新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.5 人材育成・確保】会社を育てる社内選抜集団 “カイゼンのプロ”とやりがいの創出

やまと興業株式会社 代表取締役社長 小杉知弘

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「人材育成・確保」について積極的に取り組み成功を収めている、自動車部品事業とエンターテイメント事業を手がけるやまと興業を紹介する。

■若手選抜で「カイゼンのプロ」

――人口減少社会では今在籍している社員を大切にして、育てていかなければなりません。社内の人材が成長していくプログラムを持っている企業が多くはない中で、御社は早い段階から必要性を認識し、人材育成に取り組んでいます。どんなきっかけがあったのでしょうか。

「きっかけは2008年に起きた『リーマン・ショック』でした。当時社長だった小杉昌弘現会長は『人が財産である』と唱え続け、仕事が激減しても人員整理はしないと決意していました。そこで、いずれ景気が回復してくる時期に備えて、会社の体質を強化するために社内で『カイゼンのプロ』を育てようと考えました。09年から幹部が先行してトヨタ生産方式(TPS)を学び、各部署から選抜した若手社員に2年をかけて伝える『業務改善プロジェクト(GKP)』を実行することにしました。カイゼン自体は初めてではなく提案・表彰制度などの素地はありましたが、あくまでも職場単位の取り組みでした。GKPでは会社組織として選抜した若手社員を『カイゼン専門の集団』に育て、元の所属にこだわらず習得したスキルを生かせる職場で、カイゼンのサイクルを回していくことにしたのです」

――部署ごとではなく、会社の機構として「GKP」という活動を設けたことでどのような効果を生みましたか。

「GKP参加メンバーは課題意識を持ち、専属でカイゼンに取り組みます。専属でカイゼンに取り組むメンバーが従来の所属とは違う部署で活動することにより、一人ひとりが考えてくれるようになりました。社員はまじめにやってくれていますが、同じ仕事が続くとどうしても〝慣れ〟が生じ、まさに〝作業〟として流してしまうことでミスも発生しやすくなります。長年担当業務を続けている作業者は必要性を感じなくても、他部署の人から見ればカイゼンする点があります。そこでお互いに勉強できるのです。GKPの卒業生は大きく成長します。現場の問題提起が早くなり、人の育成も非常にうまくなります。将来の幹部候補生として期待しています」

カイゼンを継続していくことで会社がどう変わっていくか、将来の現場の姿が楽しみだと話す小杉社長

■考える―やりがい・仕事の面白さ・成長

――TPSやカイゼンと人材育成はどのようにつながるとお考えでしょうか。

「定常的な仕事にはやりがいが必要です。毎日8時間同じ仕事を続けるのは大変なことです。カイゼンの課題を常に考えることが大切で、やりがいや仕事の面白さ、成長につながるのではないでしょうか。カイゼンによる効率化で自分の作業も楽にできる。楽にできるための工夫で人は成長していきます」

――専属でカイゼンに取り組む人材は、感性が豊かだったり多様な意見を受け入れたりする能力が必要だと思います。どのような人材がいいのでしょうか。

「開始当初は私が各職場の中で優れた人を指名していましたが、現在は管理職に推薦を依頼しています。ただ、優秀な人材であっても選抜直後は『辛い』と漏らすことがあります。現場にはさまざまな疑問や不満があります。年上の社員へは相談しにくいことも、カイゼンの専属メンバーにはうまく吐露してもらうことが大切です。GKPメンバーの仕事はカイゼンです。最近はIoT(モノのインターネット)やデジタル技術で収集したデータに基づく根拠や論理を用意して改善点を指摘するようにしています」

――カイゼンの成果や進化した会社の姿を従業員にどのような指標で伝えていますか。

「カイゼンによるコスト削減効果を金額に換算した『カイゼン活動成果額』を毎月発表しています。各課に毎年の目標額を設定して達成度を競い、最も成果を上げた課や個人を表彰します。会社はまだ進化の途中で、カイゼンは永遠です。カイゼンを継続していくことで会社がどう変わっていくか、5―10年後の現場の姿が楽しみです」

――カイゼンも結局は人なのだと思います。カイゼン魂を継承するためにこれから深刻化する人材不足の中で、どうやって人材を確保していきますか。

「自動化も必要ですが、人でなければできない仕事はもちろん、社風の継承にもやはり人が必要です。明確な答えはありませんが若い人が頑張れる仕事をどう創っていくかが大切だと考えています。当社は主力の二輪・四輪部品以外にも発光ダイオード(LED)商品や粉末緑茶などを手がけています。特に『商品部』という部署ではキャラクターグッズや、聴力が低下した人向けの会話補助装置『聴こえ♪ルンです』という商品を開発しています。聴こえ♪ルンですの販売展開に関しては、中小機構の『ハンズオン支援』を受け、マーケティング手法を学び、新たな気づきを得ることができました。若い社員の成長をサポートする取り組みが重要だと考えていますが、これは人材育成にもつながりました。社名の『興業』には新しい事業を興すという意味があります。これからも新規事業で業務の多様性を生み出し、やりがいや働きがいにつなげていきたいと思います」

マンツーマン対話器 「聴こえ♪ルンです」。新規事業で業務の幅を広げる

やまと興業株式会社

所在地 : 浜松市浜北区横須賀1136
電話 : 053-586-3111
資本金 : 6000万円
従業員数 : 336名
設立 : 1944年
URL : http://www.yamato-industrial.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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