「中小企業と未来を拓こう」スピンオフ企画
日本企業の今後を考える~モーリー・ロバートソン氏から見た日本企業の姿と生産性

タレント/国際ジャーナリスト モーリー・ロバートソン

著名人から経営に関する気付きやアドバイスをもらう「中小企業と未来を拓こう」スピンオフ企画
第1回はモーリー・ロバートソン氏です。

多彩なフィールドで活躍されるモーリー・ロバートソン氏は、日本を客観的な立場で見続けながら日本社会への発信を続けてこられました。グローバルに情報がつながる現在、デジタル化と生産性向上についてどのような観点を持つべきか。お考えを伺いました。

――デジタル化と生産性について、どのように考えて取り組んでいくべきでしょうか

デジタル化というのは、環境変化の1つの具材だと考えるとよいでしょう。たとえばオンラインで発注できるということは、国境を越えても受発注が簡単にできるということです。つまり、営業環境そのものがかつてと比べて大きく変化しています。中でもデジタル化が成果を左右する時代になっているわけです。そう考えると、DXをしないこと自体が大きなリスクです。

振り返ると、「ものづくり日本」が確立されてきた1980年代頃からでしょうか。変わることのリスクと変わらないことのリスクを比べたときに、変わらないことのリスクが日本ではものすごく小さく捉えられてきました。なぜそうなったかというと、当時はまだ米ソの冷戦が続いていた時代です。日本が見ているのはアメリカ側の経済圏だけでした。

それに対して現在は、あらゆる国がつながるグローバル経済圏に拡大しています。こうなると、変化は全世界から押し寄せてくるわけです。変わらないままでいる方が取り残されてしまいます。変わらないリスクは、昔とは比べものにならないくらい大きくなっていると気づくべきです。

たとえば経理業務を全部インドに移管してしまったアメリカの会社があります。時差がありますので、アメリカが夜の間にインドで仕事が進んでいます。明らかに同業他社と比べてスピードが早いわけです。これくらいの根本的な変革が、すでに世界では起こっています。

さらに、この先数年のなかで、メタ空間と言われる、コンピュータ・ネットワーク内でのビジネスも増えるでしょう。「地元だから早い」といった地縁の概念がどんどん薄れていきます。もちろん仕事の種類によって違いますが、ものによってはオンラインでリモートの人に依頼した方が、むしろ早いわけです。身近な人からは生まれないアイデアが、簡単にオンラインを通じて得られます。それで差がつく場合も大いにあるわけです。

――環境変化を捉えた経営のあり方については、いかがお考えですか

1つご紹介したいのは、Z世代といわれる若い世代の価値観です。これからの顧客でもあり、従業員にもなる人たちです。

このZ世代は、親の世代とはいささか価値観が異なっています。欧米で意識調査をすると「環境・人権・格差」が三位一体の優先事項です。環境を考えた選択をするのは、ごく当然の行動なのです。また、上の世代が思っている以上に、人権に対しても敏感です。実は、敏感なメディアはいち早く新しい価値観を捉えて変化しています。たとえばハリウッド映画に出てくる人たちの多様さを一昔前と比べてみてください。

他人が持っているものを「私も欲しい」という時代は過ぎ去っています。むしろ深刻化する温暖化や人権の問題意識は多くの若者がもっており、消費行動にも反映されていくでしょう。しかも、インターネットという手段によって、彼ら彼女らは、直接世界中の情報を見に行くことができます。環境や人権でコンプライアンスを怠る企業の製品が、意図的に購買リストから外される時代がもう到来しています。

一方、こういう思考を持つZ世代が入社してきたときに、社内が「昭和型」で運営されていたら非常に違和感を覚えるはずです。働き方も、デジタルの活用も、ジェンダー平等も、すべてをアップデートしておかないと、若い世代がいつかない会社になってしまいます。

逆に、時代をきちんと捉えて取り組むことが若い人たちのモチベーションを高めます。不合理なワークフローを変えること、先送りせずに今変えていくことが、会社の発展を左右します。

――情報セキュリティ面では何に留意したらよいでしょうか

情報セキュリティ面への対応は、何層かにわかれています。

たとえばまず、サイバー攻撃のリスクという観点があります。パスワードが盗まれて、クレジットカードが勝手に使われてしまうのもその1つですが、国境を越えていろいろな攻撃が飛び交う時代に入ってしまっています。

対策としては、まずは入り口を閉ざす、つまりパスワードをしっかり管理することです。さらに、パスワードが流出したときにもまだ防衛できるよう、次の手もとっておきます。オンライン銀行で使っているようなワンタイムパスワードというのはその一例です。

また別のリスクとして考えておくべきことは、使っているソフトウェアが古びてしまうことです。仕事で使っているソフトウェアが、急にメーカーのサポート対象外になってしまうこと。前のバージョンでつくった資料が違うバージョンでは開けなくなってしまうこと。時代が変化する中で、使っているソフトウェアに変化は生じます。それに巻き込まれて困ったことにならないかを把握し、バックアップなどの手段をとっておく必要があります。また、新しいソフトウェアを入れるときにはあらかじめその問題点も把握しておきましょう。専門家に相談して調べてもらうのもできるはずです。

――経営者へのメッセージをお願いします

世界の企業のやり方は常に冷静に見ておくべきでしょう。たとえば先日、パソコンのバッテリーをインターネットで買ったのですが、メーカーは海外企業でした。これが結局使えなかったのです。互換性があると書いてあったし、型番も同じたったのに、あれこれ試してもまったくダメ。

そこで販売元に連絡をしたら、「端末の裏を開けて電池をインストールしている証拠を写真に撮り、Windowsを起動するまでの画面を動画録音して送ってくれば対処する」と言われました。日本なら平謝りですぐに別の商品を送ってくるところですが、これがまさに国際化の意味するところです。最終的に販売サイト側の要求をすべてのんで資料を送ったところ、すかさず返金されました。良し悪しではなく、こういう対応が国境を越えて当たり前になりつつあるわけです。

最も大事なのは、状況が変わっていくことを前提に、動的に現実に合わせていくことです。DX自体も、絶えず動いています。たとえば昔流行ったSNSで今もうほとんど使われていないものもあれば、今もなお伸び続けているものもあります。また、みんながSNSを使うようになったからといって、テレビを見なくなったわけではありません。状況は常にちぐはぐです。

このような社会では、従来のノウハウを積み重ねる、これまでのやり方を調整するという形での成長はもはや望めません。荒波をいかに受け止めて対応していけるか。そういう発想が求められます。

もちろん、従来のやり方をずっと続けて、変化に合わせて必要な縮小をしていくという方法もあります。いわゆる低空飛行路線という選択です。ただしもちろん低空飛行の中でも淘汰されていきますし、新興国との賃金競争がより増してくるのを認識しておく必要があります。

今に留まるのではなく一歩踏み出すならば、勢いよく踏み出し、転びながら体力をつけていくことをお勧めします。DXが進むと、働く人の多国籍化も進むでしょう。これまでの日本社会は、どうしても文化が違う人たちに寛容ではない面があったと思います。社会全体が感覚を若返らせてチャレンジしていけば、多様性も進みます。そこで多様な人の共通認識を進めるためのDXがまた進む。つまり、スパイラルのようにDXと多様化は両方進化できると思っています。社会全体でも個々の会社でも、ぜひこのチャレンジが進むことを願っています。

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