新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.4 BCP】災害をきっかけに芽生えたBCP強化の動き

株式会社賀陽技研 代表取締役 平松稔

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「事業継続計画(BCP)」策定の積極的な取り組みで評価を得ている、金属プレス加工、金型の設計・製作、試作品の生産などを手がける賀陽技研を紹介する。

■製造業で初「レジリエンス認証」

――他社に先駆けてBCPに取り組んできたとお聞きしています。意識はしているが、まだまだしっかりと取り組めていない中小企業が多い中、2016年に製造業で初めてとなる「国土強靭化貢献団体認証(レジリエンス認証)」を取得されました。その背景についてお聞かせください。

「分社化で賀陽技研を設立した時に、コンサルタントの先生から岡山県が主催するBCPセミナーを紹介されたことがきっかけです。セミナーに参加した13年当時は『地震が少ない岡山県でBCPに取り組んでいれば知名度が上がるのではないか』とマーケティング手法の一つとして始めましたが、セミナーを受講し、その考えが変わりました。セミナーでは11年の東日本大震災発災後の中小企業の状況などについての話があり、復旧に時間がかかれば生産を再開しても顧客を失う可能性が高いことを教えられました。その後、コンサルタントの先生に新潟県燕市の燕商工会議所を紹介してもらい、生産が困難な状況になった際に代替生産を行ってもらうBC(事業継続)連携協定を現地の金属加工会社2社と14年に結ぶことができました」

――連携開始から9年がたち、お互いの経営状況などの変化もあるかと思います。

「今までの製品であればこの連携で対応できますが、現在の主力製品である電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の部品の場合は、新たな連携先を探す必要があります。南海トラフ地震などの大きな災害や有事を想定しながら、EVやHEVの部品が過当競争となっている国内の現状を考えると、海外も含めた新たな連携先を探しています。また、販路を海外に広げることも検討しています」

海外展開も見据え、1月に第2工場を新設した

■BCPきっかけ―海外展開も視野

――BCPをきっかけに海外展開も視野に入ってきたのですね。BCPに取り組んで会社が変わったことはありますか。

「当初は私が中心となり一人でBCPの訓練などを行ってきましたが、災害が起こった時に私がいない、私自身が被災してしまう可能性もあります。そのことを想定し、社員数が20人を超えた頃からは、社員を中心に訓練などを企画して活動してもらっています。社員の当事者意識が育ってきていると思っています」

――18年には西日本豪雨で、岡山県でも大きな被害が出ました。当時のマニュアルに基づいた対策をとられて何か気づいた点などはありましたか。

「会社のある吉備中央町は、短時間に大量の降雨を記録しましたが、幸いにして被害はありませんでした。当時のマニュアルに基づいて、顧客に生産継続が可能な状況であることを電話で説明した後に、外注先1社が水没していることが判明しました。そこで被災した企業に加工を依頼していた製品を回収に行き、新たな外注先を探して2社に発注しました。約3週間後に水没した会社も設備が復旧したため、取引を再開しましたが、あと1週間復旧が遅れていたら取引を再開したかどうか分かりません。この時は仕事を発注する側でしたが、納品を継続することの大切さを身をもって体験できました」
「当社は山の上に立地していますが、仮に崖崩れが発生していたとしても主要な道は3本ありますので、孤立することはなかったと考えています。しかし、最も注意しなければいけないのは火災だと思いました。全焼してしまうと機械が使えなくなってしまい、生産が完全に止まってしまいます。金型は火災を想定し外で保管するようにしています。消防団に所属している社員を中心に防災訓練を強化しています」

地域の発展にもBCPの取り組みは重要と説く平松社長

――そのような経験を重ねながらBCPを強化されていくと思うのですが、CSRやサステナビリティー、地域貢献などいろいろなキーワードがある中で、BCPの意義に関してどのようにお考えですか。

「社員もBCPに対する取り組みを理解してくれています。まず社員と話したのは、当社の存在意義についてです。会社がなくなったとして、社会が困るかどうか。もし困らないならBCPをやめる。困るならBCPを続ける。社員からはいろいろな意見が出ましたが、最終的には自分たちの会社は世の中の役に立っており、存在意義のある会社としてBCPを続けるべきだという結論になりました。私は社長として在籍する社員の雇用を守り、新たな雇用を創出し、地域の発展に貢献する経営方針を貫くためにもBCPへの取り組みは重要であると考えています」

――BCPを強化し事業計画に盛り込みながら、いろいろなビジョンをお持ちだと思いますが、さらにここから力を入れていきたいことは。

「当社は自動車業界向けの仕事をメーンにやってきました。ただ岡山県内の自動車産業の規模が小さくなってきているので、生き残っていくためには今のプレス加工とは別の柱も打ち立てなければなりません。そのビジョンは今年か来年に具現化を目指しています。社員もやる気になってくれています」
「これもBCPの考えにつながるのですが、経営指針書はBCPの考えを基に作成しています。今の主力事業が継続できなくなった場合を想定して、10年後のビジョンや中期および単年度の事業計画を作成し、月に1度、その進捗について共有しています。経営指針の計画を達成していく中で、社員は将来のビジョンを想像しやすくなり、仕事に前向きに取り組んでくれています。人材育成の観点からもBCPは重要だと考えています」

株式会社 賀陽技研

所在地 : 岡山県加賀郡吉備中央町黒山12
電話 : 0866-56-7109
資本金 : 1000万円
従業員数 : 35名
設立 : 2012年
URL : https://kayougiken.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

大航海時代 偉人タイプ診断