新時代に挑戦を続け成長する企業
【販路開拓】「うに牧場」ブランドの確立で世界からも求められる事業へと成長

株式会社北三陸ファクトリー 代表取締役CEO 下苧坪之典

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に中小企業・小規模事業者は直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「販路開拓」に関し独自の取り組みで成功を収めている、農林水産加工物の製造加工・販売を行う北三陸ファクトリーを紹介する。

■海産物のブランド化を推進

――とてもユニークな事業をされていますね。まずは起業の経緯を教えて下さい。

「海産物問屋のひろの屋を2010年に創業し、その子会社として2018年に北三陸ファクトリーを設立しました。最大の理由は、この北三陸地域の豊かな海産物でブランドを構築したかったことです。ブランドは多くの人に知ってもらってこそのもの。世界に発信できるよう、ブランディングにものすごく力を入れました。例えばブランドマークは武蔵野美術大学や広告会社、著名な建築士の方などから協力を頂き、約300の案を出して完成させました」

――とても格好いいマークですね。海産物をブランド化するという発想自体が新鮮です。最初はどのように営業していったのですか。

「ひろの屋設立当初は天然ワカメをブランド化しました。三陸産ワカメの98%が養殖です。洋野町は外海に面しており、しっかりした天然ワカメがたくさん採れます。肉厚で磯の香りも豊かです。これを漁師が海中に潜って直接刈り取ります。そのストーリーや地域の背景を消費者に語りながら販売することで、これが北三陸の象徴になると考えました」

――最初は一人で全国の物産展を回ったそうですね。北三陸の知名度は上がっていきましたか。

「いえいえ、ようやく飯を食えるようになったのがこの5年くらい。それまでは貯金を切り崩しての商売でした。資金はすべてブランディングに注ぎ込みましたから。ただ、食べてみれば養殖との違いは明らかなので、物産展からのリピーターも結構増えました」

――その後、16年にウニの加工販売に参入するため、多額の投資をされるわけですね。水産業は商権を入手するのが難しく、新規参入は非常に珍しいそうですね。

「ウニでの新規参入は十数年ぶりでした。たまたまご縁のあった大手商社に支援を頂き、それならということでウニの入札権を入手できました。まとまった資金も調達できたので、まずは町の旧給食センターを改修して加工場をつくり、最低限の仕入れ資金も確保できました。ただ、どうやって売ったらいいのかが分かりません。洋野町はあくまでもウニの原料供給地に過ぎず、三陸産の一つとして出荷されるだけで、まったくブランドがなかったんです」

1㎝程度まで育てた稚ウニ。水揚げまで約4年をかける

■洋野町産ブランドを国内さらには海外へも展開

――ブランドを打ち立てて販売しようにも、チャンネルがまったくないわけですね。天然ワカメと同じように全国の物産展を飛び回ったのですか。

「いえ、東京の築地市場に通い詰め、仲卸にチラシを配りまくりました。午前1時に起きてホテルを出て、2時から場内を回りました。当時はまだ30代だったからできたのでしょう。今は体力的にきつくてできません。でも、そのときは『これをやらないと(最も出荷量が多い)北海道産に負けてしまう』と必死でした。そんな姿が通じたのか、ある仲卸業者に目を留めてもらいました。北海道など他の産地と比べても『味は断トツにうまい』と言われ、自信を深めました」

――ここで「うに牧場」や洋野町を指す「北三陸産」などキャッチコピーを駆使して、ブランディングしていったわけですね。

「町内の浅瀬にあるうに牧場は、正確には3漁業協同組合が管理するウニの増殖溝です。他の多くの漁場ではウニを放置しているだけですが、ここでは生育後4年たったものから順に出荷します。4~6年のウニがいちばんうまいと分かっていますから。こうした緻密な管理をずっと前からしていたのに、単なる三陸産としかうたわれず、一原料供給地に甘んじていたわけです。2018年に北三陸ファクトリーを立ち上げ、洋野町産だけに狭めブランド化することにひたすら努めてきました」

――生産者も知名度が上がり、高く売れるようにもなって、さぞ喜んでいるのではないでしょうか。

「それまでは1円でも安く仕入れ、1円でも安く売るのが当たり前でした。北三陸ファクトリーは高く買い、ブランド力をつけて市場で高く売ることに改めました。国は生産性を高めよう、賃金を上げようと提唱していますが、安く買いたたかれるような状況が続いていては生産性は上がらないし、地域も潤いません。洋野町は人口減少や高齢化が加速していて、今のままでは水産業を維持できなくなるかもしれません。その前にまずは賃金を上げ、若者にとって魅力のある職場を増やさなくてはなりません」

持続可能な水産業モデルの開発に取り組むと話す下苧坪社長

――高く売るためには海外市場を狙うことも大事です。世界的に和食人気も高まっており、その追い風もあるのでは。

「その通りで、アジアを中心に高級食材を求める中間層がものすごく増えており、供給が追いつかない状況です。この6年、レストランや高級スーパー向けなどに売り上げは右肩上がり。シンガポールではレストランで食事後、気に入った食材をネットで購入できるサイトがあり、そこからの注文も増えています。また豪州では現地政府と協力し、漁場環境を改善しながらウニを育成する事業を始めます。豪州は世界3位のウニ生産国ですが、ウニの食害などで磯焼けという漁場の環境悪化に悩んでいます。これを当社の技術で解決すると同時に、豪州の市場で海産物の拡販を目指します」

株式会社北三陸ファクトリー

所在地 : 岩手県九戸郡洋野町種市第22地割133番地1
電話 : 0194-75-3548
資本金 : 500万円
従業員数 : 30人
設立 : 2018年10月
URL : https://kitasanrikufactory.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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