新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.2 海外展開】ニッチな分野への進出と新事業への種まきで世界へネットワークの拡大を目指す

高砂電気工業株式会社 未来創造カンパニー 代表取締役社長 平谷治之

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に中小企業・小規模事業者は直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「海外展開」に関し、独自の取り組みで成功を収めている、ソレノイドバルブ(電磁弁)およびポンプを中心とする流体制御機器などの設計・製造・販売を行う高砂電気工業を紹介する。

■宇宙―ロケット小型化に挑む

――グローバルニッチ企業として注目されていますが、なぜ実現できたのでしょうか。

「1959年の設立時、ACソレノイドを製造していましたが、あるきっかけで小型電磁弁の製造を開始しました。当時、小型電磁弁は競合が少なく採用実績を積み上げていきましたが、市場競争が激化してきたため、血液分析装置などさらなる小型化が必要なニッチ市場へと挑戦しました。小さい装置に精密制御が必要で利益が低いとされており市場は小さかった。私たちはその市場に参入したことで、国内大手分析機器メーカーなどと取り引きすることができました。当時は誰も手を付けていない小さい分野でしたが、取引先と市場の伸びで当社は成長しました」

小型衛星のスラスター用に開発した超小型バルブ

――受注数が1個でも設計図を書かれますが、対応するにはコストがかかります。なぜできるのでしょうか。

「同族非上場という点が大きいです。上場したら株主利益が優先となり、薄利の仕事はできません。また、バルブ・ポンプの業界は中国や韓国、台湾の技術力が追いつき、日本は(相対的に)落ちています。ですが、中国や韓国などはまだもうかる市場になるため、手間暇かけた対応がニッチとなり差別化になります。スタートアップへの投資と同じ考えです。小さな受注でも大量受注につながる可能性に期待しています。今はカンパニー制で役割を分けています。『未来創造カンパニー』が新しい市場を開拓し、市場が大きくなったら製造を担う『流体制御システムカンパニー』にバトンタッチする形にしています」

――新しい事業の種まきはすぐに収益を生みませんが、どうやって活動を維持し続けていますか。

「本当に難しいです。流体制御システムカンパニーの社員からは『我々の稼ぎを散財している』というような目で見られます。ですが、目先の仕事に注力するだけでは企業の発展は望めません。最先端の技術トレンドをウオッチし、インドや欧米にネットワークを広げ、当社は何をすべきかを考えて備えないといけません。それが私の役割で、トップが強い信念を持っていないといけないです」

■インドの学生、将来は現地マネジメント

――未来創造カンパニーではどのような分野を狙っていきますか。

「何がヒットするか分からないので広く狙います。まず一つは宇宙。昔のロケットは大型でしたが、現在は小型化が進んでいます。当社が強みとする小型化・軽量化で入っていきます。二つ目は植物工場です。肥料や水をコントロールするためにはバルブ・ポンプによる流体制御が必要です。あとはエネルギーです。バッテリーを使う時の放熱を冷ますために気体や液体を使います。この時にもバルブ・ポンプが使えます。宇宙から農業系、バイオまで目を光らせています。ターゲットとしてはインド市場を切り開いていきたいです」

インド出身のアディ氏にクリーンルームでの作業について説明を受ける

――インドの学生を採用されるそうですね。

「日本貿易振興機構(ジェトロ)が主催する、日本企業がインド工科大学の学生を採用するイベントに参加することができました。他社は最低でも年収800万円を提示するのに、私たちは頑張っても360万円です。しかし、参加した学生が続々と私たちのブースに来たのです。結果的に175人が履歴書を送ってきました」

「『高砂に来れば成長できる』というプレゼンが学生の気持ちに刺さったのだと思います。今では、米航空宇宙局(NASA)やハーバード大学などから試作品の受注が来ます。『半導体や医療など全部の業界の世界最先端の研究で使うバルブを設計し、コンサルティングすることは面白い』『日本で精密部品について学ばないか』と彼らの知的好奇心をくすぐりました。最終的に4人の採用を決定し、この夏に入社します。日本で1―2年学び、将来的にインドでマネジメントをしてもらう構想です」

――多様性を受け入れる体制が必要だと思うのですが、御社では整っているのでしょうか。

「従業員の男女比は半々です。外国人比率は未来創造カンパニーで1割です。日本人スタッフが外国人に刺激を受けて英会話を学び始めるなど、スキルが底上げされています。今後も外国人比率を高めていきます。いろんな文化を持つ専門家が集まった方が面白く、イノベーションにつながります」

「2020年に採用したインド人のアディティヤ・ヴェンカティシュさんは『将来は経営者になりたい』と言っており、インド工科大から採用した社員をまとめるリーダーに任命して成長する機会を与えます。会社と従業員は対等で、会社は従業員の個々のキャリアを支援し、従業員は伸ばしたスキルで会社に貢献してくれたら良いと考えています。仮に転職となっても『いつか一緒に楽しいことができたらいいね』と笑顔で送り出します」

――海外展開に当たり、補助金をどう活用すべきだと考えますか。

「米国のベンチャーや研究機関を開拓する際に、中小機構の海外FS補助金や海外サイト制作補助金を活用しました。検証するための海外渡航費や展示会出展料の補助が非常にありがたいです。いろいろな国を比較することで海外戦略を立てられ、成長スピードを高められます。そのような補助金が充実することに期待したいです」

高砂電気工業株式会社 未来創造カンパニー

所在地 : 名古屋市緑区鳴海町杜若66番地
電話 : 052-891-2301
資本金 : 9000万円
従業員数 : 266名
設立 : 1959年7月1日
URL : https://takasago-elec.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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