中小企業と未来を拓こう
Vol.4 事業継続力強化

俳優・気象予報士 石原良純
鳥越商店 代表社員 鳥越英夫
中小企業基盤整備機構 理事長 豊永厚志

近年、地球温暖化による自然災害の激甚化をはじめ、感染症、サイバー攻撃、国際紛争など、ビジネス活動を取り巻くリスクは高まる一方だ。中小企業基盤整備機構(中小機構)が提供するシリーズ企画「中小企業と未来を拓こう」の第4回テーマは「事業継続力強化」。リスクへ備える重要性が一段と増す中、中小機構の豊永厚志理事長が俳優・気象予報士である石原良純さんと、球磨焼酎などを扱う鳥越商店(本社:熊本県人吉市)の鳥越英夫代表社員のお2人を迎え、事業継続計画(BCP)の重要性、その簡易版である事業継続力強化計画(ジギョケイ)の作成方法や意義などについて鼎談した。

■多様化する事業リスク、トップは「自然災害」

豊永厚志(中小企業基盤整備機構 理事長 以下略):先の読みづらいVUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代といわれる現在、企業経営者にとってビジネス活動を取り巻くリスクは増加すると同時に、多様化しています。帝国データバンクの調査によると、中小企業の経営者が考えるリスクについて、新型コロナウイルスの感染が拡大していた2020年は「感染症」がトップで「自然災害」「取引先の倒産・被災」と続いていました。最新調査(23年5月実施)ではトップが「自然災害」となり、「設備の故障」「感染症」「情報セキュリティー」となっています。台風による水害や山火事など、世界中で自然災害の激甚化がみられますが、石原さんは現状をどのように受け止めていらっしゃいますか。

石原良純(俳優・気象予報士 以下略):中小企業の経営者が、いま資金繰りとか、取引先の倒産とかの問題より、自然災害のリスクの方が大きいと感じていると伺って、驚きを覚えると同時に納得しました。確かにこれまで経験したことのない自然災害が、我々の身の回りで起こり、大きな被害につながっています。地球温暖化が進むなか、自然災害はこれからも起こり続けるでしょう。それも過去の経験則では対処できないことが起きている状況です。

豊永:先程の調査で、中小企業の経営者が最も警戒する自然災害は何かという質問では、1位が「地震」、2位が「水害」で、「風害」「津波」「気温・降水」と続きます。実際、自然災害による被害が増えています。例えば、大雨は直近30年とその前の30年を比較すると、1・7倍に増加しています。鳥越社長は被災の経験があるそうですね。

鳥越(鳥越商店 代表社員 以下略):私は熊本県人吉市で球磨焼酎の卸問屋を経営しています。20年7月の九州豪雨で球磨川が氾濫し、直営の小売店が1階の天井まで水につかる被害に遭いました。九州は台風の通り道なので、水害とか土砂災害は割と身近だったのですが、被災するまでそうしたリスクについてあまり深く考えていませんでした。実際被害に遭って、事前に備えておくことの大切さを思い知らされました。

石原:気象情報は、人の命と財産を守る大切な情報。近年、予報技術の進化もあり、線状降水帯や竜巻注意報など、精緻な気象情報が提供できるようになり、人々の興味・関心も高まっています。僕は気象予報士として、気象情報をきちんと伝達することで、避難や対策を促し、被害を減らすことが大切だと考えています。確かに一度災害に遭った町は対策するから強くなります。でも、もう一歩先回りして、事前の備えや気象情報を活用して防災、減災につなげる方がより重要ではないでしょうか。

■事後救済から事前防災へ、平時にも役立つBCP

豊永:政府の災害対策が事後救済に加え事前防災にまで拡充してきました。備えができている人は被害も少なく、復旧も早いからです。しかし先ほどの調査によると、中小企業のBCP策定状況は増加傾向にはあるものの、23年5月の時点で15%にとどまっています。そこで政府は中小企業の災害対応力を強化するため、19年に「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律(中小企業強靱化法)」を施行。BCPのはじめの一歩として、ジギョケイの認定制度をスタートしました。ジギョケイとは、中小企業が策定した防災・減災の事前対策に関する計画を経済産業大臣が認定する制度です。認定を受けた中小企業は、税制優遇や金融支援、補助金の加点などの支援策が受けられます。BCPの策定は大変ですが、ジギョケイはリスクに強い、事業継続力のある中小企業をつくるため、防災・減災の事前対策に力点を置いており、作成自体は難しくありません。自社のリスクを見える化し、備えを考える過程を重視しているからです。
鳥越さんはジギョケイをつくられていますよね。

鳥越:九州豪雨の後、店舗の修復などで大変な思いをしました。備えの重要性は感じていたのですが、日々の仕事に追われ、なかなか取り組めていませんでした。そんな時、中小機構でジギョケイ作成を無料でサポートしてくれるサービスがあると聞いて、問い合わせました。わざわざ人吉まで来ていただき、丁寧に作成を指導、支援していただきました。作成はひな型の様式を埋めていくスタイルです。ハザードマップを見ながら災害時のリスクを確認して記入するなど、被災経験もあったので短期間で完成しました。

豊永:ジギョケイを作成して感じられたことはありますか。

鳥越:データの保管先がパソコンでは水につかったりするとアウトなのでクラウド化が必要だとか、簡易トイレや発電機を購入したりなど、ジギョケイ作成で分かった課題はたくさんありました。また認定を受けると、ロゴマークを無償で利用できるので、名刺に印刷しました。すると、取引先の人から「このマークは何ですか」と聞かれ、ジギョケイの説明をすると、災害対策ができている会社だと安心や信頼を得ることにつながっています。

豊永:BCPというと災害対策のイメージが強いと思いますが、実は平時においても大いに役立ちます。なぜならリスクの見える化は、業務の無駄の把握につながりますし、サプライチェーン(供給網)を考えることで取引先との関係強化のポイントがわかります。

石原:お話を伺っていて、災害時の避難について家族会議している光景が目に浮かんできました。ハザードマップを確認する、集合場所を決める、非常食を用意する――。個人も会社も全く同じですね。やった方がいいのは分かっていても、最低限のことがなかなかできない。そういった意味で作成の支援が受けられるのであれば、ぜひトライした方がいいと思いました。

九州豪雨で被災した直後の店内(鳥越商店)

■まず「ジギョケイ」作成、備えは勝機に

豊永:最後にお2人からジギョケイ作成にトライしようと考えている中小企業の経営者にメッセージをお願いします。

鳥越:確かに経験は必要ですが、災害は遭わない方がいい。でもいつ災害に直面するかわかりません。だからこそ、備えが大事ではないでしょうか。皆さん、ジギョケイを作成して備えましょうと声を大にして言いたい。

石原:実は、僕も、ある意味で中小企業経営者に近い状況なんだと思いました。売り物は自分で、自分で品質管理して、事業計画を立てて。今日改めて感じたのは自分の立ち位置を確認することの大事さです。よくピンチはチャンスといいますが、ピンチはピンチ(笑い)。でもこれだけリスクのある時代、備えを通じて気付いたことが、次のチャンスにきっとつながる。僕もジギョケイをつくってみようと思いました。

豊永:ジギョケイ制度は今年5年目を迎え、認定数は5万件を超えました。また1社単独ではなく、複数社が一緒になって作成する連携型もあり、千件近い実績があります。ぜひより多くの中小企業の経営者にジギョケイを知ってもらい、作成して、減災・防災に活用してほしい。そして自然災害などのリスクを意識すると同時に、ビジネスリスクには果敢に挑戦してもらえればと思います。
今日は貴重なお話をありがとうございました。

俳優・気象予報士石原 良純(いしはら よしずみ)

1962年生まれ。84年慶應義塾大学経済学部卒。同年、映画「凶弾」でデビュー。以後、舞台、映画、テレビドラマ、バラエティーにと意欲的に活動。一方、湘南の空と海を見て育ったことから気象に興味を持ち、気象予報士試験へ挑戦し、97年に合格。〝空の楽しさを伝えられれば〟とお天気キャスターとして登場、お茶の間の人気を得る。日本の四季、気象だけではなく、地球の自然環境問題にも力を入れている。

鳥越商店
代表社員
鳥越 英夫(とりごえ ひでお)

1968年熊本県人吉市生まれ。岩田屋伊勢丹、熊本岩田屋を経て、96年に鳥越商店(本社:熊本県人吉市)に入社。鳥越商店は1897年に曽祖父の鳥越勇吉が酒の小売業として創業。1951年に合資会社鳥越商店となる。2016年に父・鳥越博治の後を継いで代表社員となる。人吉球磨の27の蔵元の球磨焼酎がそろっているほか、地元で造るリキュールなど地域特産品を拡売。地域商社的役割を果たしている。

2023年9月25日付日本経済新聞朝刊「中小企業と未来を拓こう 広告特集」より転載。
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