新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.2 海外展開】自社技術の強みをアピールし海外企業にとってもなくてはならない存在に

株式会社プロト 代表取締役社長 長谷川美成

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に中小企業・小規模事業者は直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「海外展開」に関し、独自の取り組みで成功を収めている、各種工業用試作品の一括受託、および量産化に向けた様々なサポートを行うプロトを紹介する。

■鋳造から検査測定まで一貫

――鋳造分野で設立2005年というのは新しい会社だと思いますが、設立前は何をされていたのでしょうか。

「自動車メーカーのティア1で、エンジン研究部に所属していました。量産がメーンだったので、試作品は外へ頼むことになります。ところが、自分たちが思うようなものが出来上がってこないことが多かったのです。そこで、製造も覚えようと思い立ったのが最初でした」

――自分で作ろうとなったわけですね。競合や同業他社も多いと思います。自社の強みはどこにあると思われますか。

「各種金属の鋳造から機械加工、検査測定まで1社で一貫して行える点です。注文してもらえれば、試作品の完成品をメーカーに納めることができます。また、設立当初からAM(積層造形)と呼ばれる技術で、3Dプリンターを導入していました。先行してやってきたノウハウで、品質にも自信があります。実際にお客さまから『プロトでだめなら仕方がない』と言っていただくこともあります。開発品は変更しながら性能を求めていくので、とにかく設計変更が多く、それに対応できるのも強みです」

トランスミッションハウジング

――そういった強みから作られる試作品を輸出されていますが、海外展開のきっかけを教えてください。

「設立から3年くらいは仕事がなく、軌道に乗ってきたと思ったらリーマン・ショックに直面しました。国内の仕事が全くなくなり、会社の存続が危なくなったのです。その時、一番景気が良かったのが中国でした。最初はあてもなかったですが『行けばなんとかなる』と思い、中国人の通訳スタッフと2人でスタートしました」

――危機感が原動力になったのですね。どのように顧客を開拓していかれたのですか。

「最初はインターネットで調べて行きました。門前払いも多かったです。あとは現地の展示会に行ってつながりを作っていきました。当時はまだ10人程度の会社だったので、相手からしてみれば『なんだこの会社は』となったと思います。今では中国向けが売り上げの6割を占めます。自動車関連とバイクメーカーを含めて10社ほどと取引があり、開発が始まると一番に声をかけていただけるようになりました」

■中国6割、ベトナムにも注目

――輸出に取り組んできた先駆者として、どのような苦労がありましたか。

「最初は輸出に関する税金について全く分かっていませんでした。聞いたことのないような税金が中国にはあり、最初の契約でどちらがどこまで負担するのかしっかり決めなければなりませんし、為替リスクも考える必要があります。製品の輸送という面では、現地の信頼できる運送業者を選ばないと中身が壊れたり、荷物が無くなったりすることも最初はありました。ただ、実はそこまで苦労したとも思っていなくて、仕事を探している時がいちばん大変でした」

最新の技術と職人の匠な技を融合させ、高付加価値の技術を提供すると話す長谷川社長

――トラブルがあっても仕事があるだけ恵まれているということですね。今後、さらに伸ばしていくにはどういったことに取り組まれるのでしょう。

「中国もいずれ飽和状態になるでしょうから、今はベトナムにも注目しています。平均年齢が若く、自国で電気自動車など開発し始めています。試作品を手がける当社にとって、新製品開発を行っている国は魅力的です。当社にはベトナム人社員が8人いますので、ベトナムが伸びてくれば現地で鋳造をやる可能性もあります。現在鋳造を担っている若手の技術を、自国に戻ってもらい、生かせないかと考えています」

「別の国だと、米国にも行きたいですね。デトロイトの自動車産業を実際に見て、当社でも通用するのか調べたいです。ただ、あくまで拠点は日本だと思っています。輸出にこだわるのは、日本にお金を落としたいという思いからです。そのためにも輸出しやすい国策を検討してほしいですね。そのあたりが楽になると、中小企業でも輸出しやすくなると思います」

――さらなる成長を見据えた今後の抱負はいかがでしょう。

「現在売り上げの8割以上が自動車向けになっており、コロナ禍で影響を受けました。そこで2年前から、サポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)で、神戸大学などと共同でデンタル向けの機械『小型ミーリングマシン』を開発しました。口の中にスキャナーを入れ、CADで設計し、できたデータから削っていくと義歯が完成します。ただ、日本では制約も多いので、タイなどへの海外販売も視野に入れながら、来期にオリジナルブランドとして販売したいです」

――新しい収益の柱を育てておられるのですね。生き残るための挑戦でもあると思いますが、一歩踏み出すには何が必要でしょうか。

「最初はトップダウンでもいいのではないでしょうか。ボトムアップが理想ですが『こんなの作ってみようや』という社長の一声でもいいと思います。現在、20-30代の若手を中心に『チャレンジ会』というのを作り、自分が疑問に思うことを具現化しようという取り組みを始めました。『なぜこれがこういう風になるんだろう』と思うなら、一度作ってみる。失敗ありきで、成功しなくていいと言っています。身をもって体験すれば、技術が伸びてくるはずです。失敗すること、モノを作るために考えたことが今後の糧となります。それが投資だと思っています」

株式会社プロト

所在地 : 京都府京田辺市大住池ノ端62の1
電話 : 0774-62-0004
資本金 : 1000万円
従業員数 : 45名
設立 : 2005年8月6日
URL : http://proto-tec.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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