新時代に挑戦を続け成長する企業
【Vol.8 DX】金型メーカーが挑む会社・製品のスマート化

株式会社岐阜多田精機 代表取締役社長 多田憲生

中小企業・小規模事業者を取り巻く環境はこれまでにないスピードで大きく変化しており、「DX」「カーボンニュートラル」「アフターコロナを見据えた事業再構築」「販路開拓」など、多くの経営課題に直面している。そこで本企画は、先進的な取り組みで挑戦を続け、確実な足取りで前進を続ける企業のトップに、経済ジャーナリストの内田裕子氏が成長戦略について聞き、今まさに課題を抱えている企業に気づきを得てもらうことを目的とする。今回は「DX」をテーマとし、高精度・高機能な射出成形金型の設計・製造を手がける岐阜多田精機を紹介する。

■生産計画、AIが立案

――自動車部品の樹脂金型メーカーとして、デジタル技術を活用した高付加価値の金型づくりで注目されています。特徴を教えてください。

「グループで年間に約400型製造しており、デザイン性を重視し微細な凹凸形状が求められる内装部品、高い耐久性が求められる重要保安部品向けなどを得意としています。金型業界では半分程度の仕事を外注に頼るのが一般的ですが、当社では内製率を8割とし高品質を追求しています」

――金型はモノづくりの基本です。日本のさまざまな工業製品が海外企業にキャッチアップされる中、日本の金型は世界的に技術的競争力を持ち、優位性を保っています。

「それは日本が契約社会ではないからです。日本の金型メーカーは使用状況も考え、顧客がもうかるよう契約書の要求仕様以上の金型を作っています。アジアの金型メーカーでもコピーは作れます。しかし製品の設計が変わるとコピーした金型がすべてうまく使えるとは限りません」

――ソリューションの提供ですね。ただし金型の生産は徐々に日本から海外に移り、日本の金型産業は社数も従業員数も生産額も年々減少しています。

「生産現場が『日本製がいい』と思っても購買担当は別の人です。『安ければいい』と海外に、しかもコピーできる形で発注してしまいます。リコールのリスクや寿命を考えれば日本製の方が結局は安いと思います」

――価格競争が厳しさを増す中、どんな差別化をしていますか。

「価格競争にさらされない金型を作っています。意匠性が高い自動車の内装部品には、型表面に微細な模様を加工するレーザーアブレーションなどの技術を磨いています。寸法変化が許されない重要保安部品の一部には、成形時の型内の温度や圧力を検知し加工条件の改善に生かせる『スマート金型』を提供しています」

■DXで「楽しい会社」-人も働き方も改革

――loT(モノのインターネット)やDXの取り組みはいつからですか。

「2008年の『アンドンロイド』が最初です。工作機械の稼働や停止の表示装置のデータを無線送信し、別室で加工プログラミングをする技能者に稼働状況を知らせます。表示灯を見張るだけでなく、スマート金型も開発しました。工作機械の制御装置の電流値から過剰負荷を予測し工具の欠損を防ぐシステムも実用化しました」

――デジタル技術で金型の付加価値をどう高めますか。

「一つはスマート金型を進化させます。今後需要が増えるシリコーンやウレタンは低粘度。気泡レスのためより厳しい加工条件の管理が必要で、スマート金型は有効です」
「もう一つは会社自体の高付加価値化です。金型は極端な多品種少量生産で緊急対応もあり、生産計画を毎日変更します。今後は社外や海外の工場との連携も重要で、生産計画はより複雑になります。当社では、各工程の生産計画を自動で作成・修正できるシステム『AI生産スケジューラー』を実証的に機械加工工程に導入しました。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に19年度―23年度に産学官で共同開発中です」

各工程の生産計画を自動で作成・修正できる「AI生産スケジューラー」について説明する多田社長

――このシステムに何を期待していますか。

「属人的だった生産計画立案の自動化・標準化に加え、生産実績も管理でき、技能者一人ひとりの日々の生産性が見える化できます。本人が日々の成果を確認でき、社長の私が『しっかりやれ』と言う以上に、やる気を引き出せるのではないかと期待しています」

――ほかにはどんなシステムを使っていますか。

「チャットや生産管理、解析などさまざまなシステムを使っています。重要なのは新旧含め諸データをいかにつなげるか。当社は19年に、大量のデータを高速に照会・更新・分析できる野村総合研究所のクラウド型データベースシステム『NRI BOS』を導入し、加工データ収集などにも使っています」

――デジタル技術にはどんな新しい活用法がありますか。DXでどんな会社を目指していきますか。

「顧客の海外工場に金型を貸し、遠隔の管理で1ショットずつ課金する『クロスボーダーリース』には興味があります。またDXの最終的な目的は人の成長と働き方改革だと思います。DXを活用し頭と体を使えば日本のモノづくりにはまだまだ伸びしろがあります。生産性を高めて時間に余裕ができれば、新たなことを学んだり、地域貢献をしたり、遊んだりしてもいい。DXで『楽しい会社』にしたいです」

「デジタル化の活用による現場改革」を独自の発想と先進的な取り組みで実現している

――中小企業ではDXが進まないと言われています。どう取り組めばよいのでしょうか。

「金型工場は短納期、高品質、低価格を求められ、3Kのイメージもあり人手不足です。課題解決ができるかもしれない技術を試す中、『使ってみて』と実験工場のように新技術が持ち込まれました。スマートなDXなど掲げず、簡単なツールやデバイスでいいし〝ベタ〟でいい。まず使ってみてはどうでしょう」

株式会社岐阜多田精機

所在地 : 岐阜市東改田字鶴田93番地
電話 : 058-239-2231
資本金 : 5500万円
従業員数 : 92名
設立 : 1964年
URL : http://www.tada.co.jp/

インタビュアー 内田裕子氏 (経済ジャーナリスト)

上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで多様な現場を取材。経営者のインタビューを得意とし、講演講師、イベントのファシリテーターにも定評がある。企業の社外取締役も務める。

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