し込みをしました。優れた技術を精選するためにかなり審査が厳しいと聞いていましたが、うれしいことに選出され、出展がきまりました。

少しずつ活用実績が出てきて、今、こうして新たなチャンスが増えてきたと感じています。発信する機会の拡大は、資金調達の上でも追い風になります。事業計画が整備できたことできちんと展望を示せるようになったのも、この状況を後押ししてくれたと思っています。

――今後の展望を教えてください

「スクリーンコード」は基礎技術ですので、使い方にはたくさんの可能性があります。1つには各出版社がこの「スクリーンコード」活用に興味を持ち、保有しているタイトルからいくつかを共同でユニバーサル書籍化できないかと思っています。海外展示会への参加を通じて、グローバルな展開も現実味が出てきました。まずは紙とデジタルを融合させた絵本を、日本から世界に発信していけないかと思っているところです。

また、IoTやセキュリティ領域での用途を広げ、身近な生活を劇的に快適にするサービスにも発展できればと考えています。企業や自治体など多様なパートナーシップを結びながら、スマートさの向上や安心安全を支える技術として、広く社会で使われることを目指しています。

実は別途、画像認識のAI技術にも取り組み始めました。中国での開発を先行させているところですが、テクノロジー社会の発展とともに、常に新たなチャレンジをし続ける会社でありたいと思っています。

*1 参考 【音声教材普及推進会議】茨城大学説明動画 - YouTube

*2 福岡証券取引所が開設した成長の可能性が見込まれる企業を対象とした市場

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