「中小企業と未来を拓こう」スピンオフ企画
アクションを起こせば、次にチャンスが生まれる~廣瀬俊朗氏の経験から考える経営のヒント

元ラグビー日本代表 HiRAKU 代表取締役 廣瀬俊朗

元ラグビー日本代表でキャプテンも務めていた廣瀬俊朗氏は現在、事業者として多角的に活動しています。自身の進化、チームの進化を通じた経験を、どのように今に活かしているのか。自身が行き詰まったときにはどのような行動をとるのか。具体的なお話を伺いました。

――今、どのような事業に取り組まれているのでしょうか?

アスリート支援、リーダーシップ研修、講演活動、そして飲食事業など、いくつかの活動を並行しておこなっています。共通するのは、みんなで学び、みんなで成長していけたらという思いでしょうか。一緒に進める仲間がそれぞれのプロジェクトにいるのですが、人とつながりながら、何らかのアクションを起こすことを大事にしています。

たとえば飲食事業として少し前にカフェを立ち上げたのですが、おいしい食べ物で人が喜んでくれると、アクションしたことの手ごたえを感じますね。甘酒や米麹をつかったスイーツを出すお店で、身体によい発酵食品を積極的につかっています。また、講演や研修事業の流れでワークショップもやりますが、アクションのきっかけになったと聞くととてもうれしいです。

アスリートがSDGs観点で商品開発に関わったり、地方の特産品や農産物を活かすようなコラボレーションをしたりする活動も少しずつ広げています。これまで接点がなかった人同士がつながり、単体ではできなかったような価値が生まれることが醍醐味ですね。先日も長崎の「波佐見焼」でつくられたコーヒーカップと出会い、すぐに動いてみました。うちのオリジナル商品として、かつユニバーサルデザインのものをつくれないかと思ったのです。製作者の方が共感してくれて、コラボレーションが進み始めました。こういうことをしたいという世界観を共有できること、そして関係者が楽しめることというのが、僕自身の原動力になっています。

ラグビー選手としての経験は、どういった形で今につながっていますか?

あらゆることが関わっていますが、特にラグビーというスポーツの特徴は影響していると思います。ラグビーにはたくさんのポジションがあり、それぞれ求められる強みが異なります。自分に合うポジションでプレーすればよい、つまり、自分を変えるよりも強みを活かそうという視点が、自ずと身につきました。何かコラボレーションをするときにも、関係者それぞれのよさをどう活かせるだろうかというのは、最初に考えます。

一方で、自分自身が変わった、成長したという経験そのものも、今の自分のベースとなっています。特にエディーさん(2012年~2015年日本代表のヘッドコーチ)との出会いは、いろいろなものを自己変革するきっかけになりました。練習の方法を変え、負けても仕方ないという意識を払拭し、勝ち切ろうというマインドに変化しました。チームメンバーともたくさん話し合いながら、試合で手ごたえを得るごとに「俺たちもできる」という気持ちが加速していったと思います。

多くのチームでキャプテンを務めたことで、目的を共有することの大事さもとことん感じました。僕は前面に出て引っ張るというよりも、とにかくメンバーとはよく話をしました。この仲間と一緒に進みたいと思えれば、困難を前にしても「こうできないだろうか」と声があがります。全体でも話しますし、1人ひとりとも話しました。仮にコミュニケーションをとろうとしない人がチームにいたら、そこには何か理由があるはずです。相手の表面だけで決めつけずに、何か原因があるのではないか、どうしたらよいかと考えることが、まず大事だと感じます。

――「伴走支援」という観点で、ご経験から思うことはございますか

自身の経験の再現性や汎用性を考えたいと思い、リーダーシップについて、大学院で学んでいるところです。よく言われることですが、必ずしも牽引する行動がリーダーシップではありません。自分が動き出すこと自体が重要で、そこに誰かがついてきてくれればいいリーダーシップが発揮されているわけです。

伴走支援というのも、少し重なると思っています。つまり、支援する側、教える側が上の立場にあるわけではなくて、一緒に動く、一緒に学ぶというようなことが、当人のがんばりを引き出すのではないでしょうか。子どもとワークショップをやるとピュアな反応から学ぶことも多く、働きかけという支援をしながら、こちらも成長しているような感覚です。

ちなみに日本代表チームのときには、荒木香織さんというスポーツ医学博士の方がメンタルコーチとして伴走してくれました。自分とは違う視点を持つ人がいることで、何かヒントが得られたり、行動のきっかけが増えたりしたような記憶があります。経営でも自分たちの活動を客観的に見てくれるような人が伴走者としていれば、行動の幅も広がりやすいのではないかと思っています。

――不確実性のなかで判断する難しさについて、何か意識されてきたことはありますか?

試合では刻々と変わる状況のなかで判断していくわけですが、どれだけ事前にインプットできているかが実は重要だと思っています。相手については事前にできるだけ研究し、本番ではどんどん状況判断でアクションしていきます。もちろん100点の意思決定はどんなときにも難しくて、選択した行動がベストプレーとは限りません。ただ、ボールをきちんと出せば、もう一回次にチャンスが訪れます。そう思って自分が決断したことをやり切る、次につなげていくというのを大事にしてきました。

ビジネスと重ねて考えると、PDCAと同じたくさん回して成長しているということでしょう。もちろん、どこかで違和感が生まれたら、根本の決断がよくなかった可能性もあります。まずやってみて、きちんとそれを振り返れば次につながります。これは自分の今の事業でも感じるところです。たとえば今度、あるプロジェクトでケニアに行くのですが、行って現地の状況を見ることから始まることがあると思っています。その地で感じたことをアクションし、その反応を学びとしながら、プロジェクトを前に進められたらと思っています。

今、仕事をするなかでも、確実なことはほとんどありません。難しい局面もありますが、悩むよりも、いろいろな人に相談しながら進むようにしています。多様なプロジェクトをやっている分、スポーツ系だけではなく、企業の方々、起業家、音楽関係者など、いろいろな人と出会えているのはすごく幸いなことです。MBAを学びにいったのも、人脈や経験の幅を広げるうえですごく有効でした。

――今後の展望をお聞かせください

まずはカフェ事業をスタートさせたところなので、これを軌道に乗せていきたいです。鎌倉で店舗を構えたのですが、食べに来てくれた人が「あそこいいよ」と言ってくれ、口コミで来る人が増えるとうれしいですね。理想的には数年先に、海外でも店舗を構えられたらと考えています。甘酒のような和食の発酵文化が他国で受け入れられたら最高です。

ラグビーの普及やアスリートのキャリア支援、そして企業とのコラボレーションや講演活動等は今後ももちろん続けていきます。僕自身も自社の経営者であるわけで、いろいろな現場で刺激を受けながらがんばります。全国の企業がそれぞれで活躍しながら、おもしろいことに情熱を注ぎ、みんなでよい方向に向かえればと思っています。

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