気鋭のファッションブランドKIHEITAI HOMMEとのコラボレーションの熱狂が冷めやらぬうちに、A・SALONの広岡浅子社長は次なる一手を打ち出した。

「シェアオフィスを間借りして、サロンをやろうと思っています」

シェアオフィスはここ１〜２年で急増している。働き方改革やIT化が進み、ワーケーションという概念も広まってきた。しかし、シェアオフィスを美容サロンが間借りするのは前代未聞だ。

「私はずっと美容サロンの存在意義を考えてきたんです。お客様はサロンに何を求めて足を運ぶのか。新しい自分と出会える楽しさ、期待感だと思った。簡単に言えば気分転換ですよね。それって、シェアオフィスを利用する人の気持ちに近いんじゃないかと。通勤するオフィスでは得られない出会いや刺激、解放感。それを同じ空間でサロンが提供できたら、面白いシナジーが生まれる気がしたんです」

広岡社長の顔は生き生きとして明るい。すでに関東近郊のシェアオフィスと契約し、間借りサロンの準備を進めているところなのだ。

「美容業界ではシェアサロンがトレンドになっています。美容師は大手で長年下積みをして独立開業を目指すのが一般的でしたが、時代は変わり、独立のハードルも下がった。最近は複数のサロンに勤務したりと働き方自体も多様になっています。若手のサロンスタッフの関心も高いですが、雇用が安定しないのがネックなんです。であれば、不安定要素を会社が引き受け、若手が安心して自分の力を試せる場所を作りたいと思いました」

シェアオフィスでの間借りサロンを、独立開業のはじめの一歩に。次代の美容師ひいては経営者を育てる使命感の強い広岡社長ならではのアイデアである。

「早く独立したいという気持ちを持つことは重要です。成長につながりますから。でも何のシミュレーションもしないまま独立するのと、新しい場所でお客様との関係を一から築くことや、店舗をどう運営していくかノウハウを得てから独立するのとではスタートダッシュに違いが出る。スタッフから希望を募りヒアリングをしている最中ですが、みんなとても意欲的です。こういう機会を待っていたんだなと改めて感じましたね」

間借りサロンを担当するスタッフは、タオルクリーニングやスタイリング剤の選択、予約や売り上げの管理まで全て一人で受け持つことになる。

「今はあらゆることを予約管理アプリで一元化していますから、一人で行う業務の省力化はできています。ただ、自分のお店だという意識が強くなると、これまで見えていなかった、気にならなかった部分が突然浮かび上がる。タオルはもっと薄手のほうがスペースを取らなくて使いやすいとかね（笑）。そういう小さな課題を一つずつ自らの手で解決していくプロセスを経ることで、自分の城を持つ夢に近づいていく」

女性の経営者を増やすことは広岡社長の積年の思いなのだ。スタッフの自己実現のために、会社として援助を惜しまないつもりだという。

「間借りサロンは、これまでとは異なる客層になるでしょう。接客にも工夫が求められますよね。接客は営業ではなくお客様とのコミュニケーションですから、その意味でも徹底したデジタル化を行い、スタッフがより創造的な業務に集中できる態勢を整えたいです」