顧客満足度を上げ続けてきた二人の経営者は今、社員満足度を高めるために奮闘しています。株式会社ヒメドットコムの篤姫社長と、A・SALONの広岡浅子社長にお話を伺いました。
――お二人とも、それぞれの分野の顧客満足度調査で非常に高い評価を受けていますね。ヒメドットコムが運営するECサイトは、メディアでも取り上げられています。
篤姫社長:ありがとうございます。
広岡社長:大奥スペシャルサイト、私も好きでよく見にいくんです。自立し、人生を謳歌している女性たちがたくさんいて、彼女たちのコラムを読むと元気が出ます。
篤姫社長:大変光栄です。サイトに体験談を寄せてくださるのはもともと会員だった方が大半なのですが、酸いも甘いも噛み分けた百戦錬磨の方ばかりで(笑)。お悩み相談コーナーは1日に何万もアクセスがありますね。
広岡社長:コミュニケーションのあり方が多様になる一方で、孤独感を抱える女性たちも大勢いますよね。彼女たちの「寄り添ってほしい」というニーズを上手に満たしているサイトだと思います。
篤姫社長:私、広岡さんにお聞きしたいことがあったんです。
広岡社長:何でしょう?
篤姫社長:昨年から、全社休業日を定めていらっしゃるとお聞きして。
広岡社長:もともと美容サロンは火曜が定休日のところが多いんです。土日にお客様がいらっしゃるので。さらにゴールデンウィーク、夏休み、お正月など世間が長期休暇の時に稼働しなければいけない。美容師の宿命だと思ってきましたが、思いきって休みを増やしてみても、お客様の不満にならないのでは?と考えたんです。
――美容サロンとしては大きなご決断ですね。
広岡社長:勤怠管理アプリのデータを見ていると、同じ土日でも給料日前の週は来店者数が少なく、接客時間が短い傾向にありました。お客様は交際費の中からサロン代を捻出している人が多いからでしょう。ためしに、その土日を全社休業にしてみました。
篤姫社長:スタッフのみなさんの反応はどうですか?
広岡社長:「土日休みに慣れていなかったので出勤しそうになった」と聞きました(笑)。ですが友人や家族と休みが合うので、リフレッシュできるようです。懸念されていた売り上げにもほとんど影響はなく、給与を減らすことはしていません。店長会議でかならず全社休業日を話し合うようになりましたね。
――それまで休業日は店長に一任していたのですか?
広岡社長:はい。今も基本的には一任しています。ただ、やはり売り上げを出そうとか社内評価を上げようという気持ちが強すぎて、休業しない店も出ていました。成果を求めるのは悪いことではありませんが、他の店にも波及すると結局、誰も休めなくなってしまう。
篤姫社長:あえて休みを取らせるわけですね。
広岡社長:無駄な競争心を捨てさせたかったのです。仕事は人生の大半を占めますが、すべてではない。さまざまな業界で燃え尽き症候群が話題になっていますよね。どんなに好きなことでも、休養は必要だと思います。
――篤姫社長も、社員に積極的に休んでもらうための取り組みを行っているそうですね。
篤姫社長:コンシェルジュたちは複数のお客様に対応します。お客様の人生に伴走する面がありますので、精神的な疲労感は大きい。そこで月2回のノーアクセスデーを推奨しています。
広岡社長:全社休業と似たような制度でしょうか?
篤姫社長:そうですね。まず月初めにコンシェルジュが自分でノーアクセスデーを設定すると、お客様にも自動的に通知されます。以前は個別にやりとりしていましたが、顧客管理アプリと紐づけ、通知機能を使ってそのお知らせが届くシステムにしました。さらにコンシェルジュには3万円が支給されます。リフレッシュになるのであれば使い道は自由。みんな気兼ねなく休めるようになりました。
――なるほど、休むと得をする制度なのですね。顧客エンゲージメントも社員エンゲージメントから、ということでしょうか。
篤姫社長:その通りです。利益の前にまず、会社としての人格が問われる時代ですから。お客様に幸せを感じてもらうには、社員が幸せであることが大切ではないでしょうか。
広岡社長:BtoCの中でも私たちのようにお客様と直接接する仕事は、社員の幸福度が提供するサービスの質に直結します。社員は、会社が自分たちを大事にしてくれるのか、経営者が悩みや要望に応える姿勢があるのかをよく見ています。顧客の心をつかみたいなら、まず社員の心をつかむことが重要ですね。