「IWAKURA TRAVELでは、安さを価値として提供するのをやめます」
宇治茶を差し出しながら、岩倉具視社長はそう切り出した。顧客にとっての最大の魅力である低価格路線をやめるとは、一体どういうことなのか。
「価格というのは相対的なものです。われわれのようなOTA(Online Travel Agent)は、今は大手の旅行代理店に対してアドバンテージがあるけど、終わりなき価格競争はいずれ破綻する。不毛ですよ」
知名度や店舗のないOTAが勝機を見出す他の方法がある、と岩倉社長は確信しているのだという。
「これまで目標にしてきたのは、“日本一使いやすい予約サイトをつくる”ことでした。これからは新たな価値として、サステナブルツーリズムを提供していきます」
IWAKURA TRAVELでは、旅行計画段階で発生する利用者のペインをいかに取り除くかに注力してきたが、そこから一歩進み、旅行体験自体を差別化するのだ。キーワードはずばり、サステナブル。
「ホテルや民宿、民泊のホストと協力して、サステナビリティに貢献する設備や取り組みなどを独自に評価し、“サステナ泊”として設定しています。ただ単にサービスを最小限にした宿泊ではなく、予約すると宿泊先に寄付ができるようにしました。寄付はサステナブルなプロジェクトに使われ、その全容も確認できます」
たとえば、京都のAという民宿はアメニティやタオルの用意がないサステナ泊を一泊9000円で提供する。一般的な予約サイトに比べて割高だが、内訳に寄付額として1500円が表示される。予約者はその1500円を民宿に寄付できたり、地域で活動する環境保全団体へ寄付できたりする。
「旅行者自身が、自然保護のための資金援助に携われるようにしたいのです。観光客として地域を一方的に消費するのではなく、よりよくすることに参加できる。それがサステナブルツーリズムです」
世界中の温室効果ガス排出量の約10分の1は、観光により発生していると言われる。なかなかインパクトのある数字だ。岩倉使節団と呼ばれる営業部の若手が中小機構のウェビーキャンパス※を受講した際、世界の観光業界のさまざまな先進事例を研究し、岩倉社長にレポートを提出したのだという。
「若い世代ほど環境意識が高い。旅行者もそうでしょう。フィンランドにはゲストが滞在中に排出したCO2量に基づいて、支払う宿泊費を変えるユニークなホテルがあります。電気や水の消費を抑えたり、よりサステナブルな食事を選択したりするほど宿泊費が割引される。そんなホテルを日本にもつくれたらいいですね」
自らの強みである低価格競争から降り、持続可能な観光体験を提供するビジネスにシフトすることを決めた同社。サステナブルは重要なテーマであるゆえに、若手もやりがいがあるようだ。
「モノを買うとは、そのモノをつくる企業の姿勢を支持するのと同じ意味になっている。旅行もいずれそうなりますよ」
※中小企業大学校のノウハウが詰まった研修を、web会議システムを利用し、リアルタイムの双方向通信で行います。少人数制のオンラインゼミナールや動画教材を通じて、中小企業で活躍する人材を実践的に育成。少人数制のため、全員がディスカッションに参加することができ、課題解決力が身に付きます。