新時代に挑戦を続け成長する企業
【販路開拓】自社サイト開設をきっかけに海外への直販が可能に

株式会社メトロール 社長 松橋卓司

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に中小企業・小規模事業者は直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「販路開拓」に関し独自の取り組みで成功を収めている、高精度工業用センサーの開発・製造・販売を手がけるメトロールを紹介する。

■海外展開を目指すためにいち早くEC展開をスタート

――創業時からグローバルな経営を視野に入れていたようです。

「私が父親の経営するメトロールに入社したのは1998年。創業者である父は大手光学機器メーカーの開発部門、測定機器メーカーを経て51歳で当社を創業しました。オリジナリティーや発明を大事にし、新しいモノづくりで世界に向け勝負したいという思いがありました。英語表記の社名『METROL』を採用したのは世界を意識してのこと。品質管理の国際規格「ISO9001」も中小企業としては、かなり早い段階で取得し、グローバルを目指したメーカーになるという先見性はありました」

無線式タッチプローブRC-K3X

――社名については一見して海外の会社かと思いました。グローバル化を意識してのことだったのですね。越境EC(電子商取引)に早くから取り組んでいます。きっかけはどういったことだったのでしょうか。

「ロングセラーになる製品は作った人の思い入れと独自性があると考えており、センサーを中心とする当社製品は世界にきちんとPRすれば売れるのではないかと思いました。当時、海外から『値段が高いため直接製品を送ってほしい』とファクシミリが入ることがありました。調べてみると、いったん国外に出た製品は複数の仲介業者を介して10倍くらいの値段になっていたことが分かったのです。こうした事情を知り、海外にも国内と同様に安価なコストで製品を提供できたらよいと考えました」

「海外営業の手法は展示会とインターネットを2本柱として選びました。インターネットに関しては私が入社した98年当時の書籍『電子商店繁盛記』に、インターネットを使ったBtoC(対消費者)での成功事例が掲載されていました。これを見た時、BtoB(海外企業間)でも同じようなことができないかと考えたのがひとつのきっかけです。eビジネスのための英語表現について書籍などを参考に学び、初めて自社のホームページ(HP)を立ち上げました」

■英語サイトの立ち上げが中国ビジネスの起点に

――すぐに行動を起こしたのですね。当時、自社でHPを立ち上げたのは、ご苦労があったと思います。

「4カ国語でHPを立ち上げたのは2001年。BtoB取引が手形・口座間で行われていた時代にECサイトでクレジットカード決済できるようにしたことは画期的だったと思います。英語表記の社名『METROL』によって、海外から検索できたことも大きい。問い合わせで製品番号が分かれば図面を送って確認し、発送しました」

「しかし当初は月当たり数十万円の受注に過ぎませんでした。そこでPR手段を考え、社名を検索連動型の広告サービスに登録することにより、翌月から百万円台に上げることができました。当社製品は大手工作機械に搭載されていたこともあり、これをきっかけにスペアパーツなどの受注が世界各地から舞い込むようになりました」

「次の段階に入ったのは2003年頃、中国沿海部のメーカーから受注が入るようになったことです。韓国・台湾メーカーが当社製品を採用しているのを中国メーカーが調べてECサイト経由で発注をしてきました。当初、スペアパーツの販売が主だったECサイトは中国メーカーの台頭と相まって、機械メーカーからの正式な製品発注に変化していきました。その後、中国からの受注が右肩上がりになり、取引先が内陸部まで広がると、中国元での取引に対応しなくてはならなくなりました。これが現地法人設立のきっかけで、中国ビジネスの起点は英語のインターネットサイトでした」

高度な生産技術と新鋭設備で市場二ーズに応えると話す松橋社長

――越境ECはハードルが高い印象があります。

「国際宅配便などのインフラは整備されています。あとはクレジットカード決済ができればビジネスが可能。売り上げの回収を懸念する経営者も多いが、当社はすべて前払い現金かクレジットカード決済を採用しているため、未収金はないといっていいです。加えて円建て取引を基本としています。製品の独自性と『メーカーの直販』の信頼性がポイントになります」

――製品の良さをユーザーが理解していることが成功につながっているのですね。独自性ある製品を作り続けることに非常に興味があります。組織のあり方に秘訣があるのでしょうか。

「新製品開発は、関わる人たちの気づきの中から生まれます。常識外やあり得ないことからの発想です。それには年齢・役職関係なく、対等な立場で対話ができる職場環境が必要。特にシニア世代と若手技術者がどう融合するか。豊富な経験があるシニアと、成長著しいが経験の少ない若手を融合させてアイデアを創出します。シニアには、若手と対等な立場で常に対話を行い、イノベーションを起こすためには、失敗も許されるといった共感安全の職場環境づくりに努めてもらうことが重要です」

――世代の違う方々が目標を共有しており、うまく機能していると感じました。これからのビジョンや目標について教えてください。

「市場が求めている独自性ある製品を作ることに変わりありません。製品作りの方向性のひとつがセンサーのワイヤレス・無線通信化です。工場内において確実・安定性を保ち、スピードの速い製品を開発しています。無線を使ったエネルギー給電なども他社と連携しながら開発に取り組んでいます」

株式会社メトロール

所在地 : 東京都立川市高松町1の100 立飛リアルエステート 25号棟 5階
電話 : 042-527-3278
資本金 : 4000万円
従業員数 : 108人
設立 : 1976年
URL : https://www.metrol.co.jp/
中小機構の中小企業応援士として活動
(代表取締役社長 松橋卓司氏)

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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