新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.5 人材育成・確保】目線を合わせた社員の意識改革と生産性向上

服部製紙株式会社 代表取締役社長 服部正和

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「人材育成・確保」について積極的に取り組み成功を収めている、独自抄紙法のキッチンペーパーや、アルカリ電解水を用いたウエットティッシュなどの製造販売を行う服部製紙を紹介する。

■取引先の監査で「高評価」

――日本は生産人口の減少による人材不足で人の価値が高まっています。経営者が人的資本経営をテーマに社員との向き合い方などで迷っている中、御社は社内外の研修を積極的に活用しています。人材教育の必然性を感じたのはいつからですか。

「私は営業責任者として40年以上前から首都圏の新規開拓に携わり、お客さまとの信頼関係を築いてきました。ただ異物混入などの商品クレームがあると信頼関係が一気に崩れます。これまでクレームの多くはヒューマンエラーでした。14年前に私が社長に就任したとき、まず異物混入を防ぐための取り組みを徹底し、工場をきれいにする環境整備を行いました。当社はキッチンペーパーなどを製造販売しています。生産工程における髪の毛の徹底排除は当然ですが、異物混入リスクを最小限に抑えるため材料や包装資材をエアシャワーに通します。おかげさまで年に1回実施される取引先の大手量販店の監査では、高い評価を得ています。それでもヒューマンエラーのリスクは常に存在します。全現場に取り組みや意識を浸透させるためにも、上司が部下に対して同じ目線で現場教育することを徹底しています」

――工場をきれいにしようと環境整備が始まりました。社員の意識はどのように変わりましたか。

「新年度になる9月に毎年事業発表会を開きます。そこで必ず私の異物混入を防ぐ環境整備の考えを社員に伝えて、異物混入を防ぐことが結果的に会社の利益につながり、自分たちに還元されることを理解してもらいます。役職者には来期の計画などを数字と併せて伝えています。より深く理解してもらうことによって、現場の雰囲気や生産性も良くなっています」

――中間管理職の意識改革が重要なポイントになります。マネジメントはどのようにお考えですか。

「仕事への考えや取り組み方には個人差があります。なかには指示待ちの社員もいますが、少し考えて行動すれば生産性が上がります。例えば製造現場で機械のトラブルが発生した場合、その間に人員をほかの仕事へ誘導するなど、上司が的確な指示を出せれば生産性を落とさずに済みます。また、他部署から見れば担当部署では気づかない改善点などが見えてくることもあります。担当外でも指摘できる環境づくりも大切だと考えます」

採用は大事だが、今いる社員に働きつづけてもらえる環境づくりも重要だと話す服部社長

■工場きれいに―部下と同じ目線で現場教育

――中小企業大学校総長賞を受賞されるなど外部セミナーを活用しています。研修後に社員の意識は変わりましたか。

「数人の社員が同じセミナーを受講する場合もありますが、受講者の意識の違いで差が出ます。学びたいことがある意欲的な社員には外部教育で多少費用がかかっても、希望するセミナーを受講させたいと思っています」

――物流コストが高まる中、付加価値が高く他社がまねできないグローバルニッチの商品をつくる必要があります。今後の人材育成については。

「当社の立地する愛媛県四国中央市は製紙・紙加工業で発展してきましたが、首都圏周辺の同業者に比べて物流面などで不利な点があります。昨今の物流費高騰により、当社の売上に対する運賃比率は6年前から比較して3%程度増加しました。しかし付加価値の高い商品を作り続けることでこの問題を乗り越えられると考えます。当社は5年前にアルカリ電解水を用いた掃除シートを米国の展示会に出展し、汚れがすごく落ちると高い評価を受けました。世界でも類を見ない“ジャパンテクノロジー”の商品で海外展開を進めていきます。22年に稼働した川之江工場は量産・高品質に対応する最新工場で、海外競争にも十分対応できます。しかし当社の商品は対面でしっかり説明する必要があり、課題は英語で当社製品を説明できる人材の育成と販路の開拓だと考えています」

――製紙業は過去に海を汚した反省からCSR(企業の社会的責任)活動が進んでいます。御社は環境に優しい商品開発を経営理念に掲げています。採用活動を通し若者の環境意識も高まっていると感じますか。

「当社はトイレットペーパーなど家庭紙の製造販売を長く続けてきました。地球温暖化の問題に直面したとき、美しい海や河川、湖沼を次世代に引き継ぐためにどうすべきか、という視点で商品開発に取り組むようになりました。植物の光合成は地上の森林などで行われるものが約3割に対し、藻や植物プランクトンなどの海中林が約7割となっています。海や湖を汚さないことが光合成促進の有効な手段と考えます」
「家庭から汚れを出さないことを商品開発のコンセプトに、合成界面活性剤を使用しない『重曹電解水』『アルカリ電解水』を活用した掃除用品などを提供しています。水環境をはじめ各方面への貢献ができると自負しています。採用に関しては応募者の中に、私の著書『ナチュラル洗剤のキホン』を読んだり、ホームページを見たりして当社の環境問題への取り組みを志望動機にする環境意識の高い若者が増えています。今後も会社説明会や工場見学で環境への意識や働きがいを積極的に伝えていきます。採用も重要ですが、社員が辞めない会社をつくることが最も重要です。社員がコミュニケーションをとりやすい環境を整え、上司には部下にじっくり話を聞く態度で接してほしいとお願いしています」

アルカリ電解水を用いた製品は、重曹や水が主原料で界面活性剤を使用していないため、肌への刺激が少なく、人や環境に優しい点が好評を得ている

服部製紙株式会社

所在地 : 愛媛県四国中央市金生町山田井171の1
電話 : 0896-58-3005
資本金 : 9900万円
従業員数 : 163名
設立 : 1950年
URL : https://www.hattoripaper.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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