拡大期

会社のストーリーをブランドにし、商品ラインアップを強化~業態拡大により売上向上へ

株式会社上原ミート(沖縄県豊見城市)
代表取締役社長 上原善仁

沖縄で精肉・加工・販売をおこなっている上原ミートは、70年にわたり沖縄の食に携わってきました。さらに近年はECサイトでの販売も拡大し、全国にその味を届けています。卸売業が主流としていた時代からどのように小売を拡大していったのか。新商品の開発やブランディングを通じた工夫とその効果について、伺いました。

代表取締役社長 上原善仁

――事業内容を教えてください

公設市場で肉の小売業を始めたのが当社のスタートです。創業は1953年で、そこから30年あまりは個人店舗の形で営んでいました。その後1980年に法人設立し、卸売業もはじめました。近くの飲食店に卸すところからはじめ、倉庫を広げたり事務所を移転したりして、10年ほど前から今の豊崎という場所に本社を構えています。

法人設立から現在までは卸売が主体だったわけですが、直営の小売店も続けていました。ただし売り上げの大半が卸売だったため、力の入った店舗経営ではなかったと思います。他方で、販売力をどう高めていくかという問題意識は常に念頭にありました。現在は小売の売上比率がかなりあがってきているのですが、ある時から販売力強化に取り組んできた試みが今につながっていると思います。

具体的には先代が社長だった7、8年前、中小機構のアドバイザーの方と知り合ったことがきっかけでした。そこで小売強化に向けた相談をしたところ、当時設けられていた「地域資源活用事業」を使った自社ブランド開発を勧められたそうです。今後の展開を考えるうえで非常に有効だろうと思い、それを活用することにしました。

今は従来と同じく卸売用の肉を扱いつつ、店舗ならびにECサイトで小売販売をしています。肉を小分けして売るところから、「島のごちそう」シリーズのように惣菜として加工したもの、ハムやソーセージなど燻製加工をしたものなど、幅広いメニューをそろえています。実は店舗を全面リニューアルして販売に力を入れていたのですが、コロナ禍が影響し、ここ2年は大幅に売上減となっています。一方EC事業は、ごく片手間にやっていたものを2020年に路線変更し、専任部署を設けて力を入れ始めました。来年の3月には工場を増設し、EC事業にも対応した倉庫、配送拠点もつくる予定です。

――どのように商品開発・リブランディングを進めたかを教えてください

中小機構から専門家派遣をしてもらったのですが、製造と企画の責任者を中心にチームを組みました。最初におこなったのは、考え得る商品ラインアップのリスト化です。最初に考えたのは、卸売の販売量を小分けすることでした。加えて、地元食材と組み合わせたらどうか、当社が持つレシピには何があるかなどを洗い出して、新商品化も進めました。

あわせて行ったのは、ブランドコンセプトを整理してロゴやパッケージを統一することです。ここで専門家の方に、私たちの歴史をヒアリングしてもらったことはとても有効でした。会社のストーリーを可視化したことで自分たちも理解が進みましたし、商品パッケージへの展開も納得できるものになりました。そこから店舗の全面リニューアルも行いましたので、すべてが整理され、つながっていったと思います。

もちろん以前にも小売向け商品開発はおこなっていたのですが、パッケージがばらばらで、誰向けのどういう商品か伝わるものではありませんでした。このタイミングで商品のカテゴリーを整理したり、魅力を伝えるパッケージの効果を実感できたことは、会社としての財産にもなりました。

中小機構と行った商品開発の効果を実感したのは、展示会に出展したときです。実はリブランディングしたといっても、地元の道の駅などではあまり反応がありませんでした。おそらく訪れるお客様のニーズとブランド商品が合わなかったからでしょう。それが、「こだわり食品フェア」という東京での展示会に出したときには、たくさんの引き合いを頂きました。全国のスーパーマーケットなどのバイヤーの方が立ち寄る展示会でしたので、その後実際に店頭に並べて頂いたところもありました。沖縄と県外での食文化の違いがありますが、開発した商品の中でも全国区でニーズがあるもの、県内販売が向くもの、という整理もできました。

――取り組んだ効果はいかがでしたか

実は取り組みの当初は、私自身も半信半疑でした。どうしても卸売事業の方がボリュームが大きいので、小売向け商品開発がどれほど有効なのだろうかと思っていたのです。

しかし今、EC事業を拡大できているのも、自社商品があるからだと思っています。商品開発の進め方をこの時体験できたことで、その後の開発も自分たちでできるようになってきました。まずは目的に合わせた商品をつくり、パッケージをつくって売り出してみること。すべての要件を満たすような完成形をめざすより、まずは売り出してそこからブラッシュアップしていくというやり方の方が形になりやすいということも認識しました。

また、ブランディングの一環でストーリー性が付加できたことにも大きな効果を感じています。商品の魅力を伝えようとしてもありきたりのものになってしまうという悩みがあったのですが、創業70年にわたる中でのノウハウやレシピがどう生かされているか。ストーリーで伝えることで魅力が増したと思いますし、従業員にとっても自分事化が進んだと思っています。

――今後の展開を教えてください

沖縄を拠点にした事業展開でネックになるのは配送料です。どうしても県外向けの展開は配送料がかさみますので、生産性の向上を通じた価格競争力の確保は欠かせません。そのため、製造工程は大幅な生産性向上をめざすべく、オートメーション化を進める予定です。連動して、基幹システムの刷新も進めていきます。同じ人数で2倍の生産ができるようにすることをめざして、工場増築と連動した計画を進めています。

あわせて販売の仕組みについても、無人販売店舗の展開を検討しています。手軽にいつでも買える店舗になるよう、新たな商品開発と店舗計画を立てているところです。

また特に今年度は、中小機構のハンズオン支援を活用し、原価改善プロジェクトを実施しています。製造原価をきちんと算出し、適正化をはかるとともに経営力を高める取り組みも始めました。実は周りの食肉製造業者の方々から、人手不足という声を切実に聞くようになっており、ごく簡単な加工でも、それをやる余裕がないから代わりにできないかという引き合いがくることもあります。きちんと働く人たちを確保できる会社でないと生き残っていけないということを肌で感じ、当社もより働きがいのある会社になるよう、処遇や仕組みなどを見直しているところです。

県外からも加工の相談を頂くことがありますが、精肉も加工品も対応できる会社としてきちんと事業を続けていくことが、食文化の発展にも寄与していくと思っています。商品開発力や経営管理力の基盤をもとに、これからもチャレンジを続けていきます。

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