新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.3 SDGs・カーボンニュートラル】地球環境や人への“やさしさ”から始まる乾物屋のSDGsの取り組み

株式会社野田商店 代表取締役社長 野田智也

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「SDGs・カーボンニュートラル」に関し、独自の取り組みで成功を収めている、乾物などの食品卸売業を行う野田商店を紹介する。

■倉庫ショップで乾物スイーツ

――今の日本における大きな課題は円滑な世代交代です。時代は変わっても、長年務めた経営者が変化を認識するのは難しいものです。事業承継は苦労したのではないですか。

「私は大学を出てから地元の地銀に勤めており、家業の食品卸は先代社長の父と叔父が中心となって営んでいました。ある時2人が共に病気に伏し、私が代わりに従業員に給与を手渡すことになり、初めて継ぐことを意識しました。銀行を辞めて“帰って”きたのですが、子どものころに私の遊び場だった会社は、実は知らないことだらけ。お客さまから祖父や父が、いかに地域から信用を得て商売してきたかという話を聞くにつけ、責任を感じました。地域では大型スーパーマーケットが進出し、まちの食料品店は高齢化に伴って閉める店も増えています。卸も例外ではなく値段の勝負では厳しい状況です。乾物の良さを広めようと、倉庫の一角で乾物を使ったスイーツの製造販売を始めた時に、父は応援してくれました。父が70歳になった2019年に社長を継ぎ、倉庫を小売店舗に改装したのですが、そこにお客さまが来るようになったことを喜んでくれています」

――昔から使っていた倉庫を、すてきなショップにリフォームされたのですね。乾物を使ったスイーツに社長ならではの思いが込められているように感じました。

「食品卸はメーカーの商品を小売店などに持っていくのが仕事です。いつか消費者に喜んでもらえるオリジナルの商品を作りたいと常々考えていました。当社の原点は乾物です。祖父がでっち奉公先で鍛えられ、1949年に乾物卸として独立しました。昆布、ひじき、高野豆腐などは、食生活の変化とともに子どもが好まなくなっても、なぜなくならないか。答えは『大事なものだから』でしょう。栄養分がとても高い。メーカーも使ってもらおうといろいろ工夫しています。伝統食を次の世代にどう伝えるか。私はパティシエのいとこ、妻と一緒にスイーツを作ってみようと思い立ち、約1年半かけて『ひじきのシフォンケーキ』を完成させました」

ひじきのシフォンケーキは約1年半かけて完成したおすすめのオリジナル商品

■子ども食堂・食品ロス ― SDGs意識

――乾物の真価を伝える役目ですね。ケーキも非常においしい。ここでしか手に入らないのではもったいない。

「子育て支援施設への訪問授業やテレビ出演で、乾物の魅力を伝えています。小さい時の味覚の記憶は、大人になっても残る一生のプレゼント。『食育』の一環です。ケーキには昆布だしも入れています。水分の調整が難しく、膨らむギリギリを狙いました。苦手な食品を食べられたという自信になるはずです。催事や通信販売もやっていますが、私は海南市観光協会会長も任されているので、ぜひ多くの人に海南を訪れてもらいたい。昭和と令和が融合した倉庫の雰囲気を味わいに来てほしいです」

テレビ出演や訪問授業など、乾物の真価を伝える活動の取り組みについて説明する野田智也社長

――歴史や地域の価値を踏まえイノベーションを起こすことが重要だと思います。御社は国連の持続可能な開発目標(SDGs)を強く意識されているそうですね。

「事業承継した時期にSDGsが流行しました。地球環境や人に優しくなる。私も『やさしさ』をキーワードに商売をしていこう、と決意しました。倉庫を小売店舗に改装したのも、消費者が必要な量を必要な分だけ買うことができる店を作りたいと考えたからです。ゴミを減らすといったこれまでも当たり前にしていた行動を指針として掲げたことで、子ども食堂との連携や食品ロス対策など、外部とのつながりも広がりました。意思表示をするとともに、取り組みを積極的に発信するよう心がけています。祖父や父には、良いモノを残してくれた、とあらためて感謝したいです。乾物そのものも長く日持ちするものですし、健康に良くて、捨てる部分がない食品です」

――乾物に日本のSDGsの本質があるとは素晴らしい気づきです。人や社会、環境に配慮する一方で成長も必要ですが、理想の会社像をどう描いていますか。

「弊社のお客さまに近い存在である女性が働きやすい環境づくりを進めたいと思います。改装時は女性社員の意見で、まずトイレ整備に取り組みました。やりがいを感じられる職場にして、多様なお客さまとスタッフが笑顔で触れ合えるような店づくりを目指しています。自分の生活を豊かにしたい、大切な人に贈り物をしたい、という時に選ばれるような店にしたいですね。客単価や来店数を上げるという経営的な目標もありますが、基本は明るく、楽しく、元気に。地道に成長できる会社にしていきたいです」

――事業承継時にSDGsに取り組んだことで、自社の強みの発見やパーパス経営(企業の存在目的を重視する経営手法)へとつなげたのですね。

「店舗改装に当たっては中小機構が運営する、事業承継・引継ぎ補助金を申請しました。SDGsのヒントを受けたのも、金融機関のセミナーです。自社の良いところも、お客さまに言われて初めて認識できる場合があります。人と人との関係が重要なのだと実感しています。私のような跡継ぎにとって、何でも気軽に相談できる存在があるとありがたいです。価値観が近い同世代の人であればなお良い。つながりを大切にしていきたいと思います」

株式会社野田商店

所在地 : 和歌山県海南市藤白189の1
電話 : 073-482-3423
資本金 : 1000万円
従業員数 : 9名
創業 : 1949年
URL : https://maru3-noda.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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