ストイックで専門的なトレーニングメニューが話題で、アスリートをはじめ多くのプロフェッショナルや意欲的なアマチュアが集まる株式会社フィットネス誠。創業以来、血気盛んな従業員たちは自己鍛錬や会員への親身なアフターサポートで長時間労働が常態化していた。このコロナショックを機に、近藤勇社長は労務管理の刷新に乗り出す。
「勤怠管理アプリを採用しました。タイムカード方式では長時間労働や時間外労働をなかなか把握できない実態があったんです。業務が苦にならない者が多いので、打刻控えもあった。鍛錬には中毒性があり、一線を越えてしまうと時間の概念を自ら無効化してしまう。ある種のワーカホリックが横行していました」
自分たちがヘヴィーなトレーニングを続けることで会員へも無意識的にフィードバックされ、トレーニングメニューがどんどん厳しくなってしまうことも。志半ばでジムを去る会員が後を絶たない状況には心を痛めた部分もあったという。
「ストロングポイントがあるのは悪いことではないんです。意識が高い会員さんが残り、従業員としてはやる気が出る。従業員同士の張り合いもあり、さらにしのぎを削る…と。だが組織というものは、先鋭化しすぎるとわずかな妥協も許されない窮屈さが出てきます。社内的にも対外的にもね。結果的に退会が増え、入会のハードルが高くなるのは経営面からも問題です」
自己犠牲を厭わない従業員たちを誇らしく思いながらも、経営者としての鋭い視座で会社の課題を見抜いていた近藤社長。アプリ導入後は勤怠が自動で集計され、勤怠状況が一目でわかるようになり驚いたという。
「アラートが出ている者をリアルタイムで見つけられます。私の想像以上に、彼らは人生をかけて仕事に取り組んでいるとわかりました。私たちはこの身が資本。有給取得の状況も把握し、健康管理もしっかりせねばと強く思いましたね」
すべてデジタルで管理されることに最初こそ戸惑いがあった従業員たちも、次第に合理性を優先するように意識が変化した。
「トレーニングはそもそも科学的な根拠に基づいてシステマチックなメニューが組まれるものなんです。それを勤怠にもスライドさせるのはむしろ理にかなっている。一人ひとりが、限られた時間を意識しその中で最大のパフォーマンスを上げればいい。合理的な制約は良い刺激になっています」
ストイックさで有名なフィットネス誠の社訓には、新たにこんな言葉が記された。いわく、「休むことをおろそかにしてはならない」。
「無駄を排し、自身と深く向き合う時間が生まれれば事業創出にもつながる。瞑想のクラスをやりたいと申し出た従業員がいるんですよ。素晴らしいアイデアだと思う。今後は心技体のトータルトレーニングを提供していきたいですね」
単なるフィットネスジムにとどまらず、メンタルヘルス分野へ進出をねらう近藤社長。理を味方につけた誠の躍進は続きそうだ。
株式会社フィットネス誠の社訓に追記されるほど重要な勤怠管理。従業員の意識改革にも一役買ったアプリ導入の経緯と、その効果について聞きました。
――導入に至った背景を教えてください
実は、私や従業員たちが通う土方クリニックの鬼先生…もとい土方院長に勧められたんです。土方さんもコロナ禍になってから予約管理アプリを入れて生産性が改善できたそうで。私はまず勤怠管理アプリを試したらどうかと。彼には全幅の信頼を置いていますから即決でしたね。
――導入の効果はいかがですか?
勤怠の見える化は大きなメリットがありました。どこか他人事だった働き方改革のリアルな一歩になったのです。従業員の中には病を抱える者や、身体の弱い者もいる。労務管理を改善できれば、すべての従業員の健康を守る会社としての義務も果たせると期待しています。
――御社らしい使い方の例を教えてください
超過勤務のアラートが出たら、私が「天誅!」と赤字コメントを送るんです。従業員たちはそのコメントが来たら有給を使うなどインターバルを入れなくてはならない。意識的に休み、時間配分は合理的に。トレーニングにもメリハリがつき、会員さんの満足度もキープできていますよ。