新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.6 事業再構築】既存のノウハウ×柔軟な発想が生みだすモノつくり

株式会社プレシード 代表取締役 松本修一

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「事業再構築」について積極的に取り組み成功を収めている、半導体や液晶関連の生産設備を設計製作するプレシードを紹介する。

■変化する文化-楽しんで成長

――変化の波が激しいとされる半導体業界ですが、半導体関連装置などを手がける御社も変化を重ねながら業界に貢献し続けているのが特徴ですね。

「変化するのが当社の文化です。半導体や液晶関連の装置製造はリスキーな部分もありますが、一方で新規参入もしづらい分野だと思います。そこで変化を追いかけているのが強みです。ただ顧客要請による開発装置をつくるだけではなく、売り上げの3割くらいは自社の企画商品があればいいと考えています」
「企業が存続するためには変化し進化を続けなくてはなりません。ドラッカーの言葉にあるように、凡人が集まって非凡な結果を出す組織を目指しています。『ミツバチでもスズメバチに立ち向かう組織』が理想です」

――御社は事業再構築補助金で「受注型装置開発事業から空間管理技術応用製品商品化でBツーC(対消費者)事業の確立」を受けておられますね。詳細をお聞かせください。

「きっかけはいわゆる『巣ごもり開発』です。コロナ禍で仕事がパタッと止まった時、現有の技術と材料でできることに着目しました。自社製品として長く手がけてきたクリーンブースのノウハウを生かし、アクリルではなく帯電防止塩化ビニールパネルを採用したパーティション開発に着手しました。従来のパーティションで広く使われていたアクリル素材に比べ、割れにくい丈夫さと燃えにくい安全性、静電気を帯びにくいことから清潔な状態が長く続く特徴があります」

――これが御社名にも似た自社製品の「プレシールド」の誕生になったのですね。

「独自設計で流体シミュレーション解析を実施して開発しました。薄いパネルを使うことで軽量化と低重心化に成功し、パネルを曲面にすることで空気の流れの制御を可能にしています。プレシールドの納品時、お客さまから一番言われることは透明度の高さから存在が感じられないというもので、アクリルのようなギラつき感がないことも好評価をいただきました」

自社製品の一つであるパネルブース。会社の成長のために自社製品開発を積極的に進める

■「巣ごもり開発」パーティションがヒット

――御社のこれまでのモノづくりで、どういうところが生きたと分析されていますか。

「プレシールドを開発する上で半導体の製造装置用ブースを設計・製作してきたノウハウから、まず静電気を帯びず、割れない、燃えない、パネルに使える透明度を持った素材を選定しました。そしてアルミニウムフレームの加工や金属の表面処理、それぞれの素材を組み合わせて製品化することに生かすことができました」

――反響も大きかったようですね。

「もともと当社はBツーB(企業間)ビジネス企業のためBツーC向けは得意としませんでしたが、市議会の議場や空港、自衛隊、県庁などで幅広く採用されました。特に人が多く出入りする空港のフードコートに設置されたことも大きいです。自動車のディーラーや飲食店、教育機関などからも問い合わせがありました。プレシールドに表示した製品名とロゴマークで広く知られるようになったと思います。累計8000台程度が売れました。短期間に試作を繰り返しましたが、この体験はコロナで困った社会の潜在ニーズを捉えたことを実感しました。もちろん本業は装置開発ですが、世の中の流れを捉えることがビジネスの本質だと考えています」

世の中の変化にあわせて、常に会社も変わっていく姿勢を持つことが重要と説く松本社長

――自分たちの技術だけに執着せず、柔軟にという発想ですね。

「技術は構成する要素ごとに分解すると、より面白さが深まります。例え寄せ集め技術でもいろんな世界に踏み込めます。独立型の当社が生き残ってきた理由だと思います。課題を何とかしてくれる会社との評価も定着しつつあります。現状に満足せずに進化を続けていきたいです」

――今後はIPO(新規株式公開)を目指されるそうですが。

「幹部候補人材を採用できたことや事業全体の上昇機運からIPOを目指したいという挑戦意欲が高まりました。2026年のIPOを目標に、現状はショートレビューを終えたばかりでまだまだ道のりは長いです」

――IPOを目指すことは事業再構築にもつながります。IPOへの挑戦は、御社内でどういう相乗効果をもたらすとお考えですか。

「IPOを目指すことを手段とした社内の管理体制のレベルアップです。見よう見まねで運用してきた企業経営に、洗練された手法を取り入れ無駄のない企業像を追う社内体質が育ち始めました。IPOは目的ではなく成長へのツールと考えて上場へと導き、後進へ引き継ぐつもりです」

――今後の飛躍に向けて、成長戦略の軸は何を打ち出しますか

「創業以来の事業コンセプトはクリーン、精密、省エネルギーを支える産業機械の開発です。上場がすべてではありませんが、次のステージに上がるためには自社企画製品の開発も重要になるでしょう。現状は売り上げの十数%、いずれ3割を目指したいです。それができてこそ、真のメーカーになることができます。創業時に目指した夢を追っていきます。そのためにもモノづくりの現場では常に面白さを追求し続ける必要があります」

株式会社プレシード

所在地 : 熊本県上益城郡嘉島町井寺250の9
電話 : 096-235-7727
資本金 : 9900万円
従業員数 : 110名
設立 : 1989年11月
URL : https://www.preceed.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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