「中小企業と未来を拓こう」スピンオフ企画
人と人との対話が、事業承継を前に進める~唐橋ユミ氏の実践するコミュニケーションの極意から学ぶ

フリーアナウンサー 唐橋ユミ

今回はキャスターとしてテレビやラジオで活躍している唐橋ユミ氏に話を伺いました。事業承継をする際には、お互いを尊重しながらきちんと意思を伝えていくコミュニケーションが欠かせません。多様な人と出会い続けている唐橋氏の場合はどのような点に意識しているのかについて、今回はお伺いしました。あわせて唐橋氏は実家が福島県にある酒造会社とのこと。事業承継に対する思いも含めて、お話を伺いました。

――どのような領域での活動が多いのでしょうか

コミュニケーションを軸としたお仕事を中心にしています。たとえばゲストをお招きする番組では、その方とお話をし、それを皆さんにお伝えする役割でありたいと思っていますし、ゲストの方との対談ではできるだけお話を引き出せたらと考えています。また、コミュニケーションや共感力といったテーマで講演するような機会も多少あります。私の本を読んでくださって、ご依頼をいただくというご縁が多いですね。

コミュニケーションを活かした仕事自体が大好きなのですが、昔から得意だったわけではありません。子どもの頃に東京に転校したことがあるのですが、方言が気になって話しづらく思っていた時期もあります。そのためか、ある時「標準語を話せるように学んでみませんか」といったアナウンサー養成学校の記事に目が留まり、興味を持ったのです。その後入学して、今に至っています。

ただ、仕事を始めてからもしばらくは、コミュニケーションを活かせるという状況ではありませんでした。たとえば質問をするときにも、当初の頃は準備したことばかりを聞いていました。すると相手の答えを受けた流れにならず、会話が不自然になったりしますよね。自分を大きく見せようとして、恥ずかしい思いをしたこともあります。そうした経験から徐々に、相手ときちんと向き合い、相手の言いたいことを引き出すような会話を意識するようになったと思います。

――事業承継というテーマについて、お考えのことを教えてください

私自身も長年続く酒造会社に生まれており、父から兄への事業承継が行われたのを見ていました。ただ先ほど開催された座談会(中小企業と未来を拓こう Vol.6「事業承継」)で実際に事業承継をされた方々の話を伺い、早くからきちんと準備すること、そしてスピード感をもって行うことの大事さを改めて感じたところです。

また、お互いに自分の意思や大事なことをきちんと伝えること、相手に共感する力が本当に大事だと思います。伝えたいことが伝えられず事業承継そのものが進まなくなってしまうこともあることでしょう。

話すのが苦手だという相談を受けることもあるのですが、そこまでがんばらなくてよいということは、ぜひお伝えしたいです。何か話さないといけない、相槌を打たないといけないと思いすぎると、うまく反応できなくなってしまうかもしれません。しかし、聞いた話に対して思ったことを、少しだけ表現するだけで随分違います。たとえば、悲しいお話を聞いたときには少し目線を下げたり、驚いたときには少しだけ後ろに反ったり。

たぶん、ご自身が「話しやすいな」と思う相手は、とても聞き上手だと思います。そうした方がどういう姿勢で話を聞いているか、観察してみるだけでも参考になると思います。表現にはバーバル(言語)とノンバーバル(非言語)がありますが、ちょっとしたノンバーバルの面を意識するだけで、相手との関係性が進むかもしれません。

私は「心・技・体」ならぬ「心・疑・態」ということでコミュニケーションの三原則を考えています。1つめは、「あなたに関心があります」という意味の「心」。2つめは「小さな疑問をおろそかにしない」という「疑」。そして3つめは「先入観にとらわれない態度」という「態」。特に最初の「心」の部分、嘘のない素直で正直な反応や言葉によって相手への真剣さや熱意が伝わりやすくなると思っています。

――唐橋さん自身はどういう点を意識して、日ごろお仕事をされているのでしょうか

番組ですと、何を全体として伝えるかを意識しながら、出演者との会話を通じて引き出していくことに重きを置いています。たとえば毎週生放送の報道番組に出ているのですが、メインキャスターの方から「一番大事なのはニュースの『へそ』を見つけることだ」と言われたことがあります。一番大事なところを押さえることで、視聴者へ伝えることの筋も見えてきます。番組内で手作りフリップを使ってテーマをワンポイントで解説する場面があるのですが、これもポイントがわかっていないとうまく作れません。

ですので、最初にこのテーマの『へそ』は何かを模索します。この時代、情報収集手段はいくらでもあるのですが、あえて一度頭を空っぽにして、何も知らない人がどう思うかという点を箇条書きにしていきます。自分がある程度知っているテーマを扱う時には、それに興味がないスタッフに質問して何を疑問に思うか聞くこともあります。そのうえで、視聴者がおもしろいポイントはどこだろうかと、会話を交わしながら探ります。

一方で、普段より緊張する場面もあります。たとえば大御所の野球評論家をゲストに迎えるようなときですね。世代の異なる大先輩の貴重なお話を伺う場面では、その方の業績について事前にしっかり勉強しておき、リスペクトや共感を相手に伝えることが大切だと思います。

お話を伺っていて思い出したのですが「怪我を怖がったんじゃスポーツをやめたほうがいいよ」と番組で苦言を呈したベテランアスリートがいました。かつてのスポーツ界にはそうした価値観があったとしても、現代のトップアスリートの価値観とは違いが生じて、さまざまな反響や議論を呼びました。わたしは議論を呼ぶということは、いいことだと思っています。そうした新旧の世代による対話があるからこそ、進化が生まれる、世代を越えた共感が育まれていくのではないかと思うのです。

インタビューのお仕事も、毎回場が異なるので緊張しがちです。ただ、かなりの下調べをして、自分なりにその場に備えています。下調べでは、本題となるテーマだけではなく、パーソナリティに関することも検索しますね。インタビューに入る前に相手の趣味等の話題を出してみると、場が温まったりするからです。ただ、情報はたくさん調べるのですが、インタビューを始めるときにはいったん脇に置いて、この場でしか聞けない話をどう聞き出せるかというところに集中します。

――唐橋さんのエネルギーの源泉を教えてください

やはり視聴者の方々からの声でしょうか。東日本大震災の1年後に、浪江町から中継をしたことがあります。報道番組の締めの時間帯だったのですが、「最後に一言まとめをお願いします」と言われたときに、想いが溢れすぎて何もまとまらず、スタジオ側に切り替えて終わってしまったことがあります。プロとして失格だなと本当に落ち込んだのですが、視聴者の方から「いろんな感情がわきあがって何も言えなかった気持ちがわかります」とお便りをいただいたんです。それでとても救われましたし、こうして頂く言葉の1つひとつが私のエネルギーになっています。

今回のテーマである事業承継には、計り知れないご苦労があるとは思っています。私の仕事から重ね合わせて言えることは限られているのですが、やはり本当に相手のことを想像してリスペクトして、わかり合うこと、つまり共感力があらゆることの基本として大事だと感じます。それを事業承継の場面でも大切にしていただけたらと思っています。

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