中小企業大学校(※)の経営後継者研修を活用した、2名の経営者に話を伺いました。家電業界を今一度洗濯する!を掲げ、経営資源の選択と集中で急成長を遂げる株式会社洗濯と集中の坂本龍馬社長。そして、漁業界の未来のために働き、常に新しいビジネスモデルに挑戦する株式会社カイシュウフーズの勝海舟社長です。時代の荒波を味方につけ順風満帆な二人の悩みの種は、意外にも後継者育成でした。
――お二人ともさまざまなメディアで後継者育成の重要性を訴えていますが、詳しく聞かせてください。
坂本社長:どの業界でも直面している課題だと思います。世界は想像以上のスピード感で動いている。自分の経営メソッドが突然有効でなくなる可能性は常に考えます。会社の拡張性や事業継続を考えた時、後継者の育成は経営者として当然の責任だと思う。それに…いつ自分自身の命に関わる、危険な目に遭うか分かりませんからね(笑)。
勝社長:同感です。何が起きるかわからん世の中ですから。私の業界の話をすると、漁業・養殖業や水産加工業の働き手は減少や高齢化が進んでいる。さらに、海洋環境の変動の影響で水産資源の不足や生産量の落ち込みもある。水産業にかぎらず事業のサステナビリティをどう確立するかを考えた時、課題解決力と経営者視点を持った人材の育成がカギになります。
坂本社長:そうですね。家電はもうどの企業も性能がほぼ同じでコモディティ化が激しい。他社との差異化をどこで図るかは重要で、経営者が舵取りを担うわけですが、みんな創業者でもある僕の意見を尊重しすぎてしまうんです。これでは組織の弱体化につながりかねないと危機感を持ちましたね。
勝社長:それでも坂本君のように一代で成した若い会社は社風も爽快、比較的フレキシブルに対応できると思います。だが同族経営中心の会社や歴史が長い会社の後継者には前任者のバイアスがある。そこから自由になり、自ら考え行動する、実践的な経営を学ぶ機会がもっと必要ではないでしょうか。
――自ら考え、行動する実践的な経営というと?
勝社長:自社の未来を描き、その実現に向け従業員を巻き込むやり方です。そのためにはまず何が必要か? 自社の価値に気づくことなのです。先ほど坂本君が事業継続を例に挙げていたが、並走させている各事業の将来性を見極め、選択と集中をはかるのは簡単ではないですよ。坂本君はまさにロールモデルだね。
坂本社長:師匠に褒められて光栄です。僕はグローバルな視野に立ち、自社そして自分の将来像を明確に描くマクロな視点と、財務に明るく多角的に現状把握ができるミクロな視点、両方を持つべきだと思っている。この2つは車の両輪ですから、一体となって初めて力を発揮します。経営者と言うとトップダウンで、迅速で的確な判断をすればいいだけと思われがちだが、そんなことは当たり前なのでね。
――どうすれば、そんな理想的な経営者マインドを持つ後継者を育成できるのでしょうか?
坂本社長:それが悩ましいところでした。僕は会社の経営陣と話し合い、開発部から将来有望な若手を中小企業大学校の経営後継者研修に派遣したんです。もともとは勝さんにすすめられたんですが、研修カリキュラムを見て決心しましたね。徹底的な自社分析をベースにして、座学での経営スキルの習得からゼミナールによるアクションプランの策定まで、かなり実践的なコースだと思った。それに次代を担う仲間と社外で出会えるというのも魅力を感じて。
――将来有望な若手というと、坂本社長のご子息ですか?
坂本社長:いや、つい先日新婚旅行に行ったばかりなのでね(笑)。姉の娘が開発部にいるんです。5年目でかなり若いんだけど大きなプロジェクトをやっているし、意欲もあるので声をかけました。僕は親族だからといって特別扱いはしない。純粋に本人の主体性と才覚を見て、期待できるなと思った。彼女が後継者として成長してくれたら、僕とは違うやり方で会社をもっと面白くできる。
勝社長:坂本君に、経営ノウハウを家宝のように伝承するだけではだめだ、と話したことがあるんです。それでは坂本龍馬を縮小再生産することにしかならん、自分を超える人材を育てるべきだと。異業種から活きのいい人間が集まる中小企業大学校の研修なら、多様性がお互いの刺激になる。向上心を持つ同志と切磋琢磨するのは素晴らしい経験です。
――なるほど勝社長の導きもあったのですね。研修後、受講者の成長はどうですか?
坂本社長:黒船が来た!と驚きましたよ。今回の研修は10ヶ月だったのですが、見違えましたね。取り組むべき経営課題について、感覚的だった視点が客観的なものに変化し、リーダーシップを発揮できるようになっていた。親族の縁を切るような覚悟で意見を出してくるので、僕も経営方針のアップデートを迫られて大変です(笑)。
勝社長:肝が据わったんだね。経営者にかぎらず、後継者もやはり孤独なんです。私も研修に行ったという人に多く会ったが、皆、経営者の息子や娘であることに責任を感じている。だから葛藤もあるんです。自分自身のポテンシャルに自信を持てなかったり、迷いが出たり。そんな時に腹を割って話せる同じ境遇の同期生が社外にいるのは心強く、励みになるようですよ。経営後継者研修では業種、年代や性別を超えて人脈が広がるのもいいところです。人間的な厚みも増すと思いますね。
――お二人から次世代のリーダーへアドバイスするとしたら?
坂本社長:僕は大企業を脱けて一から起業しました。ビジョンを持っていれば道は拓けるもの。世界には志を同じくする多くの仲間がいるはずです。これから皆がアッと驚く大事業を成し遂げるんだという強い気持ちを持って、挑んでもらいたいですね。
勝社長:誠心誠意、真心を持って相手と向き合うこと。そこからビジネスは始まります。我々はこれまで以上に世界と競争することになる。自分らしいやり方で会社を強くするという心意気、自由な発想で勝負してほしいです。
※「中小企業大学校」は、1962年の開校以来、全国9ヶ所に展開。これまでに延べ70万人の受講実績を持つ。中小企業大学校の研修は、営業や財務などのテーマ別研修、経営者から管理者候補に至るまでの様々な階層を対象とした階層別研修、後継者育成や中小企業診断士の養成まで、幅広い研修を提供。