新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.8 DX】豆菓子屋のDX化と経営改革

池田食品株式会社 代表取締役 池田光司

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「DX」をテーマとし、地元北海道産の原材料にこだわった豆菓子やかりんとうなどの菓子製造を行う池田食品を紹介する。

■“黒船”来航、変革のチャンス

――規模の大小にかかわらず、日本の企業はすべからくDX(デジタル変革)化が求められる時代となりました。ただ、中小企業がDX化を進めるには多くの困難が立ちはだかっています。特に老舗の看板を背負っている御社では、さらにご苦労が多いものと思います。まずDX化を進めることになったきっかけを教えてください。

「乾物商を営んでいた前身を含めると、1948年創業ですから昨年で75周年を迎えました。創業の翌年には落花生を使ったバターピーナツを中心とする製造業に転換しました。その後、加工豆菓子を営業品目の中心に据え、かりんとうなどを加えつつ、豆やナッツ、小麦粉など北海道産の原材料を可能な限り利用して今に至っています」
「順風満帆とはいえない75年間でしたが、その中でも特にショッキングな出来事が一つあります。2015年のことでした。当社が納めていた日本生活協同組合連合会(日本生協連)から、かりんとうの製造過程で規定よりも温度が下がっていることを指摘され、Dランクの格付けを受けてしまったのです。入念に調べた結果、やはり温度が下がっている時間がありました」

北海道産の原材料と独自の加工技術で、多種多様な創作豆菓子を展開

――どうしてそうなってしまったのでしょうか。

「私と現場との意識や認識に乖(かい)離が起きていたとでも言いましょうか。私は『絶対にこうしなければならない』と考えていても、現場ではその『絶対に』の部分に温度差ができてしまっていました。生産現場も一生懸命に作業をしていたことは確かですが、機械の状態も含め、意識や認識の乖離がこうした状況を作り出していました」

――ランク付けが下がると納品先から受注できるかどうかといった死活問題にもなるわけですね。

「そうです。生協連だけの問題ではなくなってきます。生産過程で起きたトラブルは、信用問題にも及びます。私は1年間、ずっと考えました。私なりの出した答えが社員への〝言葉化〟でした。ありとあらゆることを実際の言葉にして、とにかく伝え続けようと決めました。16年から生産部門の改革をスタートし、18年に販売部門の改革、19年に意識改革と環境創造をそれぞれ開始しました。おかげさまでDランクからは17年に脱却することができました。最終的にはこれらが一つにまとまってDXを構築したことになります」

■生産・出荷・在庫-数値で一括管理

――なるほど。それにしても長期的な視野に立った会社の改革を進めるには思い切った英断が必要だったでしょう。システムの概要を教えていただけますか。

「すべては基幹システムがベースです。受注、生産計画、包装、出荷、在庫管理までを一括して管理します。弊社内では公募でこれを『豆シス』と名付け、業務効率化と一元管理を両立させ、一気通貫で進める仕組みです。さまざまな数値管理を受注、包装、生産の各部門で一元管理できるようになったので、多くの場面で二度手間を省けるようになりました。包装を例にすると、FAXで受注すると納品伝票を作成し、これを元に包装部門が利用する段ボールの種類、内容量、入数、ケースの数、賞味期限といった包装確認書を手書きで作っていました。豆シス導入後は、最初に受注内容を入力しただけで包装確認書を自動的に出力します。必要な原料の数まで自動的に計算しますので効果は絶大でした。関係する社員にとっては1日当たりおよそ2時間の作業を削減したことになります」
「豆シス以外でもいろいろなところでデジタル化を進めました。販売店舗で導入したクラウドPOSレジシステム『スマレジ』は、社員から声が上がって実現したものです。リアルタイムで商品ごとの売り上げを集計するので、分析が可能になりました。こうなると店舗でも次の展開を見通すようになって、昼頃までに売れ行きを伸ばした商品は午後から前列の目立つ場所に陳列するなど、アクティブに動くようになりました。自分たちが愛情をもって生み出した商品ですからね。やはり買って行かれるお客さまが増えるとうれしいものです」

――日本中にいる中小企業の経営者のためにも、池田社長のデジタルによる経営変革への姿勢を教えてくださいますか。

「私たち製造企業にとって、現在は黒船の来航を受けているのと同じ環境にいると思います。ほんの数年間を見ただけでも時間外労働上限規制や食品衛生管理基準のHACCP(ハサップ)義務化などに加え、コロナ禍があって事業の再構築を余儀なくされた会社も非常に多かったと思います。日本の歴史がペリー来航で転換点を迎えたように、現代の私たちがいるこの時点もまた歴史的な転換点になるのだろうと思います」
「こうした状況を悲観的にとらえてはいけません。改革に向けた絶好のチャンスと考えるべきです。何よりも大事なことは、DX化そのものを実現することが第一ではなく、DX化によって生み出された時間をどう使うかなのです。社員にはなんでもよいので、その時間に勉強してほしいと願っています。自分の業務に無関係でもよいのです。興味が湧くことをとことん掘り下げてほしい。そうすることで人間性が豊かになっていきます。結果、会社もまた発展していくであろうと確信しています」

「DX化を実現することが第一ではなく、DX化によって生み出された時間をどう使うかが重要」と説く池田社長

池田食品株式会社

所在地 : 札幌市白石区中央1条3丁目32
電話 : 011-811-2211
資本金 : 2000万円
従業員数 : 48名
設立 : 1948年
URL : https://ikeda-c.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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