新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.3 SDGs・カーボンニュートラル】建設業界のSDGsに向けた世界初・沖縄発の超薄肉コンクリートの取り組み

株式会社HPC沖縄 代表取締役 阿波根昌樹

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「SDGs・カーボンニュートラル」に関し、独自の取り組みで成功を収めている、ハイブリッド・プレストレスト・コンクリート(HPC)技術を活用した超薄肉コンクリートの製品開発を手がけるHPC沖縄を紹介する。

■コンクリでまちを『森化』

――HPCは非常に薄く軽く施工できる素材ですね。SDGsやカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ、CN)に、どうつなげていますか。

「炭素繊維による物理的な圧縮力(プレストレス)と、膨張材による化学的な圧縮力を複合させると強度が生まれます。バイオマス燃焼灰やゴミ焼却灰を原料とした骨材に、二酸化炭素(CO2)を固定化し産業廃棄物をアップサイクルさせようと挑んでいます。コンクリートはSDGsの対極とも感じますが、CO2を低減できれば明るい未来があります。低炭素コンクリートとして、『カーボンネガティブ』を目指しています」

――CO2を閉じ込めるというのはわかりやすいです。建築業界はSDGsが遅れていると言われています。

「国土交通省は木材利用に積極的ですが、CO2の回収・利用・貯留(CCUS)の考え方ならばコンクリートでまちを『森化』できます。エネルギーでCNを達成する動きが盛んな半面、CO2を閉じ込めない限り『ネガティブ』にはなりません。CO2を吸収するコンクリートもありますが、中性化で鉄筋が錆びるため無筋コンクリート向けです。HPCは緊張材が炭素繊維のため錆びませんから、コラボレーションすれば付加価値が高まると考えます。なにより、中小企業でもCNを実現できる材料になってほしいのです」

CO2が低減できればコンクリートには明るい未来があると説明する阿波根昌樹社長

――HPCは海水で練ることもできるそうですね。面白いです。

「海水には膨張材と同じ効果があり、真水が入手しづらい島しょ国では特に有効です。原材料の除塩や真水化に費やしていた政府開発援助(ODA)予算を構造物そのものに回すこともできます」

――新規性ゆえの難しさがありますか。

「規格や基準に当てはまらないことが足かせになります。HPCはコンクリートの一種と表現するとわかりやすいですが、専門的にはモルタルでもコンクリートでもない。規定する法律もなく、満たすべき基準すらない。評価できないため、BtoG(対行政)案件を通じて突破口を開くことが重要です。初受注は那覇市旭橋のバスターミナル再開発事業でした。実装としては東京・南青山のブランドショップ『ステラマッカートニー青山』の内装材が第1号です」

■CO2閉じ込め - 中小でもCN実現

――規格が壁になるのはイノベーションのジレンマですね。新しいモノをつくる宿命です。施工にもノウハウがあるのですか。

「一般的には『特許があってもまねできる』とよく言われます。でも、このHPCには当てはまりません。常識をひっくり返していますから。水分も空気も大変少なくスライムのように粘ります。薄くつくるには支障ないですが一般的な建物では使いにくく、プロほど常識を当てはめて扱いに失敗してしまいます」

――それでは普及の障壁になりますよね。

「課題でもありますが、プロテクトにもなります。ノウハウを積み重ねないと設計すらできません。コストに見合う形で生産に落とし込めないからです」

――身近な素材としての普及が進むには何が求められますか。

「建築基準法で定める壁に使えるようになることが必要です。非構造の帳壁で耐火認定も取れれば一気に用途が拡大します。HPCは軽いため、建築家はコストダウン目的で採用するでしょう。大学での実験や日本建築センターでの評定申請を進めています。製作に人件費はかかりますが、それだけ付加価値もあります。工芸品のようなコンクリートです」

――意匠や仕上げで“見せる”ことも付加価値でしょう。芸術の域にまで高めて、可能性も広げたと感じます。

「結果的にそうなりました。建築家はほかと同じことをしないので、私たちも一点物のドレスをつくる感覚です。大手商社を通じて世界に紹介され『繊細でクール。日本人にしかできない』『カーボンネガティブにセレブリティーは興味がある』という米国からの声も聞いています。潜在市場はあります」

HPCが採用されている「あまわりパーク歴史文化施設」

――石川県の伝統的な絹織物メーカーでは、高くても品質の良さを理解する海外ブランドが生地に使ったことで、国内から引き合いが来るようになったそうです。トヨタ「プリウス」も西海岸のセレブが乗り、世界的ヒットにつながりました。

「日本ブランドへの信頼は高いと感じます。メード・イン・ジャパンの技術は刺さります。台湾でも関心は高いですが、現地の精度では施工できないとも言われます。日本の建築技術を伝えながら沖縄から輸出することを見据えています」

――沖縄からイノベーションが発信されるのは素晴らしいです。

「夢はHPCを海洋建材にすることです。小学生の頃、沖縄国際海洋博覧会の『三菱海洋未来館』で、海底都市を50年後の未来として紹介されていましたが実現していません。塩分に強いHPCは海中データセンターの建材のほか、藻場の土台として水産資源によって炭素を固定する“ブルーカーボン・オフセット”に貢献できます。海洋国家・日本にふさわしい建材として用途を広げていきます」

株式会社HPC沖縄

所在地 : 沖縄県浦添市宮城3の2の8
電話 : 098-897-3211
資本金 : 4762.5万円
従業員数 : 1名
設立 : 2014年11月21日
URL : http://hybridpc-okinawa.com/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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