「中小企業と未来を拓こう」スピンオフ企画
未来を切り拓くためのクリエイティブを、自ら立ち上げた会社で推進~辻愛沙子氏の活動から得る経営のヒント

クリエイティブディレクター/arca CEO 辻愛沙子

著名人から経営に関する気付きやアドバイスをもらう「中小企業と未来を拓こう」スピンオフ企画
第2回は辻 愛沙子氏です。

クリエイティブディレクターとして社会への鋭い発信を続けている辻愛沙子氏は、自身でも会社を立ち上げ、活躍されています。事業成長にとってクリエイティブ観点での発想がどのように関わるのか、そしてご自身はどのような意識で経営をされているのか、お考えを伺いました。

――どのような観点を大事にして、クリエイティブ事業を手掛けられているのでしょうか

「何の会社ですか」と聞かれた時には「広告業界です」と答えるのですが、もう少しフィットする言葉がないだろうかと実は思っています。広告というと、どうしてもテレビCMのようなイメージが先立ちがちです。しかし私自身の仕事としては、媒体広告だけではなくポップアップイベントやブランディング、あるいは会社のミッションやビジョンを考えるようなことまで携わっています。

そもそも最近は、広告というものの概念がとても広がっていると感じます。最終的なアウトプットとしてクリエイティブを作ることはありますが、その前段として、たとえば新規事業のコンセプト作りから入らせていただくなど、ゼロベースから一緒に構築していくようなプロジェクトが増えてきたように思います。一貫性が求められる時代だからこそ、表面に出てくるコミュニケーションやクリエイティブだけでなく、その内面である事業設計やインナーコミュニケーションの重要性が高まっているのかなと。

この仕事の要素をいくつか因数分解してみたのですが、大きく3つの領域でのご相談を頂いています。

1つめは、「先の見立て」を期待される部分。時代の潮流を捉え、1.5歩先の未来を描いて施策に落とし込んでいきます。たとえば百貨店のお客様が、新業態店舗を作りたいと考えた時には、「小売りの未来」を考えるところから始めます。「クリエイティブジャンプ」という言葉があるのですが、理詰めで積み上げるのではなく、この先の社会にはこれが必要である、これがあったらいいよね、この課題が解決されるべきだよね、という逆算でアウトプットを導き出すイメージです。この業界はこういうものだから、などの固定概念を飛び越え新しい視点を提供する仕事、と捉えていただくと分かり易いかも知れません。

2つめは、「社会課題」の軸です。一昔前は、社会課題に対するメッセージを発信したり、企業の余剰予算や体力でCSR活動を行ったりするような流れもありました。でも今は、ESG投資を筆頭に、企業が社会課題に向き合うことはもはや前提とまでいえる程変わりつつある。逆にSDGsウォッシュに対する懸念の声があがるほど、実際のアクションがどこまで伴っているのか、言葉だけでない"行動"の部分まで含めて評価される時代に突入しています。だからこそ、「きちんと取り組みたいけれど、どうしてよいかわからない」「メッセージの出し方に迷う」という企業もいらっしゃいます。そうした相談に対して、企業ブランディングの視点から向き合い、商品開発、PR、広告コミュニケーションまで、それぞれの領域でどう社会課題に向き合っていくべきか考えていきます。それがアウトプットとなり、国際女性デーの広告などにも繋がっていくことも。自社事業としても、ジェンダーギャップに向き合う「Ladyknows」というプロジェクトや、社会課題を学ぶオンラインスクール「Social Coffee House」、寄付に繋がるマーケット「KIFFma」などを運営しています。

3つめは、マス媒体に依存しないメディア統合型のプランニングです。SNSを軸にした、女性や若者向けのブランディングのご相談が特に多いように思います。最近は「先の見立て」や「社会課題」の相談割合がだいぶ増えてきたのですが、もともと当社はこの領域を得意としていました。ヘアスタイリング剤や化粧品、飲料や生理用品まで、女性向けに開発された商材のご相談が比較的多いように思います。

――これからの時代のビジネスには、どういった視点が必要だと思われますか?

先ほどの「クリエイティブジャンプ」の発想は結構大事だと思っています。有名な例はApple社の白いイヤホンです。シンプルだけれど、誰が見てもApple社製品であることがわかります。これは、従来のイヤホン製品から積み上げてできたデザインではありません。黒が当たり前だと思っていたイヤホンの固定概念を一度ひっくり返したわけです。

不確定要素がとても高い時代だからこそ、1.5歩先に向けたジャンプをどう具体化できるか。その観点を持つことが必要で、共に考えるのが私たちの仕事だと思っています。業界の未来の話をすることは、議論の最初に必要なことかもしれません。

また、社会課題とビジネスという点では、アクションすることがより求められる時代です。そのためにはまず自組織が変わる必要があると考えるお客様も一定数いらっしゃいます。会社組織も、時代変化にあわせて健全に変わっていくことが必要でしょう。組織課題に関わる機会はこうしたなかで生まれてきました。自身の会社経営にも関連してくるテーマです。

なお、私自身は「最善と最高の両方を目指して仕事をすること」をモットーに活動しています。お客様の期待には全力で最善を目指しますが、“やったことのないこと”への挑戦をしてこそ、「最高」を追いかけることができるはず。四半期に一回は新しいことへの挑戦をするようにしています。初めての仕事ほどとことん考え、さまざまな情報を収集し、時には周囲に相談する素直さも忘れないようにして、動くようにしています。

――事業を立ち上げる、経営するという点で、ご経験から思うことはございますか?

私は大学生でインターンに入った会社でそのまま正社員になり、子会社社長ならびに上場企業のガバナンスを経験し、その後に独立しました。現在も会社経営をしているわけですが、やはり子会社社長だった時代は、どこかで親会社という存在が良くも悪くも意識下にあったと思います。それに比べて今は、自分で決めていくことの重みがより大きくなりました。

一方で、「経営とはこうしなければならない」という思考からは、年々、自由になっている感覚があります。いわゆる「スタートアップ」も、こうあらねばならないという枠はないはずです。老舗企業でも、スタートアップ精神で大いにチャレンジしているところもあります。資金調達1つをとっても、何を成し得たいかによって、金額も調達方法も違ってきます。

他のスタートアップ経営者を見ていて、自分らしさを手放さずに経営し続けていくことの大事さを感じています。組織づくりや事業内容だけではなく、資本政策ひとつとっても、自分にとってあるいは自社にとってのパーパスを手放さないよう経営していきたいなと。特に資本政策から生じるパワーバランスによって、そこが思い通りにいかないケースも見聞きします。私も順調なことばかりではありませんが、実現したい未来像を持ちながら、自身の軸をぶらさないことにはこだわっています。

仮に思い通りにいかなくても前へ進んでいくこと、その熱量は誰にも負けません。私自身の原動力は好奇心。挑戦するたびに、たくさんの学びを得て成長していけると感じます。もっと知りたい、出会いたいと思う気持ちが、私のエネルギーになっています。

――これから取り組んでいきたいことについて教えてください

挑戦の1つとして、純粋にクリエイターとして作ってみたいものを実験的に形にする、ラボ型のプロジェクトを立ち上げようと思っています。

お客様からご相談頂いたプロジェクトは、「社会にとって」「クライアントにとって」「ビジネスとして」といった観点で考えることが多い。しかし、その目線をあえて一度脇に置くところから、この活動は始まります。もちろん、社会視点、顧客視点の重視度は変わりません。しかし、一度脇に置くことで、もっと自由でインパクトのある活動を生み出したいと考えています。クリエイティブの力をもっと拡張するところへの挑戦と言い換えられるかもしれません。

実際、女性用のスーツやクラフトビールなどのプロジェクトが動き始めようとしています。関心を持ってくださる企業、地域の伝統的なものづくりをしているメーカーなどとコラボし、商品開発などに実験的に取り組んでいく予定です。

これから順次、形にしていきますので、注目して頂けたらうれしいです。連携に興味のあるパートナー企業様も絶賛募集中です!

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