経営に役立つ中小機構の事業紹介:事業継続力強化計画編(後編)

2021年12月27日 12時00分 公開

前編の記事はこちらからご覧いただけます。

いつ何どき起こるかわからないのが地震、豪雨などの自然災害や感染症。いざという時を想定してつくっておきたい事業継続力強化計画について、前編ではご紹介してきました。ここからはさらに、連携型の事業継続力強化計画について見ていきます。あらかじめ災害時の協力について、近隣の企業や離れた地域にある関連企業等と簡単な取り決めを作っておくだけで、緊急時の対応力が大きく変わることもあるでしょう。ぜひ他社連携という発想も、事業継続力強化の際には考えてみてください。

※お話を伺った方:中小機構中小企業アドバイザー 小沼耕一さん

■連携型の事業継続力強化への取り組みとは

中小機構が支援を推進している「事業継続力強化計画」には、「単独型」と「連携型」という2つの入り口があります。「単独型」とは自社単独で計画を策定していくものですが、「連携型」は複数の企業や組合等が連携して策定・申請するものです。

たとえば、もしも災害で生産停止した時に、サプライチェーン全体で代替品を融通する仕組みがあれば当座をしのげる可能性があります。感染予防対策の時には商店街の店舗同士、隣接する企業同士、あるいは同じ業界の企業同士が一体となって対策を徹底することが有効かもしれません。連携型の事業継続力強化計画では、自然災害や感染症に備えて次のようなリスク対策を検討していくものです。

  • ・感染予防:相互の情報収集と発信による対策徹底、衛生用品の共同入手等
  • ・従業員管理:相互の適切な情報提供による安心感、従業員の働く場確保(企業間の助け合い)等
  • ・売上維持、向上:連携参加による顧客の信頼増、共同による市場開拓、集客、接客方法改善、新商品・新サービスの共同開発等
  • ・商品、材料の確保:代替業者、代替品の紹介等
  • ・運転資金の確保:支援情報などの入手精度向上、基金などの資金蓄積等

連携の仕方としては、大きく4パターンがあります。

  • ・組合等を通じた水平的な連携
  • ・サプライチェーンにおける垂直的な連携
  • ・地域における面的な連携
  • ・相互補完・成長を志向した企業同士によるお互い様連携(認定申請書上の分類では「その他の連携の態様」区分)

【連携のパターン】連携のパターンPDFで閲覧

たとえば組合型の取り組みとして、石川県の工業団地で操業する53社が加盟している旭丘団地協同組合をご紹介します。ここは組合の青年部主導で共通の防災マニュアルを設定したり、全社参加の防災訓練を実施したりしています。さらに、過去に油が流出して周辺農地にダメージを与えてしまった経験から、連絡体制の完備、オイルフェンス・マットの共同購入なども進めています。

また、地域型の取り組みとして、「仙台港自動車関連産業復興グループ」7社で連携型の事業継続力強化計画に取り組む宮城県の新生自動車工業株式会社をご紹介します。もともと、東日本大震災でのグループ補助金を活用した時のつながりが継続していましたが、BCPについては各社それぞれで策定していました。しかし個別のBCPではいざ災害が起きた時に、相互の助け合いや地域連動が起こらない可能性があります。そこで連携型の事業継続力強化計画を策定するとともに、共同の勉強会、保険や資金調達に関する情報共有、全従業員に「携帯カード」を配布するなど、グループ内の協働活動に取り組んでいます。

■連携の効果は事業拡大にも及ぶ

また相互補完型・成長型の例として、他県の同業他社との非常時の連携体制に取り組む愛知県の株式会社近藤印刷をご紹介します。同社の場合は、まず単独型で計画をたてて認定を取得し、さらに連携型へと進化させています。もともと自社が火災を起こしてしまったという苦い経験があり、事業継続力強化への意識を持つようになりました。火災当時に近隣の同業他社の協力を得て事業継続ができたため、連携の重要性が身に染みたとのことです。さらに地域一帯が被災してしまった時のことを考え、地域を超えた相互補完の体制を具体化させました。

他地域の同業他社と代替品生産の連携をしたいと思っても、ネットワークがないとそう簡単には見つからないと考える事業者もいることでしょう。中小機構では、無料のビジネスマッチングサイト「J-GoodTech(ジェグテック)」を通じて連携先を見つけ、連携型の計画を策定するところまでサポートしています。

実は連携の備えをすることは、災害対策だけの効果にとどまりません。岡山県で金属プレス加工を営む株式会社賀陽技研は、災害時に納品を止めないことが顧客を失わないために重要だという思いから、他県の中小企業2社と「お互い様連携」を締結しました。被災した時には連携先に金型を持ち込み、生産活動を継続する取り決めです。さらに相互に技術理解が深まったことから、共同での技術すり合わせや展示会への出展などをはじめることになりました。将来的には繁忙期の相互生産依頼や海外展開時の協力も考えはじめたとのことで、事業拡大への効果も生まれはじめたのです。

■事業承継にも役立つ事業継続力強化の計画策定

事業継続力強化の計画策定を、後継者候補に任せる事例もあります。計画をつくる際には経営状態や取引状況、従業員の実態などを広く押さえる必要がありますが、それはすべて、経営者が把握しておくべき情報です。仕入れ先の代替策として他社情報を得るなかで目利き力もあがるかもしれません。また、販路や納入先の状況によるリスクシミュレーションなど、大局的に考える視点も必要になります。こうした過程が、事業承継の準備としても活用できるのです。

■気軽に活用できる専門家への無料相談

おすすめしたいのは、あまり自社内で抱え込まずに中小機構の専門家を積極的に使っていただくことです。策定支援については全国100人以上の専門家がおり、個別の派遣型支援も柔軟に対応しています。問題意識さえあれば、何も着手できていない状態で相談に来ていただいてもまったく構いません。「つくらないといけないけれど、考えるのが大変で」「周辺企業とBCPを検討したいけれど、なかなか音頭をとる人がいなくて」と思ったままにすると、1か月、2か月と放置されてしまいがちでしょう。第三者である専門家が関わると、どこから検討したらよいか、どのように進めていったらよいかの糸口が見えやすくなります。

事業継続力強化支援事業では、事業継続力強化計画策定のための専門家への相談、計画を学ぶためのセミナー・シンポジウムなども無料でおこなっています。認定マークをとることで取引先が広がったり、連携型の取り組みがきっかけで販路拡大できたりした事例も実際に出てきています。ぜひ事業継続力強化計画づくりをきっかけに、経営のさらなる強靭化を目指してください。

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