三つ星レストランとは、オシャレな場所で豪華な食事を抜かりないサービスで楽しむもの。そんな常識を変えたいと、彼は言った。
「さて、行きましょうか」
chez YOSHINOBUで待ち合わせたはずなのに、どうやら取材は店内ではないようだ。連れて行かれたのは、市街地から離れた農園。都会の喧騒もなく、空気が澄んでいて、のどかと言っていい場所だ。
「見渡す限り、chez YOSHINOBUが提携しているファームです。お客さんはここで新鮮な野菜や果物を自らの手で刈り取り、僕らがその場で調理する。簡単に言えば野外レストランだね」
徳川慶喜オーナーシェフが案内してくれた先には、テントがいくつか用意されている。水場やキッチン、すぐ近くにテーブルとイスなどもあり、小綺麗なキャンプ場のような雰囲気だ。
「以前は豪華な体験と言ったらまったく苦労しない、手間がかからないことだった。でも今はちょっと変わってきてる。湧水を沸かして淹れたコーヒーがどれほど香り高いか想像できます?それにね、晴れの日の大根と雨の日の大根はまったく味が変わるんです」
お客さんがどんな野菜や果物を収穫したかによって、chez YOSHINOBUのシェフが料理を決めていく。食べる前に食材に触れることができ、子ども時代の遠足や林間学校のようなワクワク感が生まれるという。
「自分が口にするものを選ぶことで、生産過程の一部を自分のものにできる。用意されたものをただ消費する時とはまったく異なる満足感を得られます。店では美味しい、と褒められるけど、ここだと自分でも料理をつくってみたい、と言われる。それが嬉しいね」
興味深いのは利便性をすべて犠牲にしているわけではない点だ。料理は“時価”になるが、ネット環境は整えられており、支払いはクレジットカードのほかスマホ決済にも対応している。
「現金は場所を取るでしょ。お客さんは収穫しなくちゃいけないし、僕らも荷物は少ないほうがいい。店に導入しているスマホ決済アプリを使うようにして、お客さんはスマホだけ持ってくればいいようにしているんです」
収穫そして料理に集中できるように、巧みにコントロールされているのだ。
「豊かな自然の前では、僕らの言葉より料理のほうが雄弁です。店と違って、お客さんも開放感の中で自由にふるまい、色々な話をしてくれる。一皿一皿の体験が濃密に、よりクリエイティブになります」
このワイルド版chez YOSHINOBUの人気はうなぎのぼりで、店と同じく予約が殺到しているという。徳川オーナーシェフは今後、港の近くでもやりたいと話す。
「お客さんが自分で漁に出て水揚げするのはどうかな。前の和食店では徳川艦隊って言われるほどいい船を持っていたから。まだ現役ですよ(笑)」
次に取材する時は、海の上になるかもしれない。
chez YOSHINOBUの野外レストランを成功させ、利用者にも好評だという「スマホ決済アプリ」とは?アプリ導入の経緯とその効果について聞きました。
――導入に至った背景を教えてください
スマホ決済もできるようにしてほしい、というお客さんの声に応えた形です。クレジットカード決済は可能でしたが、やはりスマホ決済のほうが手軽なんでしょう。根強い現金主義の人もいるけど、キャッシュレス化は止まりませんね。
――導入の効果はいかがですか?
スマホ決済はいくつもあるけど、すべてに対応できるレジアプリと連携しているので混乱はありません。キャッシュレス決済のうち半数はスマホ決済で、どんどん増えています。予約時に確認されることも多いですよ。使えないと不便で店自体に行かなくなった、という人もいる。
――御社らしい使い方の例を教えてください
野外レストランでも使っていること。どんな野菜や果物を収穫するかで会計が変わってくるんだけど、お客さんはスマホをQRコードにかざすだけで会計が済む。非常に好評ですよ。物理的に財布から解放されると気分がいいみたいだね。