「今日は何の日か? 工場に笑顔と活気があふれる日ですよ」
元気いっぱいの子どもたちが到着し、がやがやと整列した。工場長が子どもたちに向けて挨拶すると大きな声が返ってきた。勝海舟社長は、にこやかにその様子を眺めている。
株式会社カイシュウフーズが地元小中学校からの工場見学を受け入れ始めたのは、つい最近のこと。
「工場長から打診されたのです。例えば水族館で魚を見て、家に帰って冷凍食品や缶詰を見ても、点と点はつながらない。その中間に工場があると一本線が結ばれるのではないか、と」
勝社長は嬉しそうだ。それもそのはず、就任したばかりの工場長自ら、工場改革の一環としてこのアイデアを実現させた。きっかけとなったのは中小機構の工場管理者養成コースの受講だったという。効率的な工場の管理・運営を行うための基礎力を身につけながら、工場長は自社課題について研究を行った。
「工場見学、大いに結構。子どもたちにとっては命の学習です。自分たちが口にするものがどうやってつくられるのか、プロセスを知っておくのは重要なことです」
子どもたちと一緒に、工場見学をさせてもらうことにした。たっぷり2時間のコース。カイシュウフーズの漁船である咸臨丸から水揚げ・直送された魚が解体される工程はもちろん、具体的な加工作業まで見ることができる。
「今日のグループにもいますが、魚嫌いの子から学ぶことは多いですね。食わず嫌いだったり、鮮度の落ちたものを食べて苦手になってしまったり、個々のストーリーがある。我々の顧客である彼らの親世代には、うまい魚の記憶があまりないのかな。食生活は家庭で引き継がれるので、ネガティブなイメージをどう払拭すればいいのか考えさせられますよ」
クライマックスは実食コーナーだ。子どもたちの期待度はかなり高い。同社最大のヒット商品であるなんちゃって缶シリーズを、代替食品であることを伏せて試食してもらう。工場長が種明かしするわけだが、その反応を見るのが勝社長は楽しくて仕方がないという。
「子どもたちはしがらみも遠慮もない。うまいか、まずいかの二択です。代替魚だとわかった時、彼らは不思議に思うんです。本物の魚がいるのに、どうして?と。重要なのは、なぜ今、代替魚が注目されているのかを伝えること。私たちのまわりにある海や地球が直面する問題を共有するんです」
大人が一方的に教える従来のやり方では、工場から一歩出た途端に知識は薄れてしまう。子どもたち自身が気づき、率直な疑問を口にして話し合う時間があれば、地球規模のイシューも身近になる。
勝社長は、見学を終えて家路に着く子どもたちの姿が西日に溶けていく様子を見つめながらつぶやいた。
「さ、これでおしまい」