先を見通して賢く準備する!
~小規模企業経営者・個人事業主の
退職金準備とは

2021年10月11日 12時00分 公開

「備えあれば憂いなし」ということわざがありますが、経営者ご自身のリタイア後について考えたことはあるでしょうか。「従業員の退職金は制度化したけれど、経営者はなくても仕方ないか」と思ったり、「自営業だから退職金なんて無理」だと考えたりしているなら、ぜひいろいろなやり方があることを知ってください。退職金代わりに積み立てていける制度活用も一手です。今回は、税制面でも事業資金としてもメリットのある小規模企業共済についてご紹介します。

■小規模企業経営者・個人事業主にとってのリスク

「引退を決断した際に懸念したこと」についての調査で、小規模企業事業主が懸念するトップは「自身の収入の減少」となっています*1。一方で、引退を決断した理由としては「経営者本人の高齢化・健康上の理由」が最上位で、やはり年齢があがるほど引退のタイミングを考えるようになることでしょう。しかしまさに懸念としてあがっているように、引退を決めても誰かが退職金を払ってくれるわけではありません。会社員や公務員とはそこが大きく異なります。

また経営者として最も困ることは、予期せぬ事態による資金繰りが必要になる時でしょう。そういう事態にはスピードが命です。いざという時に貸付けてもらえる資金のあてがあるかどうかは、経営者の大きな安心材料となります。実際、「中小企業白書」によると、2020年度は小規模企業6,913件、中規模企業856件の倒産が起こっています*2。もしもの時は他人事とは言い切れません。

■小規模企業共済制度の概要

今回ご紹介するのは、中小機構が運営する小規模企業共済制度です。小規模企業の経営者や役員、個人事業主のための退職金制度で、昭和40年から運用されています。社会保険や労働保険などの恩恵を受けづらい事業主に向けて、別の形で生活安定や事業再建の保障を設けるためにつくられました。2021年3月時点で全国153万人が加入しており、資産運用残高は10兆円を超える規模となっています。

名称の通り、加入できるのは小規模企業に限定されますが、社長だけではなく、取締役も対象です。個人事業主の方も活用できます。他に似たような名称で中小企業退職金共済制度というものがありますが、これは中小企業の従業員を対象とした退職金共済制度で別物です。もちろん、従業員の退職金制度は会社として整えておきたいものです。それに加えて、経営層の方自身の将来に対して活用できるのが、小規模企業共済制度なのです。

■小規模企業共済制度の使い方

小規模企業共済制度には3つのメリットがあります。順に見ていきましょう。

1.掛金は全額が所得控除

月々の掛金は、1,000円から70,000円まで500円単位で自由に設定できます。加入後も増額・減額ができますので、業績にあわせた調整も可能です。さらに大きいのは、掛金が全額所得控除になることです。たとえば課税所得400万円の場合、785,300円の税金がかかります。一方で、月額3万円の掛金を続けたら年間36万円。これが控除対象になるため、税額は675,800円となり、約10万円が節税できることになります。

2.共済金の受取時にも税制メリット

共済金は、廃業や退職時、ならびに65歳以上で15年以上掛金を納付した場合に受け取ることができます。受け取り方は「一括」「分割」のどちらでも可能で、一括受け取りをすると退職所得扱い、分割受け取りは公的年金等の雑所得扱いとなります。つまり、一定の控除が加味された形で受け取れるわけです。

3.事業資金に困った時の貸付制度あり

加入していると、事業資金に困った時に、貸付限度額の範囲内で借り入れすることができます。限度額は掛金の納付期間に応じて異なりますが、掛金の7~9割が可能です。「一般貸付制度」「緊急経営安定貸付け」「傷病災害時貸付け」など複数の種類があり、基本的には、一般貸付制度が年1.5%の貸付利率、特別貸付制度は年0.9%の貸付利率で設定されています。

■小規模企業共済制度の注意事項

もちろん、注意しておくべき点もあります。加入する前には、きちんと確認しておくことが必要です。

1.20年未満での任意解約は元本割れに

掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約をした場合は、掛金合計額を下回ってしまいます。また、加入期間が240か月以上でも、途中で掛金を増額/減額した場合で掛金区分ごとの掛金納付月数が240か月を下回った時は、任意解約した場合に受け取れる解約手当金が掛金合計額を下回ることがあります。退職金代わりのつもりで長期加入することを考える場合に適する制度だというのは、理解しておきましょう。

2.掛金12か月未満の場合は掛け捨てとなる

受け取れる共済金は、共済契約者の立場や請求事由によって4種類があります(共済金A、共済金B、準共済金、解約手当金)。個人事業を廃業した場合ならびに共済契約者の方が亡くなられた場合、老齢給付の場合など、事由によって受取金額が変わることはあらかじめ認識しておきましょう。途中解約についても、掛金納付月数が6か月未満の場合は、共済金A、共済金Bは受け取りできない、12か月未満の場合は準共済金・解約手当金が受け取れなくなるといった条件があります。長期加入を前提に、少なくとも12か月以上払い込む見込みを持って加入を検討すべき制度です。

■小規模企業共済に加入するには

加入するには、必要書類を入手して記入し、必要書類とともに窓口に提出します。窓口は、中小機構と業務委託契約を締結している委託機関(委託団体)または金融機関の本支店(代理店)です。金融機関で取り扱いできるところは限られていますので、具体的には小規模企業共済ページを参照してください。

なお、個人事業主として加入する場合は確定申告書の控え、法人役員の場合は役員登記が確認できる登記簿謄本等の書類が必要ですので、案内を見て準備したうえで申請してください。

■中小機構の運営する小規模企業共済はこちら

小規模企業共済は、自身の安心な老後のために、いざという時の資金確保として、そして毎年の所得控除の手段としても有効なものです。お得で安心な小規模企業の経営者のための「退職金制度」について、ぜひ活用をご検討ください。

中小機構の運営する
小規模企業共済はこちら

*1 経済産業省 平成30年度中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査に係る委託事業(平成31年3月22日 みずほ情報総研株式会社)図3-2-9https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000273.pdf
*2 2021年度「中小企業白書」企業規模別倒産件数の推移((株)東京商工リサーチ「全国企業倒産状況」))図1-1-37https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/chusho/b1_1_2.html