いつ降りかかってもおかしくない、震災や豪雨といった自然災害。災害対策を経営の最重要課題と位置付け、奮闘する2人の経営者がいます。神社仏閣の改修工事などを請け負う株式会社会津組の松平容保社長と、社会のインフラである物流を担う株式会社日本利通の大久保利通社長です。緊急事態に際し事業をどう守り継続していくべきなのか、話を聞きました。
――お二人とも災害による事業の中断を経験されたそうですね。
松平社長:忘れられない経験です。会社は比較的被害の少ない地域にありましたが、震災によって近隣のほとんどの会社がその機能を停止してしまいました。緊急連絡網はあったものの電話もつながらなくて…従業員たちの安否が一番気がかりでした。幸い全員無事でしたが、事務所や改修予定だった神社も被災し、事業再開のめどがなかなかつかず不安でした。
大久保社長:1年ほど前、季節性の台風が威力を増し、急な豪雨が何日も続いた時です。我々運送業の生命線である道路に甚大な影響が出ました。運ぶべき荷物が届かず配送日数に大幅な遅延が生じたり、土砂崩れで道が塞がれて配送不可能地域が発生したりと現場は大混乱。日頃の認識と対策が甘かったことを思い知らされました。
――その被災経験をふまえて、松平社長は「事業継続力強化計画」を行ったとお聞きしました。
松平社長:被災した状況では、一つ一つの判断が重大になります。そのためにも、事前の準備が必要だと実感したので、まずは自社のBCP(=事業継続計画)策定を急ぎました。ハザードマップの確認や、安否確認システムの導入などです。でもそれだけでは十分ではないと感じました。
――というと?
松平社長:自然災害は被害が広範囲に及ぶことも多く、震災の時は周辺の会社と手を取り合うことで早い復興が可能になります。この連携部分をもっと組織化できたら、地域全体が災害に強くなり自社の被害も最小限にできるんじゃないかと思ったんです。そんな時、中小機構の支援アドバイザーから連携型の事業継続力強化計画の認定制度があると教えてもらいました。これだ!と思って、すぐにグループを作りました。
大久保社長:素晴らしいご決断だ。連携型へ移行したのですな。
松平社長:はい。近隣の異業種7社で「白虎グループ」を結成し、連携型の事業継続力強化計画を立てて申請しました。現在は災害に対してより強靱な、地域のための会社連携を目指して活動しています。
――大久保社長も、連携型の「事業継続力強化計画」へ進化させたとか。
大久保社長:えぇ。我々は組合を通してグループを作り、各社のBCP策定を完了させてから連携型へステップアップしました。連携型事業継続力強化計画の認定を受け、認定が誰の目にも見える形となった。これが「錦の御旗」のような効果を発揮し、グループの拠り所になりましたね。緊急事態に対処できなければ、サプライチェーンもろとも共倒れになるという危機感が共有されていたので、各社とも連携には協力的でした。
――松平社長は異業種での連携型、大久保社長は同業組合での連携型ですが、それぞれのメリットを教えてください。
松平社長:地域における面的な連携、情報共有によるアップデートが可能なことです。経営者一人が持っている情報がいかに少ないかということを震災時に痛感したのですが、「白虎グループ」では各種保険や資金調達、政府や県からの支援策などの情報も共有できて、非常に助かっています。
大久保社長:同業者組合で連携する大きな強みは、ドライバーや技術者の派遣を要請できることです。被災して倉庫が壊れた際には、代替運送を頼んだりトラックの貸し出しもできますしね。それから、災害からの復旧で真っ先に必要とされるがれきの片づけなども、組合でうまく連携して対応できます。
松平社長:今、大久保さんが仰ったことは非常に重要ですね。がれきの山、大量の土砂、悪い足場など、その対処から復旧は始まります。初動が大切なんです。私たちは「白虎グループ初動マニュアル」をつくり、従業員への周知を心がけています。
大久保社長:まさに、平時こそ企業防災の要。それは結果的に従業員の雇用を守ることにつながる。我々も、トラックや倉庫管理のメンテナンスといった日常的な設備チェックを強化しています。一見経費が掛かるようだが、備えなしに被災した場合の巨額の損失と比べれば、何てことはない。品質向上にもつながるし、顧客からの信頼も増していますよ。
――今後の展望をお聞かせください。
松平社長:会津地域への社会貢献を考えたいですね。各社のノウハウを持ち寄って、なにか新しいことができればと。改修が終わった神社を借りて、地域の子どもたちや家族向けに災害対策のワークショップを企画中です。
大久保社長:我々は、これまでの水平連携を拡張させ、将来的には全国レベル、業界全体の連携を構築することを検討しています。まだまだ道半ば、坂の途中です。