新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.4 BCP】自社を守り、他社の助けとなるBCP(策定)

大成ホールディングス株式会社 代表取締役 德倉俊一

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は、「事業継続計画(BCP)」策定の積極的な取り組みで評価を得ている、ケミカル事業・文化事業・資産管理事業を展開する大成ホールディングスを紹介する。

■リスク管理のDNA-脈々と

――不確実性の高い時代では大きな経営環境の変化に耐えられるレジリエンス(復元力)を高めることが必要です。先行きが不透明で将来を予測するのは難しいですが、どのようなリスクを想定し、BCPを策定してきましたか。

「7代目の先代社長、徳倉眞治はリスク管理意識が高く、三菱商事の財務部門出身だったことから、災害などに加え、財務や資金繰り、保険などに対してもリスクを手厚く管理していました。2008年秋のリーマン・ショックの時には徳倉から、売上高が80%、50%、20%減少した場合、それぞれどれだけの期間、会社を存続できるのかを尋ねられたことがあります。これは社員や取引先などのステークホルダー(利害関係者)に迷惑をかけないためです。このような徳倉のDNAが経営陣や社員に根付いているため、我々のリスク管理意識はもともと高いと思います」

――11年3月11日に発災した東日本大震災が引き金となり、BCPに対する取り組みがさらに加速したと聞いています。

「幹部の一人ひとりをリスクに対応できる人材にするという狙いから、震災前まではBCPを人材育成に活用しようという部分が大きかったのですが、東日本大震災で状況が一変しました。事業会社である大成ファインケミカルの本社は東日本大震災で被災した千葉県旭市にあります。震災の4日前に製品倉庫のラックに取り付けた落下防止装置のおかげで社員が命拾いしました。原料が入った180キログラムの重さのドラム缶が30本近く積んであり、取り付けていなかったら大惨事になっていた可能性があります」
―大成ホールディングスと大成ファインケミカルの研究開発、営業部門が東京都葛飾区、大成ファインケミカルの本社と工場が千葉県旭市、事業会社である大成化工が千葉県成田市と拠点が分散しています。拠点の環境に即したBCPを策定しているのもポイントです。
「旭市の拠点では千葉県東方沖を震源域とするマグニチュード7.3/震度6強を、葛飾区では東京湾北部を震源域とするマグニチュード7.3/震度6強をそれぞれ想定したBCPを策定しました。また葛飾区では低地で河川沿いに位置することから水害を、成田市では地盤が固い高台にありますが、周辺道路の遮断を想定したBCPにしました。拠点が3カ所に分散していることを生かし、拠点間で相互支援する仕組みも作りました。策定して終わるのではなく、緊急時にスムーズに対応できるように、定期的に防災訓練も実施するなどBCPを維持・管理しています。BCPを策定し、緊急時に実行することで、組織と個人の力がアップし、企業の成長に結び付くと考えています」

水害を想定し、避難ボートも保有。地元町会との共同訓練にも参加

■拠点ごとの特性でBCP策定

――新型コロナウイルスの感染拡大前に、BCPではインフルエンザのパンデミック(世界的大流行)もすでに想定していました。そのためコロナ禍にも迅速に対応でき、コロナ収束後の会社の成長スピードも変わってきます。

「普段からリスクに対して何も考えていないと、いざという時にあたふたするだけですが、我々には10年以上の積み重ねがあります。一般マスクに加え、米規格N95の医療用マスクも準備してあり、社員と取引先を守るだけではなく、近隣の病院に寄付もできました。また清掃用除菌アルコール剤と希釈用原液を学校や病院向けに供給できました。リスクに対応することで、社員と家族を守るとともに、取引先に貢献するという使命感が芽生えます。企業の存続と発展に向けて組織を動かす中で、柔軟で適切な対応力や統率力も養われます」

――今後、BCPをどのように発展させていきますか。

「CSR(企業の社会的責任)の『七つの中核主題』を軸に、ESG(環境・社会・企業統治)や国連の持続可能な開発目標(SDGs)と関連付け、具体的な取り組みを設定し、中期計画で実行していきます。企業統治を支えるのがリスクマネジメント、BCPと位置付けています。コロナ禍で肉体的・心理的ストレスがある不安定な状態の中、経営陣は工場の勤務形態などの変化を求めました。働き方改革やウェルビーイング(心身の健康と幸福)が叫ばれる中で、これからは社員に負担をかけずに、どのようなリスクに直面しても無理なく稼ぐことができる企業にしなくてはいけません」

創業の精神とBCPの策定について説明する徳倉社長

――BCPの策定に取り組もうとする企業にアドバイスをいただけませんか。

「BCPを策定していればお客さまから評価され、策定していなければお客さまから選ばれないというのが時代の流れです。設備投資をする時に、それがBCPに役立つかどうかを考えながら投資をすれば、一石二鳥も三鳥も狙えます。また資金がないからと、すぐに諦めるのではなく、まずは知恵を絞ってください。これまで知恵を絞る前に諦めていたことが、積み重なっていくと相当な力になり、普段使いのBCPが出来上がります。まずは取引先と経営を守るには不可欠な〝社員の命を守ること〟から始めてください。BCPは社員と取引先、経営を守ることになります。中小企業こそ積極的に取り組むべきなのです」

大成ホールディングス株式会社

所在地 : 東京都葛飾区西新小岩3の5の1
電話 : 03-3691-5484
資本金 : 4500万円
従業員数 : 140名
設立 : 1925年
URL : https://www.taisei-holdings.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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