新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.7 スタートアップ・ベンチャー】挑戦と研究の継続から生まれた創業76年のベンチャー

株式会社白山 代表取締役社長 米川達也

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「スタートアップ・ベンチャー」をテーマとし、熱電変換技術の社内ベンチャーを設置した白山を紹介する。

■光コネクター、DC向け急伸

――御社は2020年にグローバルニッチトップ企業100選に選ばれるなど、革新的な研究開発が高く評価されています。〝ベンチャースピリット〟はどのように育まれてきたのでしょうか。

「実は10年前、倒産の危機に陥りました。かつては電線の雷防護として電話加入者への設置が義務付けられていた保安器のトップメーカーでした。それが電線から光ファイバーへ変わると保安器の需要はなくなり、約80億円あった保安器の売り上げは100分の1にまで激減。それまで40年間、お客さまの要求仕様通りのモノづくりに特化した、完全な下請け体質でやっていました」
「一方で、私の4代前の社長がいずれ光ファイバーの時代が来ると見越して、樹脂成形の技術を生かした光コネクター部品の開発に乗り出していました。しかし当時はケーブルとコネクターがセットになっているものが必要とされており、コネクター部品だけ売り込んでも採用されませんでした。それでも諦めずに開発を続けていたところ、インターネットが登場して、データセンター(DC)で大量の光ファイバーが使われるようになり、光コネクターの需要が急激に伸びたのです。今では、当社の光ファイバー接続用樹脂部品『MTフェルール』は光コネクターの世界シェア2位まで成長しましたが、収益を上げるまで20年かかりました。このような紆余(うよ)曲折を経て、当社は〝創業76年のベンチャー企業(VB)〟と自負しています」

――なぜ収益を生まない事業を20年も継続できたのでしょうか。

「一人の技術者の存在につきます。当時は利益を生まない製品開発を行っていることに反対の声もありましたが、彼は諦めずに挑戦を続けてくれました。また、歴代の社長がその開発を認める先見の明があったからだと思います」

――16年に本社機能を東京から石川県金沢市に移転されました。石川県とベンチャースピリットはどのようなつながりがあるのでしょう。

「当社は1947年に東京の三田に白山製作所として創業しました。創業者は金沢市出身で、社名の白山は石川県の白山に由来しています。ベンチャースピリットを一番持っていたのはたぶん創業者でしょう。石川県工業試験場や北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)など石川県には研究開発の優秀なリソースがたくさんあります。実は私も石川県出身で大学まで金沢にいました。人脈もあり、北陸新幹線の開通で能登工場とのアクセスが良くなったことなどの縁が重なって移転しました」

■“創業76年のVB” 知見・技術 融合し新価値

――現在、注力されている研究開発は。

「熱電変換素子の開発です。熱電変換素子は熱と電気を変換する素子で、従来の熱電モジュールの材料にはレアメタル(希少金属)が使われています。当社はマグネシウム、シリコン、スズを用いた〝レアメタルフリー〟をコンセプトに開発しています。この研究はかつて保安器の製造に使っていた設備の有効活用がきっかけで始まりました。その後、石川県工業試験場の先生にも参画していただき、補助金を活用した共同開発プロジェクトに成長しました。16年には、工業試験場の5階に研究開発拠点『金沢R&Dセンター』を社内ベンチャーとして発足しました。また今後の事業化を見据えた開発拡大のために、共同開発を行っているJAISTや金沢工業大学からアクセスが良い中小企業基盤整備機構運営の『いしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)』を活用しています」

今後の事業化を見据えている熱電変換素子の開発風景

――レアメタルフリーの熱電変換材料の利点とは。現在の開発状況はいかがでしょうか。

「産地が偏っているレアメタルが多いので、政治的な問題が起これば供給へのダメージが大きいです。レアメタルは希少かつ高価な材料なので、代替できれば持続可能な社会に貢献できます。熱電変換は古くから存在する技術であるものの、市場が小さくアプリケーションの開発が進んでいませんでした。今は用途開発に注力しています。その一例が排熱発電ユニット『スチームバッテリー(SteamBattery®)』です。工場などで発生する水蒸気は冷却処理した上で排出されています。その温度差から発する熱エネルギーを電気に変換することによりエネルギーの再利用ができるのです。量産までの技術的な課題を解決するべく、実用化に向けて新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や石川県産業創出支援機構の支援を受けて開発および実証評価を行っています」

――これまで諦めずに研究を継続されたことが実を結ばれています。社員には挑戦する機運をどのように伝えていますか。

「トップダウンではなく、ボトムアップです。当社の研究開発に共感して中途入社した社員が、社長の思いや新しい文化を伝える役割を果たしてくれています。『新しいことをやってみよう』と周りを巻き込むコミュニケーション力や、下請け企業気質から独立企業へとマインドセットを変える力を持っています。彼らの存在が大きいですね」

――ベンチャーとは新しい価値を生み出していくものであり、ベンチャーとイノベーションは一体だと考えます。新しい価値を生み出すには何が必要でしょうか。

「絶対に必要なのは人とのつながりであり、基盤となるのは信頼関係を築くこと。ネットワークを広げることによって知見や技術が融合し新しい価値が生まれます。そしてモノになるかどうかを実験すること。どんなに小さなことも挑戦してみることが大切です。創業76年のベンチャー企業として、これが肝だと思います」

人とのつながりを大切にすることでネットワークが広がり、知見や技術が融合し新しい価値が生まれると話す米川社長

株式会社白山

所在地 : 金沢市鞍月2の2 石川県繊維会館1階
電話 : 076-255-2875
資本金 : 1億円
従業員数 : 134名
設立 : 1947年10月15日
URL : https://hakusan-mfg.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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