新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.7 スタートアップ・ベンチャー】起業への思いと様々な経験が生み出した、AI検査機器の開発

株式会社フツパー 代表取締役 大西洋

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「スタートアップ・ベンチャー」をテーマとし、人工知能(AI)による安価な外観検査自動化サービスを展開するスタートアップ企業のフツパーを紹介する。

■AIで検品検査 自動化

――日本に数ある製造会社にとって、検査の自動化は共通の大きなテーマです。このサービスを開発するフツパーを起業した経緯を教えてください。

「もともと起業したい、サービスを自分で開発したいという思いがありました。広島大学を卒業後、まず総合部材メーカーに就職しました。売上高の約7割を海外が占める大企業でしたが、実際に働いてみると多くの業務がアナログでした。大手でさえそうなのだから、中小企業はもっと旧態依然に違いない。製造業の課題を実感しました」
「メーカーを退職後、自分でITサービスを開発しイスラエルで起業に挑戦したり、設備工事会社に再就職して社内ベンチャーの経験を積んだりしました。その中で多くの中小企業が目視で検品検査をしているということを知り、人工知能(AI)による検査というアイデアを考案して会社を興しました」

フツパーの外観検査AIソリューションは、食品業界に限らず製造業なら何でも対象になり得る

――目視での検査をAIで代替するのは画期的と思いますが、開発に苦労したのでは。

「当時は検査業務に詳しくなかったので、かえって挑戦できたのかもしれません。業界では当たり前のことも最初は分かりませんでした。カメラやセンサーを組み合わせて検査の仕組みを構築しましたが、対象を撮る際、朝と夕で部屋の明るさが違うために結果が変わってしまったこともあります。試行錯誤しつつも起業から半年ほどたったとき、大手総合商社グループの案件を受注しました。『やるしかない』と腹をくくり、受注から半年でなんとか納品することができました」
「フツパーの根本的な思想は起業当初から変わりません。機械が連携するところはインターネットに接続しないエッジ処理の考え方を取り入れ、スタンドアローンで画像を迅速に処理できるようにします。一方、人が確認すべき情報はクラウドに上げられるようにしました。既存の仕組みのほとんどはクラウド側に全情報を上げるかエッジ処理するかのどちらかだったので、ここを組み合わせたことがフツパーの革新的な点だったと自負しています」

■眠れるデータ活用-生産性アップ

――スタートアップは起業当初、死ぬ気で働かないと生き残れないというイメージがあります。大西社長は当時、どのような働き方をしていましたか。

「最初の1年は丸々1日休んだ日はなかったのではないかと思います。たまに公園でサッカーをしていましたが。当時は現取締役兼最高執行責任者(COO)の黒瀬康太、現取締役兼最高技術責任者(CTO)の弓場一輝と共同生活し、受託開発などをしながら自社サービスを開発していました。意見の対立もしばしばあり、特に黒瀬とはけんかが絶えなかった記憶があります。とはいえ3人というのが絶妙なバランスでした」

――スタートアップでは創業者同士の決裂が生じることも少なくありません。共同生活していたことが良かったのでしょうか。

「もともと仲が良かったことに加え、3人とも精神がずぶとかったのが幸いしました。あとは商社の大型案件受注をきっかけに、事業が伸びていったことも精神的な安定につながったと思います」

――今後、フツパーをどのような会社にしていきたいですか。

「直近の3年間で大手との取引が増えてきました。顧客の要望をきちんと分析し、工場の自動化や最適化に足りないピースを埋めるサービスを増やしていきます。例えば人員配置の最適化など、手作業でやっていることをシステムで代替するような仕組みを今後出す予定です」

――特に注力する業界はありますか。

「大量生産を必要とする食品業界は完全自動化と相性が良いと見ています。コンベヤーを流れてくる製品を人が検査する作業を自動化できます。食品に限らず、金属部品や樹脂成形も含め、製造業なら何でも対象になり得ます」
「製造業に関するデータは各社が保有しており、一般的な言語や画像のようにインターネット上に共有されてはいません。活用されていない情報が各社内に多く眠っていますが、フツパーのAIを利用することにより、生きたデータを自動化や最適化に活用し、生産効率を底上げできるチャンスがあると捉えています。」

AIを利用することにより、生きたデータを自動化や最適化に活用し、生産効率を底上げできると話す大西社長

――製造業の未来をどう見通しますか。

「自動車次第ではないでしょうか。電気自動車(EV)普及のカギを握るのは(規制などの)ルール作りです。今の流れが進むと、素材や精密部品といった高付加価値の分野は生き残るでしょう。一方、量産分野で日本企業の強みが発揮できなくなり、稼ぎ所がなくなることも懸念しています」

――日本のスタートアップをもっと活発化させるためにはどんなことが必要でしょうか。

「東京以外の地域で起業家の母数が少ないことは事実です。スタートアップへの資金の出し手や成功事例も少なく課題です。宇宙開発や半導体など、今まさに世界と競争しなければ立ち遅れてしまう分野のスタートアップには特に積極的に投資するべきだと思います」

株式会社フツパー

所在地 : 大阪市淀川区西中島1の11の16 新大阪CSPビル北館4階
電話 : 06-7777-2552
資本金 : 1億円
従業員数 : 55名
設立 : 2020年4月1日
URL : https://hutzper.com/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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