経営に役立つ中小機構の事業紹介:事業継続力強化計画編(前編)

2021年12月27日 12時00分 公開

取引先から「BCP(事業継続計画)はありますか」と問われて、「しまった、つくっておけばよかった」と後悔することはありませんでしたか。「必要性はわかっているけれど、あらゆる事態を想定した検討はなかなか難しい」と思われる方も多いことでしょう。中小機構では日々の経営に忙しい中小企業・小規模事業者の皆様が簡単に取り組めて、しかも防災・減災に実効性のある事業継続力強化計画策定のサポートをおこなっています。自社の取り組みだけでは災害時の事業継続に不安がある事業者の皆様には、他社との協力連携網をつくるような支援も可能です。中小機構の相談対応・策定支援は無料でおこなっていますので、「いざという時にも強い」企業づくりのためにお役立てください。

※お話を伺った方:中小機構中小企業アドバイザー 小沼耕一さん

■自然災害が多発する日本で「想定外」に備える重要性

「あの豪雨の時には」「あの震災の時は」といった話が身近に聞かれるようになりました。日本は本当に自然災害が多い国です。経営をしていくうえでは、万一起こった時に「想定外でした」では済まされません。実際、自然災害によって困ったこととして、「役員・従業員の出勤不可」「販売先・顧客の被災による売上の減少」「上下水道、電気・ガス、通信機能途絶による事業上の損害」などが上位にあがります*1。たとえば出勤できない時にはどう行動するべきかを従業員全員が認識しているか、何かあった時のことを考えて販売先や供給先のルートを複数持っているかどうかで、対応のスピードが変わってきます。

中小機構では、緊急事態が起きても経営を続けるための備えとして「事業継続力強化計画」づくりを支援しています。「事業継続力強化計画」はBCP(事業継続計画)の一歩目と位置付けるもので、防災・減災を図ること、何か問題が起こっても早期復旧ができるようにすることを目的とした実践的な計画です。

今後「首都直下地震」「南海トラフ地震」などの大規模地震をはじめ、近い将来各地で地震や豪雨などの激甚災害が発生する可能性が指摘されています。災害は決して他人事ではありません。近年の災害を見てみると、2018年7月の西日本豪雨では被害総額約1兆940億円、中小企業の被害額は約4,378億円といわれています*2。水害による直接被害だけではなく、サプライチェーンの寸断、生産物の出荷・流通停止など、小売業や運送業、インフラ関係にも広く影響が及びました。また2018年9月の北海道胆振東部地震では、日本で初めてブラックアウト(北海道全域での停電)が起きました。つまり、震源地からは離れた地域でも事業継続に支障がでる事態になったわけです。

【自然災害による被害と近い未来に発生が見込まれる災害】自然災害による被害と近い未来に発生が見込まれる災害PDFで閲覧

2020年1月に日本国内でも初めて確認され、現在まで続く新型コロナウイルス感染症の拡大も、別の観点での緊急事態です。事業活動が停止した時の資金繰りの対策に奔走した方もいることでしょう。また、事業継続に影響した例として、事業所が狭くて十分な距離をとれずに感染が拡大してしまった例、在宅勤務を拡大した時に情報漏洩が起きてしまった例などもありました。事業継続力強化計画では、こうしたリスクをヒト・モノ・カネ・情報の側面から洗い出して対策を考えていきます。

  • ・ヒトに関するリスクの例…従業員の死傷や感染により出社ができない等
  • ・モノに関するリスクの例…建物や設備の損傷、職場環境の換気不備、ライフラインの停止、サプライヤーの事業活動が停止した時の影響等
  • ・カネに関するリスクの例…事業活動停止と資金繰り、固定費の支払継続負荷等
  • ・情報に関するリスクの例…サーバー損傷によるデータ消失、ネットワークやセキュリティの不備による情報漏洩等

■求められる対策

過去の自然災害において事前の備えがなかった企業は、備えていた企業と比べ事業再開まで約3倍の期間を要しています。1週間以内に営業を再開した企業で取引先数が減少したのは約2割弱でしたが、営業再開までに半年を超えると6割を超える企業で取引先数が減少しています*3。復旧期間が長引くほど雇用の維持や取引先との関係継続は難しくなっていきますので、早期に復旧できる準備は重要です。

被災した企業が復旧・復興に最も役に立ったものの上位は、「損害保険」「公的機関の相談窓口」「国・自治体の補助金」という順でした*1。しかし「実は使えない保険プランだった」「火災保険には入っていたけれども水災には適用できなかった」といった事例も聞かれます。ハザードマップ等から想定災害を確認し、経営に与える影響や対策を検討したうえで保険に加入する必要があります。さらに、今加入している保険を定期的に見直すといったことも重要になってきます。

【被災した企業が、復旧・復興に最も役に立ったもの】被災した企業が、復旧・復興に最も役に立ったものPDFで閲覧

ではどのようにしたら実効性の高い計画をつくっていけるのでしょうか。中小機構では、企業が次のような順で事業継続力強化計画の検討を進めていただけるよう、フレームを提供しています。

  1. Step1:目的の検討:自然災害時や感染症拡大時にどういう状態を目指すか等を方針に定める等
  2. Step2:災害リスクの確認・認識:ハザードマップ等を活用して、自社の人員・設備・資金・情報へのリスクを洗い出す等
  3. Step3:初動対応の検討:安全確保に対する具体的な対応基準を書き出す等
  4. Step4:ヒト・モノ・カネ・情報への対応:代替策、バックアップ、リスクファイナンス面を洗い出し対策を定める等
  5. Step5:平時の推進体制:マニュアル共有や教育・訓練などで全員に周知する、定期的に計画をブラッシュアップする等

検討すべきリスクには、全脅威に共通するものと、災害・脅威の特性によって検討すべきものがあります。たとえばリスクファイナンス、緊急時体制などは、すべての脅威に共通して考えるべきものです。一方、地震対策としては建物の倒壊対策や津波対策、豪雨時の洪水対策としては機械設備の浸水、感染症対策としては在宅勤務の環境整備など、異なる種類の対策も必要です。「事業継続力強化計画」の申請にはチェックリストも含めていますので、そうした観点も参考にしながら抜けもれなく考えていただくとよいでしょう。

■「事業継続力強化計画認定制度」とは

「事業継続力強化計画認定制度」は、中小企業が策定した計画を、国(経済産業大臣)が認定する制度です。認定を受けた企業は、税制優遇や金融支援、補助金審査等の加点などの支援を受けられます。また、国のホームページに事業者名が掲載されるとともに、認定ロゴマークも使用できます。

事業継続力強化計画を策定することそのものの効果として、社内の意識改革面では次のような声を聞くことがあります。

  • ・全員参加で推進することで、「自らが考え、動くことができる」従業員が育ってくれた
  • ・「人命を守る」活動の重要性が浸透して、平時におけるコミュニケーションが活発になった

ロゴマークを名刺やホームページ、説明資料等に載せることで、取引先からの信用が高まったという声もあり、対外的な認知やその効果としては、次のような声も聞かれます。

  • ・遠隔地の企業や組合等と災害時連携協定を締結したことで、結果的に未開拓であった地域の市場を開拓し、販路拡大につながった
  • ・「災害が起きても安心な企業」との評判が地域に広がることで、採用の応募が増えた
  • ・資金繰りや多能工化等の対策を進めることで、事業展開の選択肢が広がり、結果、新規事業に投資することができた

さらに我々が重視しているのは、計画策定済企業の継続的な取り組みです。BCP最初の一歩目とご紹介した通り、計画策定をしたあとにも実効性を高めていくことが緊急時には役に立ちます。最初の申請時にすべて完璧であることを求めるものではありません。従業員と定期的な訓練をするなかで気づく改善点もあるでしょう。自社だけでは事業継続が困難であり、連携先を探す必要性を認識することもあると思います。そのため、隣り合う企業や関連する企業と協議すべき点が出てくるかもしれません。計画策定済企業へのフォローアップ支援も行っていますので、ぜひ継続的な向上に活用していただければと思っています。

【事業継続力強化計画認定制度の概要】事業継続力強化計画認定制度の概要PDFで閲覧

<ご案内:事業継続力強化計画認定制度についてはこちらをご覧ください

出所
*1:中小企業庁、2019年版「中小企業白書」三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「中小企業の災害対応に関する調査」(2018年12月)
*2:中小企業庁「平成30年度中小企業等強靭化対策事業テキスト」https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htmならびに国土交通省「平成30年7月豪雨における被害額の概要」中小企業庁「中小企業白書2019」
*3:中小企業庁「平成30年度中小企業等強靭化対策事業テキスト」https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm

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