大人気の美容サロンA・SALONとのコラボレーションで高すぎる新作を発表し、話題をさらったKIHEITAI HOMME。建設作業着をスーツにアップサイクルしたシリーズは、ECサイト限定で売り出したわずか数分後に完売した。

「大量生産して大量廃棄する。そんなブランドの服を着るの、僕は嫌だね」

いつにもまして、 高杉晋作CEOの眼光は鋭い。

「アップサイクルはKIHEITAI HOMMEとして今やるべきことだった。レジ袋が有料になったりストローが紙になったりして、普通の生活に少しずつ環境への意識は入ってきてる。好きな服を買うことが少しでも地球のためになるなら、高くても買ってくれるタイミングなんですよ」

近年のファッション業界は、廃棄物をいかに削減するかが共通課題だ。服のもとになる布地は、製造する時に大量のエネルギーを使用し、化学物質や温室効果ガスなどを生成する。現在、世界のCO2排出量の約10％はファッション業界が占めており、これは農業と同等の数字なのだ。

「毎年どのくらいの服が生産されているか知ってます？1000億着以上だって言われてる。いくら何でも多すぎるでしょ。誰かのクローゼットを豊かにするのは素晴らしいことだけど、同時に日の目を見ないまま埋立地に送られる服の山が生まれてる。誠実に服づくりをする人間なら、一度はこの事実を前に挫折するんです」

高杉CEOもコレクションの発表を見合わせたことがあった。再開のきっかけとなったのは、地元の同級生から大量にデッドストックの建設作業着を譲り受けたこと。

「国内の小さな素材メーカーの地味な作業着だったんだけど、触ってみて驚きました。生地がしっかりしていて撥水加工もしてある。伸縮性や耐久性は抜群。素材として見たら超優秀なわけ。何十年も真面目に素材と向き合ってこないと、あそこまでの品質にはならない。背筋が伸びましたね。行き場のない寡黙な魂をどうにか、KIHEITAI HOMMEで昇華したかった」

機能性に特化した建設作業着を何にアップサイクルするか。心は決まっていた。

「絶対、スーツ。ずいぶん前からスーツは二極化が進んでいて、どこにでもあるジャンクなファストフードみたいなフォルムか、ミシュラン三つ星レストランみたいなちょっと面倒くさそうなフォルムしかなかった。理念は三つ星のほうが好きだけど、やっぱり堅苦しすぎる。僕はストリートで着るようなスーツをつくってみたかったんです」

早速、KIHEITAI HOMMEの若手デザイナーやパタンナーを集めて制作に取りかかったが、思わぬアクシデントに見舞われてしまう。

「在庫管理を手動でやっていたから、現場の作業量が膨れてしまって。僕はみんなに、忙しくても絶対に違うジャンルに足をつっこめって口を酸っぱく言っててね。実家に農作業を手伝いに行くとか、剣術を習うとか何でもいいんだけど。アトリエに籠るだけじゃ発想が貧しくなるから。その時間も全然取れなくなっていた。それですぐに在庫管理アプリを入れました」

アプリ導入の際は混乱もなく、現場には再びクリエイティブに没頭できる余裕が生まれた。そんな中で出てきたアイデアが、ジェンダーニュートラルなスーツデザインだという。

「人を選ぶ偉そうなスーツは嫌だったんでね。性別を問わずサイズを選べるような自由なスーツ。なおかつストリートで映えるスーツ。期待以上のものができたと自負してます。街でクールに着こなしてる若い人を見るのは最高の気分だよ」