「中小企業と未来を拓こう」スピンオフ企画
「自社の立ち位置」をきちんと把握する~石原良純氏に学ぶ、事業継続力強化に向けて考えるべきこと

俳優・気象予報士 石原良純

俳優、タレントとして活躍する一方、気象予報士の資格を取得し、ウェザーキャスターも務めている石原良純氏。気象についての魅力を番組等でも語っていらっしゃいますが、同時に気候変動の影響や、個々人にとっての気象リスクについても警鐘を鳴らしています。今回は、事業継続に資する観点を、気象予報士としての視点から、またご自身の仕事観から考える視点から、幅広く語っていただきました。

――どういうことを意識して、仕事をしてこられたのでしょうか?

今回僕がなぜ選ばれたのだろうと思ったのですが、よく考えると、僕のような仕事はある意味で会社経営に近い所があるんだと思いました。俳優もやればバラエティ番組にも報道番組にも出る。ラジオで話したり、本を書いたりもする。そうした多様な「事業」をマネジメントしながら、Web媒体とはどう向き合おうかなど、環境変化に応じた「事業展開」も考えていくわけです。1つひとつの活動における「品質管理」も自分でやるし、「もう少し工夫できるのではないか」という「品質改良」も自ら考えて実行する。そうやって約40年、この仕事をしてきました。

僕の場合、初期の頃にプロダクションから独立しています。映画でデビューし、その後仕事の種類を徐々に広げていこうとしている頃ですね。最初に何をやったかというと、当時のマネジャーと一緒にいろいろなテレビ番組のクレジットからプロデューサーの名前を書き出したんです。何が必要だろうかと考え、相手を知るところから始めたわけです。その後、映像から舞台の仕事に広がっていった時にも、徹底して舞台のことを知ろうと考えました。その時には1年で100本の舞台を見てやろうと思ったんですよね。100本もの舞台を見ていくと、何となく日本の演劇の状況がわかるようになってきます。そうした中で、つかこうへいさん(劇作家・演出家)に出会い、つかさんの舞台に出るようにもなりました。「市場調査」をしながら勉強していたら、そこで出会いがあり、仕事が広がっていったという感じでしょうか。これも経営と重なるところがあるかもしれません。

――環境変化の激しい中で活躍し続けるための観点、またリスクへの備えという点でのお考えを教えてください

僕自身がいわば小規模経営者なわけですが、一番大事にしてきたことは、出会いと偶然です。もちろん、良い偶然も悪い偶然もある。でも、これをどう活用するかですよね。

先ほどの鼎談時に、中小機構の豊永理事長から経営者にとったアンケートで、今年の経営リスクとしてトップに挙がったのが自然災害であったと聞きました。だからこそ、事業継続力強化計画、ひいてはBCPを立てておくことが重要だということですよね。興味深いのは「事業継続力強化計画に取り組むことで自分の立ち位置がわかる」とおっしゃっていたことです。この「立ち位置がわかる」というのは、まさに僕らの仕事とも合致します。

やはり頭のどこかでは常に先のことを考えながら、仕事をしているんですよね。そして、人よりも何が優れているんだろうか、何が自分にはできるんだろうかと考えます。たぶん昔は、タレントマネジャーがあちこちのテレビ局で挨拶してくれたことで仕事になったけれど、今はそんな時代ではなくなっている。どこで力を発揮できるだろう、どのポジションだったら活躍できるだろうと思って自ら考えるべきだし、多様化している媒体にも目を配る必要がある。そうした点から、自らの立ち位置という視点がすごく大事だと思っています。

「備え」という点については、何が起こるか想像しておくことは必要ですよね。楽しいことの中にもリスクはあるわけだから。僕は今仕事が楽しいし、この楽しいことを長くやっていけたらと思っていて、だからエンタメの世界で仕事をしているのは幸せなことなんです。だから、自分が楽しくというのはまず必要。ただ、自分がその場で楽しければいいだけではないわけです。相手はどう思っているんだろう。これを見ている人はどうだろう。その先にどんな影響があるんだろうといったことを想像することが、備えになると思っています。テレビの収録現場って、自分の話しているところを3、4つのカメラで抜いているわけです。あのカメラから見てどう見えているのか、別のカメラから見てどうか。そのスイッチング視点も大事。自分の立ち位置がどこにあるのかの意識は、「備え」にも通じます。

――気象予報士の資格をとるきっかけは何だったのでしょうか?

これもある種の偶然なんだけれど、森田正光さん(気象予報士・キャスター)から勉強してみたらどうかと勧めてもらったんです。僕はもともと湘南あたりの育ちで、空を見ていると梅雨時に山の方に雲がわくんですね。それが不思議で仕方がなくて。そういうことを森田さんにたまたま話したら、気象予報士の勉強をすると科学でそれが証明できると教えてくれたんです。子どもの頃からの謎が解けるって、すごく楽しそうじゃないですか。だからウェザーキャスターを目指して始めたというわけではないんです。ただこれもまた偶然で「僕は日本の空が一番きれいだと思う。いろいろな表情を見せるから」という話をしていたのをニュース番組のプロデューサーが聞いて、「石原さんは空の話をとても楽しそうにされるから、ウェザーキャスターやりませんか」と言ってくれて。結果として仕事でも気象に関われるようになったのは、ラッキーなことだったと思っています。

――災害の「予報」「伝達」「避難」という点を、もう少し教えてください

天気予報に関する技術は、ものすごく進化しています。スマホを見て「もうすぐ雨雲が近づいてくる」とわかるなんて、こんな便利なことはないですよね。ただ2014年(平成26年)8月豪雨の時に、あの狭いエリアに集中的に大雨が降るとわかってはいて、それでも大きな被害が出てしまったんです(広島市内他)。どう伝えれば良かったのか、適切に避難できるようにするにはどうしたら良かったのかというのが、その後議論されました。そして2018年(平成30年)7月豪雨の際に初めて、事前に気象庁が記者会見をしたんです。「線状降水帯」や「竜巻注意情報」という言葉も、どうやったら皆が敏感に反応するかという議論から、使われるようになってきたものです。いくら正確に予報できても、最後は個々人が自分事として適切に避難してくれないといけません。そのために、「予報」「伝達」「避難」をセットとして、精度を高めていかないといけないわけです。

――気候変動について、私たちが認識を深めておくことはあるでしょうか

ニュースで毎日のように気温の話が扱われていて、39℃なんて表示が当たり前に流れています。おそらく数年のうちにもっと上がっていく。するといろいろな問題に波及しますよね。人々の行動も変わるし、熱中症の危険さも増してくる。最終的には食料問題、燃料問題、ひいては戦争にもつながるかもしれない。2008年洞爺湖サミットの頃に、最短の計算モデルでいくと2023年に地球の平均気温が産業革命以来2℃上がると言われていました。当時は、15年も先の話だと思っていたけれど、今まさにその時期になっています。実際には海水温の吸収等によって2℃までは上がっていないのだけれど、今度は海水温の高さが偏西風の蛇行をもたらしたり、台風のコースにも影響したり。悪い方向に向かっているのは間違いない。そうなると、この問題が、自分たちの商売にどういう影響を及ぼすのかということを、考えざるを得ないわけです。

ただ、リスクではあるけれども新しい事業機会もあるでしょう。たとえば昔は「暑いから海に行く」だったのが、最近は「暑すぎて海に行かない」と変わってきている。日本の気候が変わってきたことを前提にするなら、暑い国の生活スタイル、遊び方、住宅のつくり方等は大いに参考になるはず。そうした発想から新たな商品・サービスも、十分考えられるだろうと思っています。

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