新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.6 事業再構築】生体電極というオンリーワン技術が広げる無限の可能性

株式会社アイ・メデックス 代表取締役社長 市田誠

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「事業再構築」について積極的に取り組み成功を収めている、心電計向け生体電極の国内唯一の専業メーカーであるアイ・メデックスを紹介する。

■生体電極技術-介護に展開

――事業ポートフォリオ戦略や両利きの経営など、時代の大きな転換点を迎える中で新しい時代にフィットした経営への変化が求められています。御社は2010年から事業の再構築を進めていますが、その背景を教えてください。

「日本の人口のピークは08年の1億2808万人で、これだけの人口があったからこそ国内だけで事業が成立してきました。ですが、少子高齢化や医療費の財源確保が課題になっているように、市場は先細りになることが予測できます。また日本で販売される医療機器の80%はドイツを中心とする輸入品だと言われる中、さらに規制緩和で低価格かつ高品質な輸入品が流通しつつあります。つまり縮小する市場で海外勢と競争して生き残るのは難しいことが背景にあります」

――どのようなことから事業再構築を始めましたか。

「私は08年に入社し、まずどのような技術的な資産があるのかを整理しました。当社は多くの優れた技術を持っていますが、手続きが面倒だと特許を取得していないことが分かりました。このため10年からは特許取得を始めるなど知的財産分野から着手しました。12年には脱下請けにつながる初の自社ブランド商品『マイローデ』を発売しました。電極パッドにアース(接地)を内蔵することで、体外からの電磁波や静電気を取り除き、センサーへの影響を抑える当社発明のオンリーワン技術を搭載しました。またゲルにも工夫を凝らし、1カ月程度は繰り返して脱着が可能になりました」

――大手を含めて多くの企業が必要性を認識していても事業再構築に踏み切れません。どのような意識が原動力になりましたか。

「従業員とその家族の生活を背負っているという意識です。生活を守るには企業を持続的に成長させなければなりません。そのため常に将来のことを考えています。その結果として先手を打つことがイノベーションにつながっています。サラリーマン時代に大手IT企業のグループ会社に在籍していました。経営者はカリスマ性ある華々しいイメージの方ですが、実際は石橋をたたいて渡っており、その影響を受けているのかもしれません」

■特許取得、初の自社ブランド開発

――コアコンピタンス(中核となる能力・技術)の生体電極で培った技術の用途開発で注力されている分野は何ですか。

「介護業界では排せつと徘徊(はいかい)、服薬が三大課題となっており、これらを欧州ではセンサーを活用して負担を軽減しようとしています。我々も千葉大学や名古屋大学などと手を組み、排せつ管理などへの応用について研究しています。認知症患者の介護負担を軽減するイノベーションを創出するため、産学官でコンソーシアムも設立しました。賛同する介護施設を拠点に生活空間で研究開発するリビングラボを展開する計画です。患者が我々と一体となり、機器やシステムを開発することで、社会とのつながりを感じてもらえればうれしいです」

コアコンピタンスを大切にしながら事業の多角化を進め、さまざまな社会課題を解決すると話す市田社長

――介護業界では大きな収益の確保が期待できますか。

「もうけようとは思っていません。培った技術をほかの分野で展開することに意味があります。また、社員が社会に貢献する企業に所属しているという意識を持てばやりがいにつながります。上司が指示しなくても業務に対して自主的に取り組み、夢中になれます。この夢中になることが大事で、その環境をつくるのが経営者の仕事です。こうした企業文化を醸成すれば、持続的に高品質な商品とサービスが開発でき、必然的に業績もよくなります」

――医療と介護だけではなく、御社の生体電極技術にはさまざまな領域での可能性を感じます。今後の展開についてはどのようにお考えですか。

「人工知能(AI)の解析精度を上げるにはビッグデータ(大量データ)、つまり長時間のセンシングが必要になります。その際にも我々の生体電極の特徴である心電図をきれいな波形で表現できたり、入浴してもはがれなかったり、かぶれなかったりする高機能な技術が生きます。具体的な応用例としては植物に流れる電気信号を測定して解析すれば、農業の技術承継につながる可能性があります。そのほかに乳牛や食牛の畜産、アバター(分身)を活用したゲームへの応用などについて問い合わせもあります。生体電極に必要な製造技術も材料開発もアップデートしており、可能性は広がっています。コアコンピタンスを大切にしながら、多角化を進め、さまざまな社会課題を解決していきます」

生体電極技術はさまざまな領域での課題解決と新たなビジネスの可能性を秘める

――持続的な成長にはグローバル展開も必要になります。

「米国はコロナ禍前と後で状況が変わりましたが、欧州は日本と規制が似ているため進出しやすいです。またタイなど東南アジアの国々は経済発展が著しいですが、医療では遅れている部分があり、在宅医療などでニーズはあると考えています。多くの日本企業が現地の医療福祉分野に投資しており、日本製品を購入してもらいやすい環境も整いつつあります。このようにさまざまな新しいことに取り組んでいると、勉強しなければならないことも多く、大変ですが、社員にはワクワクして仕事に取り組んでもらえています。将来は社内ベンチャーを立ち上げてもらい、イノベーションを創出できる環境をつくっていきます。失敗もあると思いますが、社員には失敗を恐れずに挑戦してもらいたいです」

株式会社 アイ・メデックス

所在地 : 千葉市花見川区宇那谷町1504の6
電話 : 043-257-7411
資本金 : 1250万円
従業員数 : 80名
設立 : 1992年6月
URL : https://www.imedex.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

大航海時代 偉人タイプ診断