慢心にご用心。防災意識は、企業経営の試金石だ。

2021年10月11日 12時00分 公開

シブボウ株式会社は、祖業である藍染の技術を活かした商品開発や他業種とのコラボレーションにも力を入れ、順調に事業拡大を続けてきました。しかし、地震による自社工場の火災被害を経験。一時は経営が火の車に陥りますが、奇跡の大復活を遂げました。リカバリーを成功させたのは「広い関係での防災力の強化」。そう断言するのは渋沢栄一社長です。

――地震被害だけでなく大きな火災を経験なさったのですね。

渋沢社長:工場はほぼ全焼に近い状態でした。近くにあった従業員用宿舎も被災し、避難指示も出ました。従業員のみならず、近隣住民の方にも多大なご心配をおかけしてしまった。地元消防隊のみなさんの昼夜を問わない消火活動のおかげで自社工場以外に火災は広がらず、胸をなでおろしましたね。

――震災前からBCP(=事業継続計画)の策定は計画されていたそうですが。

渋沢社長:地震を想定したリスクマネジメントは行ってきましたが、火災対策に脆弱性があったと痛感しました。対応マニュアルが工場によって微妙に異なり本社との連携が思うようにいかなかったこと、従業員への周知不足があったことなど、改めて課題が浮き彫りになったのです。被災した工場では新商品のサンプルの製造を行っていたのですが、代替機能をどの工場に移すか、従業員たちをどう再配置するかも明確化しておらず、その後の調整はひと苦労でした。

板垣退助

――その後すぐにBCPの策定に取り組まれたのですね。

渋沢社長:もちろんです。複数の自社工場と本社でマニュアルを一本化し、被災時の報告フォーマットもシンプルにしました。緊急対応時に一から報告書を作成することはできませんからね。ハザードマップについては、どのような自然災害がどの区域にどんな危険を及ぼすのかを洗い出し、従業員にも共有しました。工場の耐震性や耐火性についても調査しましたが、懸念されていた富岡市にある製糸場は意外にも堅牢でしたね。

――その頃から「同業他社と連携した防災」を想定していたのですか?

渋沢社長:自社のBCP策定を完成した時には、被災の教訓を活かしてより災害に強い体制を構築したいと考えていました。中小機構の支援アドバイザーに相談したところ、同時に被災するリスクが抑えられる他県の同業他社との連携を勧められたのです。

――同業他社での連携とは、具体的にどんな協力体制ですか?

渋沢社長:規模や機械などが同等レベルの設備を持つ数社が集まってグループをつくり、緊急事態の際は代替生産を行う体制を整えました。ただ、同じ繊維工場と言っても得意分野は異なるのです。私たちは藍染、ある会社はリネンといった具合に。そこで、通常の製造ラインとは別に、災害発生時に稼働できる臨時ラインを新たに整備しました。

――同じ組合と言ってもライバル企業ですよね。連携はスムーズにいくのでしょうか?

渋沢社長:ライバルをどう定義するかによります。確かに私たちはものづくりに妥協しない職人魂がある。こだわりがなければ品質は保てませんから。そういう意味ではお互いが良き競争相手です。だが同時に、繊維業界を盛り上げ、日本社会の発展に貢献したいという気概もあるのです。連携企業が納得できるゴールを設定すれば、良好な関係は築けます。

MINKENの実店舗

――グループでは非常にユニークな仕組みを導入していますね。連携企業内で防災力をランキングしているとか。

渋沢社長:よくご存知で(笑)。もともと、収穫された藍に大関や関取といった番付をつけ、栽培農家が切磋琢磨して競争力を高め合えるようにしていました。それを応用したんです。年に一回、各社の防災能力を番付表にし、上位になった企業には自社の優れた防災対策を披露してもらう。防災意識へのモチベーションをキープできると好評で、番付発表はなかなか盛り上がりますよ。

――自社の事業にも良い影響があったとお聞きしています。

渋沢社長:連携型事業計画の認定が信頼材料となり、受注がスムーズに決まったのです。これがV字回復のきっかけになりました。取引先企業はどこも、事業継続について非常に関心が高い。供給をストップさせず製品の品質を保つシステムがあるのとないのとでは、対外的な信用度がまったく違ってきます。

――災害時の事業継続で悩む経営者も多いようです。アドバイスをお願いできますか。

渋沢社長:大規模災害が頻発するわが国では、防災力の向上が事業継続力と直結します。経営者として自社の利益を守り、従業員の安全を守ることは絶対的使命。地震や火災、洪水などの自然的逆境を予測できないと言って諦めてはいけません。連携を密にして備えを万全にし、正しく恐れることが重要です。私はこのような心得を「大丈夫の試金石」と呼んでいます。一人で抱え込まず、中小機構の支援アドバイザーを頼ってみてはどうでしょうか。

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シブボウ株式会社

渋沢栄一

社会の流れに目を向け、顧客の声に耳を傾ける。
難しいことを、いとも簡単にこなす経営者。

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渋沢栄一