鹿児島を中心に店舗を構える、せごどんPETS株式会社。西郷隆盛社長は、ペットオーナーに愛犬や愛猫とより充実した時間を過ごしてもらうため、新しい商品開発に着手した。

「ペットがもっと幸せに、ながく生きられるように、毎日食べるごはんをアップデートする。人間もそうですよね。薬や病院の前に、普段の食生活を豊かにすることが心身ともに健康でいられる秘訣のはず」

ペットと人の幸せな関係をミッションに掲げる同社は、顧客管理アプリを使って既存顧客のサポートに力を入れてきた。そこで考案したのは、なんと愛犬用のフレンチ料理。

「お客さんにドッグフードの新商品を案内した時にね、『なかなか気に入るブランドが見つからない。家族が食べているものは欲しがるのに』と言われたんです。食卓にある料理を物欲しそうに見る犬を想像したら、なんとも愛らしかった。その時ふと、ペットと家族が同じ料理を一緒に食べるというイメージが浮かんだんです」

ドッグフードの数は1000種類以上と言われ、ほとんどが保存料を添加したドライタイプだ。ホームセンターなどで安価に手に入るが、最近では、人間向けの食品と同等基準で管理された原材料を使ったいわゆるヒューマングレードなドッグフードも支持を広げている。

「健康意識は高まっていて、多少値が張っても安心・安全にこだわったものを選びたいというペットオーナーさんは多いです。ヒューマングレードドッグフードは中身にこだわっていて人気も高いが、見た目や提供の仕方はあまり変化がないと思う。料理ではなく、あくまでドッグフードなのです。私は、人がフレンチを味わう、その体験に近いものをペット用につくりたかった」

しかし、西郷社長にはフレンチに関する知識がほとんどなかった。そこで白羽の矢を立てたのが、予約困難と言われる星付きレストランのchez YOSHINOBUだ。

「徳川さんは和食で有名だったでしょう。それが廃業されて、今はフレンチで星もすぐに付いた。とんでもないシェフがいる、との評判は鹿児島にも広がっていました。だから愛犬用の本格フレンチを一緒につくりたい、と直談判しに行ったんです」

当初は乗り気でなかった徳川オーナーシェフも、西郷社長の度重なる熱いアプローチに心を動かされ、とうとう承諾してくれたという。

「何度も試作を重ねて、お互いが納得する形に仕上げました。もちろんヒューマングレードにこだわり、素材も鹿児島から取り寄せた地鶏や野菜をふんだんに使って栄養バランスにも配慮しています。毎回試食するのが楽しみでしたね」

西郷社長は笑いながら腹をポン、と叩いた。

「話題性も抜群でした。chez YOSHINOBUのコースは、人だってなかなか食べられませんから」

完成した特製ドッグフレンチは、前菜・メインディッシュ・デザートで構成されたまさにコース料理だ。ECサイトで500食を限定販売すると、情報感度の高いペットオーナーたちの間でたちまち評判になり、３日で完売。購入者の口コミ投稿がメディアに取り上げられ、せごどんPETSの名も全国区となった。

1500食つくった第二弾も即日完売した。特製ドッグフレンチによって顧客層は一気に広がり、他のペットグッズへの売り上げにも貢献しているという。もちろん、継続販売を望む声も多く寄せられている。

「本物のフレンチコースと変わらない強気な価格設定だったが、お客さんからは高評価をいただけた。徳川さんも喜んでくれてね。今度はキャットフレンチをつくる予定です」