2年前に発売されたビジネス書『五箇条の広告文』は、広告業界のみならず様々なビジネスパーソンから読まれるベストセラーになった。
「売上拡大のボトルネックは市場や競合にあらず、自社組織にあり」
はっきり言い切るのは、広告代理店アドキドエージェンシーの桂小五郎社長だ。『五箇条の広告文』を書いた木戸孝允その人である。
「経営者にかぎらず、あらゆるビジネスパーソンの悩みの原因は、自分の属する組織内にあるケースが多い。それは見つかりづらい腫瘍のようなもので、放っておくと重篤化する。だからこそ、早期発見が重要なのです」
企業のクリエイティブやマーケティングを手がける桂社長は、クライアントの経営陣と日常的に接してきた。その中で、明確に良い組織とダメな組織があると気づいたという。
「ダメな組織は、打ち合わせの場に上下関係が存在しています。縦割りがガチガチに強固なんです。意思決定者の顔色を窺いながら話し合うから、議論が活性化することはほとんどない。逆に良い組織は、横並び。全員が意思決定者のように発言します。成功したプロジェクトはだいたいそうでした」
一人の意思決定者が場を支配する場合、他のメンバーは発言にリスクを感じ、追従してしまう。重大な戦略決定が行われる会議であればあるほど、その傾向は強まり、誰もリスクテイクしなくなる。
「なぜリスクを取れないか。それは自分が組織の一員にすぎないと考えているからです。でもね、その考え自体が間違いなんです。プロジェクトを組織のものと位置付けてしまった途端、自分が関わった感覚が薄れる。すると達成感が得られず、どんどんつまらない仕事に変わっていく。だからどんな立場であっても、すべてのプロジェクトに意思決定者、つまり経営者として参加するべき。それさえ徹底できれば、組織はもっとドライブできる」
組織は変えられないから環境を変えろと言われ続けてきた日本社会だが、組織>自分という方程式を逆にすればいい、と桂社長は語る。
「マインドセットって実は簡単で、俺は経営者なんだ、と思うことからすべてが始まるんですよ。思考が行動を、行動が現実を、現実が未来を変える。これまで言われていた通りです。『五箇条の広告文』で提示したのは全員が経営者たれ、ということ。組織の威があるなら借りればいい。ただ、その中でどれだけ自由演技をできるのかが、ビジネスパーソンが面白く生きるコツです」
独立した個が集まることが組織を強くする。アドキドエージェンシーでもこの組織論は実践されている。
「全員が大なり小なり経営者マインドを持って仕事してますね。われわれの仕事はチームプロジェクトが多いのですが、自由に動き回っている“経営者たち”をアサインするのは、以前は大変でした。今はタスク管理アプリやビジネスチャットを導入して業務進行を見える化したので、大きな問題はなくなりました。自分で仕事を動かす手応えがあるので離職率も減り、業績は右肩上がりですよ」
全員が経営者マインドで仕事をする組織を可能にした「タスク管理アプリ」とは?アプリの導入の経緯とその効果について聞きました。
――導入に至った背景を教えてください
中小機構の経営管理者養成コースに通って、経営全体を見る広い視点を学びました。その時に培った知識を集約したのが『五箇条の広告文』です。ドライブする組織の条件とは、全員が経営者マインドであること。そのために並行するプロジェクトを一覧化し、共有できるアプリが絶対に必要でした。
――導入の効果はいかがですか?
非常に役立っています。タスク別に進捗がひと目でわかり、自分のプロジェクトとして主体的に関わりやすくなった。私はタスクの偏りだけ注意して見ていますが、みんなうまいことセルフマネジメントして経営を回してますね。アプリ導入後は有給消化率も100%になりました。
――御社らしい使い方の例を教えてください
無駄な会議の防止でしょうか。普通の会社だと経営陣と現場って分断されてて、特に経営陣っていつどこで何をしているかわからないでしょ?(笑)。我々の会社はアプリで一目瞭然。みんな対等な者同士なので、誰かの顔色を伺う会議を設定しなくていい。人間関係がフラットになって、風通しが良くなりましたね。